66話 人間爆弾、畑大悟
「畑大悟、女神は思うのですが、あなたには『おしおき』が必要なようですね」
100人目の信者を獲得した直後、女神様から電話がかかってきて、俺は『おしおき』を受けることになってしまった。
「そ、それで、女神様、『おしおき』というのは……」
俺は、地面にひざを付き、女神スマホを、両手で高くかかえあげ、頭を下げた状態のまま、質問をする。
「見ていれば、わかります……。畑大悟、あなたの右手の甲を、スマホに当てなさい」
「こ、こうですか……?」
俺は、女神様に言われるがままに、右手の甲に付いている∞マークを、スマホに押し当てた。
「それで良いでしょう……」
女神様が、そう言うのと、ほぼ同時に、女神スマホから、黒い霧のようなものが、モクモクと溢れ出し始めた。
黒い霧は、瞬く間に、俺の全身を覆い隠す。
この黒い霧であるが、なぜか、肌に当たると、とても痛い。
毒ガスの一種でもあるのだろうか。
まるで針に刺されたかのような激痛が、俺の全身を襲った。
「ぎゃあああああ、いてええええっ!!」
あまりの痛さに、俺は叫んでいた。
黒い霧は、まるで鎧のように、俺の全身を覆い隠したかと思うと、1、2秒間、その状態でとどまった後、右手の∞マークの中に、すべて吸い込まれいった。
別に外傷があるわけではない。
しかし、痛みの刺激が強すぎて、俺はゼエゼエと肩で息をしていた。
「め、女神様……? さっきのが『おしおき』……ですか?」
「そうですよ♡」
女神様の声色は、妙に明るく、テンションが高い。
「これからも、教団の拡大が、もたついたら、さっきみたいな『黒い霧』による『おしおき』を受けさせられるということですか?」
あんなモノを、しょっちゅう受けさせられたら、いくら俺がМとは言え、身が持たない。
「うーん……、畑大悟、あなたは何か、大きな勘違いをしているようですね」
「ど、どういうことですか?」
「安心なさい、畑大悟。さっきの『おしおき』は1回だけです。1回だけで、用は済みましたから……」
用が済んだ?
「女神はね……、あなたを『人間爆弾』に変えたのです」
なんだって!!
「ふふふっ、驚いているようですね、畑大悟。なかなか良いリアクションですよ……」
やはり、女神様はなんだか嬉しそうである。
「あなたは『時限爆弾』になったのです。タイムリミットは、あなたに課したミッションと同じで、あと3か月弱です。それまでに、使命を達成できなければ、あなたは死にます。それも、大爆発を起こして……」
マジかよ!!
「今の時点では、起爆しても、大きな建物を吹き飛せるくらいの威力しかありません。しかし、タイムリミットが迫る頃には、女神の、この世界における力も強まっているし、爆弾もあなたの体で定着しているので、おそらく、東京の街を丸ごと吹き飛ばせるくらいの威力は出るでしょうね。まぁ、女神としては、それでも威力には、不満があるのですが……」
女神様は楽しそうにペラペラと喋っているが、俺は自分のことを考えるのに精一杯で、話している内容が、あまり頭に入ってこなかった……。
「畑大悟、もし失敗した場合、あなたは、1,000万都民を道連れにして死ぬのです。それが嫌ならば、使命を果たすのです。私のためにも、そして、あなた自身のためにも……。わかりましたね?」
俺は、うつろなまま返事をした。
「わ、わかりました……」
そうか、このプロジェクトが失敗したら、3カ月以内に死ぬのか……。
ショックではないと言えば、嘘になるな……。
しかし、俺の中に、自分なんて、死ぬことも含めて、どうなっても良いという気持ち、自分のような人生に失敗した敗残者など、痛めつけられて当然、という気持ちがある。
多分、こういう感情は、人生に失敗した、自分自身に対する『怒り』の裏返しなのだろう。
そんな、どこか、自分のことを他人事のように考え、投げやりに捉える気持ちは、最初のショックが和らぐと、反比例して、大きくなって行った。
そして、最終的には、ある程度の強がりもあるが、3カ月以内に大爆発を起こして、死ぬことも「まぁ、いいか」と思えるようになった。
この境地にいたるまでに、約1分くらいの時間が必要だった。
「畑大悟、あなたの思考は、どうも屈折しているようですね……」
相変わらず、女神様には、全てお見通しのようである。
「女神様……、俺はね……、『生きにくい世界』に生きているのです。俺の怒り、失望が、女神様にわかりますか? もし、俺の怒りが、大爆発という形をとって、表現されるのなら、それはそれで悪くないのかな、とすら思います」
「うーん、女神は、あなたに死んで欲しくないんですけどね……。発破をかけたかっただけなんですけど……」
女神様、俺の命がかかっているのに、喋り方が軽すぎだよ。
俺を何だと思っているのだ。
「畑大悟。まぁ、そんなことを言わないでください……」
女神様と喋っていると、いつも、こんな風に、俺の心の中の声も含めた、会話のやりとりになる。
「そうそう、『おしおき』のことを考えてたら、本題が後回しになっていました……」
えっ、本題?
俺、結構、酷い目にあってるけど、これ、本題じゃないのかよ。




