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64話 晴海忠の洗脳

 晴海忠は、透明人間になる魔法を解除して、姿をあらわした。


「もう疲れたし、観念することにしたよ。ただ、ひとつだけ教えてもらえないか? アンタたちは何者なんだ? 特にオレの目の前にいる機動隊員みたいな恰好したアンタ。アンタは教祖なんだろう?」


 毎回のことながら、信者たちが「教祖様」と呼ぶので、俺が教祖であることが、すぐにバレてしまう。


 違う肩書きを考えてみようか。


 今回も、一応、最初は“代表”と呼ばせていたのだけど、すぐにボロが出てしまった。


 宗教を名乗ると、うさんくさく感じる人間も多いと思うので、なるべく、ぼかしたかったのだが、こうとなれば観念するしかない。


 素性をあかし、晴海忠を勧誘してみることにした。


「一気にうさんくさくなるので、教祖という肩書きは隠したかったのですが、今回も失敗しましたね。もう良いでしょう。素直に話しますよ。俺たちは女神教です。あなたも我々の仲間になりませんか?」


「女神教……? どこかで聞いたことがあるような……」


 変人扱いされ、拒絶されるものかと思っていたが、晴海忠のリアクションは意外なものだった。


 目を閉じて、あごに手をあてながら、何かを考えているようだ。


 しばらくしてから、晴海忠が、目を大きく見開き、丸めた右手で、左手をポンと叩きながら言った。


「思い出した!! 夢の中で、あの父親が言っていたんだ!!」


 夢の中? 父親が言っていた?


 何のことを言っているのか、俺には、さっぱりわからない。


「ということは、あれも完全な夢ではない、ということなのか……」


 晴海忠は、相変わらず、ブツブツとひとりで何かを言っている。


「なぁ、教祖様、質問に答えてくれないか? オレが想像するに、アンタたちは、この世界に、ゴブリンとか、ドラゴンみたいなバケモノが、たくさん現れて、今とは別の世界に変わってしまう、みたいなことを予言している宗教なんだろう?」


 驚いた。


 なぜ、晴海忠は、そんなことを知っているのだろう。


 人と金が集まり、組織がある程度まで、できあがったら、将来的には、そういう情報発信をおこない、信者を増やしていこうとは思っている。


 なんせ、女神教は、来るべき新しい社会における“ノアの方舟”なのだから。


 SF作家、アイザック・アシモフの小説で例えるならば、“ファウンデーション”のようなものだ。


 しかし、今の時点では、そう言ったことを伝えるための宣伝は行っていない。


 なぜ、この男は、今から俺がやろうとしていることを知っているのだ。


 いや、ひとつだけ心当たりがある。


 実は、女神様の啓示を受ける、何週間か前から、俺は、夢を見ることがあった。


 夢の中では、この世界は完全に変貌しており、無数のモンスターが闊歩(かっぽ)する世の中となっていた。


 そして、世界中の軍隊と警察は敗北し、既存の社会・文明は崩壊のときを迎えようとしていた。


 人生に閉塞感を感じていた俺は、その夢に、言い知れぬ“感動”と“解放感”をおぼえたものだ。


 だから、夢の中に、女神様が現れて「お前が異世界を呼び出せ」と言われた時も、自分が何をやれ、と言われているのか、ピンときた。


 あの夢を現実にしろ、と言われているのだと、すぐに理解できた。


 あれは、女神様が見せているモノなのだろうか?


 晴海忠は、魔法使いであり、女神様や、あちらの世界への、アンテナ感度は高いはずである。


 だから、俺と同じような“ビジョン”を見たのだとしたら、晴海忠が、急にこういうことを言い出したことも、少しは理解できる。


「よく、わかりましたね……」


 本当は、まだ、晴海忠が言うような情報発信は、一切、行っていないのだけど、話をあわせてみることにした。


 なぁに、嘘をついても、問題はない。


 頭に手を当て、思考や記憶を書き換えて、洗脳してしまえば、こちらのものなのだ。


「教祖様、教えてくれ……。世界が、ああなることを防ぐことはできるのか? オレが女神教に入信すれば、この世界を守る助けになるか?」


 どうも晴海忠は、勘違いをしているようである。


 女神教は、世界が“ああなる”のを防ぐ組織ではない。


 逆である。


 世界を、あんな世界に変えるための組織なのだ。


 晴海の質問に、どう答えるべきだろうか?


 様々な選択肢が考えられる。


 ある程度、本当のことを混ぜて話すこともできるし、完全にウソの回答をすることもできる。


 例えば、世界が、あんなふうに変貌することは避けられないが、少しでも、その被害や、社会の混乱を最小化するための組織が女神教であると、それこそアイザック・アシモフのファウンデーションのような説明をすることもできよう。


 逆に、完全な嘘をついて、あんな世界が出現するのを全力で防ぐために、警告を発しているのが女神教である、と答えることもできるだろう。


 一瞬、迷ったが、結局、俺は一番、(くみ)しやすそうな回答を選んだ。


「あんな世界の出現を防ぐことは……できます」


「本当に、あんな世界の出現を防げるんだな? なら、オレは女神教に入信するよ!!」


 晴海忠は、入信する決意をしてくれたらしい。


 俺は、茶番にすぎないことは承知のうえで、聖職者っぽい演技をして、このまま晴海忠を洗脳してしまうことにした。


「それでは、晴海忠、今から洗礼を行います。私の前に、ひざまずいて、頭を差し出しなさい……」


「わ、わかりました……、教祖様……」


 晴海忠は、言われるがまま、俺の目の前で、ひざまずき、頭を差し出してきた。


 近くだと、アンモニア臭がいっそう、キツイ……。


 俺は臭いに耐えながら、右手を、晴海忠の頭に押し当てる。


 魔力が、俺の右手から、晴海忠の頭の中に流れ込んでいき、洗脳が完了する。


 真っ向から捕獲しようとしたら、きっと損害が出ていただろう。


 抗争によって疲弊していたうえ、勘違いで、みずから洗脳されにきてくれて、助かった。


 晴海忠……、チョロかったな……。


 サイコロステーキ殺人鬼も、こんなふうにチョロかったら、良いのだけど……。




 信者数は100人に到達し、俺以外では、初の魔法使いの信者を獲得した。


◆下位ミッション


  洗脳魔法を使い、信者数100名に到達する。 達成!! 

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