67話 超々ミニサイズの異世界ゲート
「そうそう、『おしおき』のことを考えてたら、本題が後回しになっていました……」
俺は、信者獲得が遅かった『おしおき』として、女神様によって『人間爆弾』に変えられてしまった。
しかし、女神様が電話をかけてきた本題は、それではなかったらしい……。
「畑大悟、今から、私が見せるものを、よく観察するのです」
女神様がそう言うと、急に、視界がジャックされて、網膜に、晴海忠が、山菱会の会長、岡田龍雄を銃撃したときの光景が映し出された。
晴海忠を含めた3人のヒットマンが、岡田龍雄を目がけて引き金を引いている。
狙いは外れておらず、そのまま弾が進んでいけば、岡田龍雄に命中しているはずだった。
しかし、岡田龍雄の近くまで飛んできた銃弾は、フッと“消えた”。
「畑大悟、この光景が意味するものが、わかりますか?」
晴海忠にとっては、人生の中で、一番の大勝負の瞬間だ。
洗脳した時に、俺も、この光景を見て、不思議に思ったものだ。
「岡田龍雄は魔法使い……、それも、物を消滅させることができる魔法の使い手、ということですか?」
俺は、自分の予想を口にした。
「ふふふっ、物を消滅させる魔法ですか……、なかなか、惜しいですね……」
俺の回答は間違っているのだろうか?
「ヒントをあげますよ……、畑大悟」
さっきの映像が、弾に寄って、ズームになり、しかも超スローで再生される。
女神様が、見やすくしてくれたおかげで、俺にも気づくことができた。
弾が消える直前、本当に、何百分の1秒という、一瞬だが、直径20cmくらいの、穴みたいなものが出現しているのだ。
穴の向こうには、緑色の景色が広がっている。
「こ、これは……」
「畑大悟、この穴の向こうに見える景色が、何なのか、わかりますか?」
「うーん、わかりません。草原か何かのように、俺には見えますが……」
「見えているのは……、私が治める世界、ニルランディアの風景です」
女神様の支配している世界って、ニルランディアっていうのか。
初めて、聞いた。
「畑大悟、もう、あなたにも理解できますね?」
「岡田龍雄は、こちらの世界と、あちらの世界・ニルランディアをつなぐ、小さなゲートを開けられる魔法使い、ということですか?」
何だろう、ニルランディアっていう言葉を発するのが、ちょっと恥ずかしい。
「その通りです!! よくできましたね、畑大悟!!」
女神様って、家庭教師の先生みたいだな。
小学5年生のときに、家に勉強を教えに来てくれていた女子大生の家庭教師のことを、俺は思い出していた。
一見、清楚に見えながらも、仕草のひとつひとつに、妙に色気を感じさせる先生だった。
当時の俺は、全然、意識しなかったけれど、先生が来ていたニットのセーターとか、今で言う『童貞を殺す服』だったな……。
「あの……、畑大悟。女神の話、聞いてます?」
しまった、つい、過去の記憶に浸ってしまっていた。
「も、申し訳ございません、女神様」
「まぁ、良いでしょう……、許してあげますよ。それに、家庭教師というのは、あながち間違いでもありませんしね……、あなたのこれからの働き次第ですけど……」
家庭教師が間違いではない? どういう意味だろう?
日本語って、難しい……。
「言ってしまえば、岡田龍雄の使う魔法は、あなたが、これから、やらなければならないことの、超々ミニバージョンなのです。あなたのミッションの場合、ゲートの持続時間や強固さ、大きさは、あの男の使う魔法の、数百億倍の規模が必要になりますけどね……」
なるほど、岡田の魔法の性質がわかった。
しかし、先ほどの様子を見る限りでは、ゲートのサイズは20cm程度、しかも、穴が開いているのは数百分の1という一瞬だ。役に立つのだろうか?
「あの……、女神様。何となく、岡田龍雄の使う魔法が、重要そうなことは理解しておりますし、岡田を洗脳して、女神教に引き入れなければならないのだろうな、ということは予想できます。しかし、岡田龍雄を女神教に加えることで、どんなメリットがあって、何ができるか、もう少し、詳しく説明していただけないでしょうか?」
「うーん、畑大悟……、今日のあなたは、少しカンが悪いようですね。まず、あなたは一つ、大きな勘違いをしていますよ。あの過去の記憶で見たゲートは、岡田龍雄が魔力を最大限に使ったモノではありません。あの男は、自分の魔法の存在を、なるべく他人に気付かれないよう、意図的に、ゲートのサイズや、持続時間を小さくしているのです。まぁ、魔力の消費量をおさえるという目的もあるようですが……」
「ということは、岡田が本気を出せば、もっと大きなゲートを、長い間、開けていられる、ということですか?」
「女神も、直接、あの男の魔力を測定したワケではないので、あくまで、これは見立てにすぎませんが、あの男が全力を出せば、1mから2mくらいのサイズのゲートを、数秒間は、開けていられる気はしますね……。その後は、魔力回復の期間が必要になりますけど……。それができたら、何ができるかは、わかりますね?」
「人間や動物、道具を、こちらの世界と、あちらの世界で、行き来させることができるということですね!!」
「その通りです」
すごい!! そういうことだったのか!!
異世界に行ける。なんと夢のある話だろうか……。
もともと、俺は、こちら側の世界と、あちら側の世界をつなげるために働いているわけではあるのだけど……。
異世界に行く、という、夢物語の遠い話のようにしか思えなかったことが、急に、身近な形で実現しそうになり、俺は心躍った
しかし、そこで、女神様が水を差すようなことを言った。
「ああ、でも、畑大悟、あなたはダメですよ……」
「えっ、ダメって、どういうことですか?」
「あなたは、向こうの世界には、行けませんよ」
えっ、そうなの?
「あなたは、ゲートをくぐって、向こうに行くには、存在の力、魔力が大きすぎるのです。通れません。それに……、あなたには使命があるでしょう?」
最後の念押しには、女神様からの強い圧を感じた……。




