65話 女神様からの電話
晴海忠の洗脳が完了し、ついに信者の数は100人に到達した。
最終的な目標である、信者の魔力値合計は、1,000万ポイントである。
平均的な人間の魔力値は5~10と言われているので、100万~200万人くらいの信者が必要になる。
最低でも、今の1万倍は、信者が必要になるということだ。
まだまだ、先は長い。
どこかで、信者獲得にも、ブーストをかけなければならないだろう。
今後、どうやってブーストをかけるか、信者を集めて会議も行わなければならない。
そう言えば、魔法使いの魔力値って、どれくらいなのだろうか?
俺の魔力値は、約10万だが、他の魔法使いの魔力値がどれくらいのものなのか、相場がわからない。
女神様からもらったスマホのアプリで、晴海忠の能力値を確認してみないといけないな、と思った。
そんなことを考えていると、突然、女神スマホから、大音量で、荘厳なクラシックの曲が流れだした。女神スマホが、ブルブルと震えている。
これは着メロか? この曲は確か……、カルミナ・ブラーナ。
誰からの呼び出しだろうと思って、発信者の名前を確認してみたら『ニグラト』と表示されていた。
ニグラト? これって、女神様の名前じゃなかったっけ?
どういうこと?
女神様からの電話って、何の用事だろう。
俺の脳裏に、ふたつのシナリオが浮かんだ。
ひとつは、信者100人を達成したことに対する、女神様からのお褒めの電話、もうひとつは、100人達成が遅かったことに対する、お叱りの電話、である。
果たして、どちらであろうか。
とにかく、女神様を待たせては失礼になるので、ドキドキしながら応答ボタンを押すことにした。
「久しぶりですね、畑大悟……」
やさしく包み込むような、その声は、紛れもなく、女神様のモノであった。
なんだか、立ったままで話すのが、すごく不敬な気がしたので、俺は地面に膝をついて、女神スマホを両手で掴んで、高く掲げた。
そして、叫んだ。
「女神様からの、お言葉である!!」
周りにいた捕獲チームが、口々に「女神様だ!!」「女神様からのお言葉だ!!」と叫ぶ。
特に命令をしたわけでもないのに、俺と、意識を失って倒れている晴海忠を除いて、その場にいた全員が女神スマホに向かって、ひざまずいた。
そして、目を閉じながら、両手の人差し指と親指を丸めて、顔の前あたりで∞のマークをつくり、祈りのようなものを捧げている。ちなみに、他の指は、広げた状態なので、∞マークに、カニの脚が生えたような形にも見える。
指の動きだけ見ていると、料理に愛情を注入するときの、メイド喫茶のメイドのようでもある。
あれはハートマークだったと思うけれど……。
そう言えば、この∞のマークは、女神様の記号だったな。
俺は、この動作を信者には指示していない。
おそらく、信者のデフォルトの動作として、洗脳された時点からインプットされている儀礼のようなモノなのだろう。
全員が祈りのポーズをとるのを待ってから、女神様は話し始めた。
「畑大悟……、ようやく信者数が100人を突破したようですね」
俺はスマホを直視することができなかった。
スマホを高く掲げ、頭を深く下げたまま話す。
「は、はい!! これも全て、女神様のおかげであります!!」
「そうでしょう、そうでしょう……」
女神様の声色は、少し満足気なように聞こえた。
しかし、次に続いた言葉は、決して、お褒めの言葉ではなかった。
「それにしても、畑大悟……、少し、時間がかかりすぎではないですか……」
ほら、来た!! やはりお叱りの電話だったか。
「も、申し訳ございません!!」
俺は、地面に、こすりつけんばかりに頭をさげる。
「あなたは少し、お遊びが過ぎるようですね。ジカキンとかいうyourtuberをいじめたり、宦官とか言って、若い男のアソコを切り取ったり……。女神、そういうところは感心しませんよ」
女神様、やはり俺の行動を、ちゃんとチェックしているのか。
確かに、ジカキンや、セイヤを含めて、これまでの信者獲得には随分と『なめプ』が多かった。
時間を無駄にした俺が悪い。反省しなければ……。
それにしても女神様、今回は一人称『女神』なんだな。前は一人称『私』って言ってなかったっけ。
「私が、一人称を『女神』と言おうが、『私』と言おうが、それは、あなたには関係のないことですよ……、畑大悟」
やべぇ、相変わらず女神様、俺の思考を読んでいる。思考が盗聴されている。
「も、申し訳ございません!!」
再び、頭を深く下げる。
チクショウ、我ながら、みっともないぜ。
教祖と言っても、中間管理職の悲哀は免れないのか。
まるで初代仮面ライダーのショッカー幹部、地獄大使のような気分だ。
「畑大悟、女神は思うのですが、あなたには『おしおき』が必要なようですね」
「えっ……、『おしおき』……ですか?」
地獄大使ではなく、ドロンジョ一味であったか……。
『おしおき』という言葉の、魅惑的な響きに、ゾクゾクしている、ドМな俺がいた……。




