75話 1ターン40人の洗脳
結局、この日は、お昼にメイド女学院に出勤してから、吉松店長と打ち合わせし、ナギ、信者獲得チームと一緒に、男を重点的に洗脳して回った。
女性の信者獲得にも力を入れたいと思ったが、よく考えてみたら、魔法を開花させるための儀式を、1日に4人までしか行えないので、女性信者を多く増やしたところで、後がつっかえてしまうのだ。
男性信者の獲得に、ナギの魔法は、大いに役に立った。
なにせ、半径10mの異性を誘惑することができるのである。
直径でいえば20mだ。
小学校なんかによくある、25mプールを思い浮かべて欲しい。
直径の長さで、あれより少し短いくらいの長さの、円の範囲内にいる男性を全員、自分の言いなりにできるのだ。
容易に大量の男性信者を獲得することができた。
監視カメラがない、円の範囲外の人間に異常を察知されにくい、逃げられにくい等、いくつかの条件を考慮して場所を選ばなければならなかったが、大体、1ターンに40人くらいの男性を洗脳できた。
洗脳場所を決めたら、ナギに、男たちを誘惑させて、人目に付かない場所まで、一緒に移動させる。
誘惑にかからない女性が混じっていた場合、虜になった男どもに、女性を捕まえさせ、一緒に連れてこさせる。
そこから俺が、ひとりひとり、頭に魔力を注いで、洗脳していく。虜にされた男たちは問題ないので、女性がいる場合は、女性から洗脳していく。
洗脳された者は意識を失うので、1分くらい置いて、洗脳が定着したと思われるタイミングで叩き起こす。
名前や連絡先、職業など、必要最低限の情報を提供させてから、元の場所にリリースする。
この一連の流れを行うのに約40分くらいかかる。これが1ターンだ。
休憩や移動の時間、場所を選定するための時間も必要なので、1時間に1ターンくらいのペースになってしまった。
それを午後8時頃まで行い、追加で325人、洗脳することができた。
内訳は、男性313人、女性12人で、圧倒的に男性が多い。
この数には、途中で立ち寄った交番の警察官も含まれる。
これで信者数は、合計で427人になった。
初期のことを考えると大分、信者数も増えた。
工場の作業員のように、洗脳作業を続けたので、少し精神的に疲れを感じた。
女神様が、以前にチラッと、魔力は『存在の力』だと言っていたが、膨大な魔力があるためか、不思議と肉体的な疲れは一切、感じなかった。
魔力だけは、無尽蔵にあるかと感じるくらい、体中に充ち溢れている。
感じたのは、あくまで精神的な疲労だけである。
「ナギ、今日は、でかしたぞ」
洗脳活動に一区切りをつけて、西園寺クリニックへ向かうハイエースの中で、俺は、隣に座っているナギを褒めた。
いまどき、「でかした」という表現を使う人間は、あまりいないかもしれない。
何となく、昭和の香りのするフレーズだなと、使っていて、我ながら思う。
褒められて、ナギは、エッヘンと、偉そうぶるような表情を浮かべている。
「大ちゃん教祖様は、もっとナギのこと、大事にしても良いと思うっちば……」
「うーむ、そうだな。確かに、今や、ナギは、女神教にとって、欠かすことのできない貴重な人材だな……」
誘惑魔法が使えるうえ、女神スマホのステータス表示でも『暫定の教祖の正妻』となっているしな……。
「そうじゃなくて!!」
俺の言い方が気に喰わなかったのか、ナギが、服の袖を引っ張って抗議してくる。
「もっと恋人みたいに愛情表現して欲しいっちば……、それに……」
「それに?」
「今日の午前みたいなことがあったら、大ちゃん教祖様に、助けて欲しいっちば……」
ナギの大きい瞳が、じっと俺を見据えている。
俺の答えを待っているのだろう。
ナギよ、俺は、お前がクズ女であることを知っている。
それを知ったうえで、善悪の判断を超えて、自分の味方をしろと、お前は言うのか?
ナギの瞳をじっと見ていると、吸い込まれそうになる。
ナギの誘惑魔法が効くのは、魔力値14pt以下の異性だけである。
魔力値が約10万ptある、俺には効かない。
それでも、お前は、俺を誘惑しようというのか……。
「わかったよ……、ナギ……。俺、お前のこと守るよ……」
「本当に? ナギのこと、守ってくれると?」
ナギが、前のめりに反応する。
「なんて……、言うわけあるかい!! お前は、まず人を簡単に裏切ってきた、自分の人生を反省しろ!! 守って欲しいなんて言えるのは、それからあとじゃ、ボケ!!」
「ちぇっ、大ちゃん教祖様のケチ~」
ケチとか、そういう問題ではない。
君は、本当に自分の人生を反省しなさい。
ナギと、そんなやりとりをしているうちに、ハイエースは西園寺内科クリニックに到着した。




