68話 神と上位者
「畑大悟、ここまでの説明で、岡田龍雄を信者に加えることが、どれだけ重要か、理解できましたね?」
女神様が説明してくださったので、俺は十分に理解することができた。
「わ、わかりました」
元から、山菱会の会長、岡田龍雄については、魔法に関係なく、ゆくゆくは洗脳するつもりだった。
山菱会のトップに立つ、あの男を洗脳すれば、構成員3万人を自由に動かすことができるようになる。
しかも、山菱会は年間で2兆円の収入があると言われている。
2兆円というのは、あくまで収入額だが、岡田を洗脳して、金庫の中に眠っている流動資産を吐き出させれば、数千億くらいのお金は、3カ月弱の間に動かすことができるだろう。
山菱会の持つ、組織力と財力は魅力的だ。
「それでは、新しいミッションを追加しておきますね」
女神様が、そう言うと、アナウンス音声が流れた。
「【下位ミッション:魔法『異空間ミニゲート』の使い手、岡田龍雄を洗脳する】が発生しました」
このミッション追加の音声を聞くのも、数日ぶりだが、なんだか、とても懐かしい感じがする。
「畑大悟、あなたのさらなる貢献を期待していますよ。それでは、あなたに良き祝福のあらんことを……」
そう言って、女神様は、電話を切ろうとした。
「あっ……、女神様、待ってください……」
俺は、女神様に、質問したいことがあったことを思い出し、くい下がろうとする。
しかし、時すでに遅く、電話は切られていた。
俺はつくづく、マヌケだなと思う。
こういう場合、こちらから、かけなおしても良いものだろうか?
実に悩ましい。
ええい、気にしていても仕方がない。
どうせ俺は、人間爆弾にされた男だ。後はないのだ。
思い切って、リダイヤルボタンを押してみた。
しかし、女神様が電話に出ることはなかった。
よく考えたら、会社の社長に電話するようなものだものな。
相手は、会社どころか、少なくとも、ひとつの世界を、管理・運営している神様なのだ。
文字通り、雲の上の存在だ。こなすべきタスクも膨大にあろう。
そりゃ、電話に出ないか……。
いや、待てよ……、よく考えたら、相手は人間ではなく、神様なのだ。
限られた時間と能力の中で、仕事を処理する、人間の会社社長とはワケが違う。
むしろ、俺がいつ電話しても、出られるような、24時間対応コールセンターの如き、処理能力を見せても良いのではないだろうか。
まぁ、女神様が、どういうふうに仕事をしていて、どういう時間感覚で生きているのかがわからないので、こんな想像をしたところで、何の意味もないか……。
それに、俺の中での『神』の定義に当てはめるならば、今、俺に指示を出している女神様は『神』ではないしな……。
俺にとっての『神』とは、宇宙の根源的な『存在原因』のことだ。
この世界を発生させ、存続させようとする『大きな力』が『神』なのだ。
世界や宇宙、そのものと言えるかもしれない。
だから、おそらく、その『神』は、人間のような人格を持たない。
限定され、部分的に切り取られた記憶・思考の中にこそ、人格が発生する。
超がつくほど、巨大で複雑、高度な『神』は、そういった狭い枠の中に、納まり切るとは思えない。
今、俺に指示を出している女神様は、強いて言うならば『上位者』とも呼ぶべき存在だ。
養鶏場の経営者が、いくら養鶏場の中では、ブロイラーたちの生殺与奪の権利をにぎっていて、生育環境をコントロールする力を持っていても、それはあくまで、養鶏場の経営者のオヤジでしかない。
ブロイラーからしたら、神のごとき眩しい存在に見えるかもしれないが、決して『神』ではない。
『八百万の神』みたいに、人間を超えた力が宿った存在を『神』と呼ぶこともあるので、そういう使い方での『神』には、女神様は当てはまるかもしれない。
しかし、そういった存在は、俺に言わせれば『上位者』にすぎない。
こういう考えは、女神様に対して不敬だろうか。
幸い、女神様は、俺がこの種の思考をするのを許してくれている。
懐が深いのだろうか?
その気になれば、思考の幅を制限して、盲目的な崇拝を強いることもできるはずなのに……。
「あ、あの……、教祖様、大丈夫ですか?」
俺がひとり、考えに耽っていると、寺田くんが心配そうに声をかけてきた。
寺田くんから見たら、俺、人間爆弾にされたうえ、女神様から電話を切られて、リダイヤルをしても電話に出てもらえず、途方に暮れているのように見えたのだろうな。
ああ、カッコ悪……。
恥ずかしい……、穴があったら入りたい……。
「あの……、ぼくは教祖様に、死んで欲しくありません!! ぼく、一生懸命、働きます!! 使命達成のために、ぼくにできることがあれば、何なりとご命令ください!」
寺田くん、健気で、良い子だなぁ。
俺、自分の半分くらいの年齢の、若い男の子に励まされている……。
情けない……。
寺田くんに励ましてもらいながら、俺が思い出していたのは、ナギの顔だった。
人生の危機に際し、性欲が昂っていた。
ナギに慰めてもらいたい、ナギとSEXして、子孫を残しておきたい、と俺は思った。




