63話 晴海忠の捕獲作戦
俺と捕獲チームを乗せた3台の車は、晴海忠が移動している地点へと近付いていた。
車で移動中、メッセンジャーアプリのグループ機能を使って、チームメンバーと捕獲方法について情報を共有する。
晴海忠は、まもなく路地に差しかかるので、そこで奴を挟み撃ちする。
奴の身になって想像してみると、俺たちは、ただの怪しい集団でしかない。
しかも、捕獲チームのメンバー10人は、寺田くんをのぞいてガタイの良い男ばかりだ。
威圧的に感じてしまう可能性もある。
簡単に、うまくはいかないだろう。
しかし、可能な限り平和的な姿勢で、同行を求めたい。
俺の安全が第一なので、俺は少し離れた車の中で待機する。
ただし、女神様からもらったスマホのアプリによって、晴海忠の細かい位置を把握できるのは俺だけなので、リーダーである寺田くんが、ワイヤレスマイクで俺と通話しながら、晴海忠に話しかける。
大体、こんな感じで、晴海忠の捕獲を行う予定である。
うーん、これでうまく行くだろうか。
我ながら、フワッとした計画だな、と思う。
カチッと組み立てられていないので、グダりそうな気がしてならない。
万が一のときは、俺も現場にかけつけるつもりだ。
そのための“装備”も、すでに買いそろえている。
まず、頭を守るために、台湾の警察や軍が採用しているとされる、フェイスシールド付きの黒い防弾ヘルメットを約12万円で買った。
さらに、胴体を守るために、大口径の44マグナムの弾くらいまでは防ぐとされる、NIJという規格でレベル3Aに該当する、黒い防弾チョッキも約15万円で購入した。
これで晴海忠に、発砲されても大丈夫なはずである。
晴海忠の移動速度を見ていると、かなり遅い。
負傷しているのは、十中八九、間違いないだろう。
グダグダになっても、最悪、力押しで、捕まえることはできると思う。
問題は、負傷者を出さずに捕獲できるか、どれだけスムーズに捕獲できるか、ということだ。
日本最大の暴力団組織のトップを暗殺しようとして、失敗し、逃げているヒットマン。
これが世間における一般的な、晴海忠という男に対する認識である。
俺も、アウトロー系の雑誌の記事に載っているレベルのことは知っているが、正直、晴海忠がどういう男なのか、よくわからない。
今回のような捕獲作戦を実行に移した時に、奴がどんな反応を示すのか、想像がつかない。
話しかけた途端、いきなり発砲してくるかもしれないし、逆に、すんなりと話し合いに応じくれるかもしれない。
奴の内面や、思考の動きを、予測することができるだけの十分な材料を集めることはできていなかった。
作戦を実行に移して、走らせてみないことにはわからない。
と言うことで、さっそく、寺田くん率いる“前方チーム”と、残りの5人で構成された“後方チーム”で、晴海忠を挟み撃ちすることにした。
作戦は成功し、見事、晴海忠を追い詰めることができたか、と思われたのだが、実際には、そう簡単にはいかなかった。
正確な場所を把握していないので、晴海忠にとって、包囲を抜くことは容易だったのである。
まったくもって“ざる”なフォーメーションだった。
寺田くんに、晴海忠の現在、歩いている場所を伝えようとしたが、微細な位置関係までは、うまく伝えきれなかった。
ええい、こうなったら、自分で行くしかない。
そう判断した俺は、ハイエースの運転手である稲田さんに銘じて、晴海忠のいる地点へと急行することにした。
まず、ボディーガードとして連れてきた、体長2mある、黒人のガスが、先にハイエースからおりる。
続いて、俺もハイエースからおりた。
恰好は、もちろん、こういう時のために、買ってきた、黒の防弾ヘルメットに、黒の防弾チョッキである。
我ながらダサいな、と思う。
女神スマホの、魔力探知MAPによると、近くに晴海忠がいるはずだ。
「このスマホを信じるなら……、俺の真ん前、5mのところに“練習1号”がいるはずなんだけどな……」
いつもの癖で、俺はひとり言をいった。
どうやら、それが聞こえていたらしく、晴海に抜かれて、俺の方に移動してきていた、捕獲チームたちが、晴海の周りを、狭めながら包囲しはじめていた。
「あのう、晴海忠さん。あなたが山菱会会長の暗殺未遂事件を起こした、晴海忠さんだということは調べがついているんです。それに俺には、あなたの位置もわかりますよ。観念して姿をあらわしていただけませんか?」
俺は、晴海に魔法の解除を、申し入れる。
すると、ついに晴海忠が、姿を現した。
しかし……、なかなかすさまじい有様だった。
年齢は40代前半くらいだろうか、服装は黒いコートを着ており、頭の髪やヒゲは伸び放題で、ボサボサだった。
しかも全身に乾いた血がこびりついていた。
それに……、何日も風呂に入っていないのか、アンモニア臭がひどい……。
俺も含めた、その場にいた人間が全員、思わず、ギョッとした顔をしたほどだ。
透明人間になる魔法を解除した、晴海忠は言った。
「もう疲れたし、観念することにしたよ。ただ、ひとつだけ教えてもらえないか? アンタたちは何者なんだ? 特にオレの目の前にいる機動隊員みたいな恰好したアンタ。アンタは教祖なんだろう?」
男は心底、疲れた顔をしていた。




