59話 魔力探知MAP上の点滅
「あの……、教祖様、本当に透明人間なんて、いるんですか? いなかったら、今のぼくら、めちゃくちゃ、マヌケなんですけど……」
うーん、魔力探知MAPのことについて、もう少し詳しく説明しておくべきだったか。
女神様からもらったスマホは、どうやら俺の魔力に反応して動くらしく、俺にしか使えないようなのだ。
寺田くんに、女神スマホを持たせることができなかった。
俺は、寺田くんからの電話報告を受けながら、反省をしていた。
“練習1号”が、晴海忠であることは、内偵を始めて、すぐに判明した。
女神教には、警察官の信者が何人もいる。
山菱会、岡田会長の狙撃事件は、世間をにぎわす大ニュースであったし、警察でも晴海忠の行方を追っていたのだ。
晴海忠は、すでに情報が出回っている人物であったため、あらためて私生活などを詳しく調べる手間は省けた。その点はスピーディで、ありがたかった。
女神様からもらったスマホのアプリ、魔力探知МAPでは、大きな点として表示されているのに、そこに姿が見えないことから、晴海の使う魔法が、透明人間になるようなモノではないかということも、すぐに予想がついた。
晴海忠の情報収集は順調に進んだのだ。
本音を言えば、“練習1号”の正体が、晴海忠だとわかった時は、かなり動揺した。
何せ、日本最大の暴力団組織である、あの山菱会に追われている人間なのだ。
下手に信者にしてしまえば、こちらに火の粉がふりかかりかねない。
しかし、その点については、晴海の透明人間になる能力を使えば、見つけることは困難であろうし、洗脳し、絶対に口を割らないよう命令したうえで、一匹狼で行動させておけば、我々とのつながりを山菱会に察知される心配はないのではないかと考えた。
リスクのある人材ではあるが、信者として獲得すべし、と俺は判断した。
問題は、どのタイミングで晴海忠を洗脳するかだ。
俺たちが、魔力探知MAPに示された位置情報をもとに、晴海忠を見張り出したころには、すでに奴は、外道会館と隠れ家との往復を繰り返しており、何らかの報復をたくらんでいることは明白だった。
行動を起こす前に、つかまえて洗脳すべきだろうか。
だが、奴は今、精神的に追い詰めらた危険な状態であろうし、何らかの銃火器を持っている可能性が高い。そのうえ、透明人間になる魔法を使うので、逃げられてしまうことも考えられた。
警察官の信者から、外道会が大きな宴会を開くことを聞いていたので、晴海忠が行動をおこすXデイは、そのタイミングであろうと判断し、しばらく様子をみることにした。
しかし、宴会が開かれる当日、思わぬアクシデントが起こった。
魔力探知MAPで、“サイコロステーキ殺人鬼?”というメモを書き込んでいた光点と、晴海忠がニアミスをしたのである。
実は、“サイコロステーキ殺人鬼?”の方にも、偵察の信者を張り付けていたのだが、宴会の日の午前に、見失ったという報告を受けていた。
まさか、外道会館に来るとは……。
偵察の信者から、“サイコロステーキ殺人鬼?”は、美しい女子高生だと聞いている。
何のつもりで、“サイコロステーキ殺人鬼?”が、外道会館まで来たのかはわからない。
サイコロステーキ殺人鬼といっても、四六時中、人を殺しているわけではない。
晴海忠が、ただちに殺されるということはないかもしれない。
しかし、場所が、残忍さにおいて、日本一有名なヤクザの本部事務所である。
そこに、サイコロステーキ殺人鬼と思わしき女子高生がやってきて、何も起こらないとは考えづらかった。
幸い、その時点では、晴海忠が殺されることはなく、“サイコロステーキ殺人鬼?”も他の光点といっしょに、外道会館の中に入っていった。
次に大きな動きがあったのは、午後3時頃であった。
“サイコロステーキ殺人鬼?”も含めた、4つの光点は、外道会館内の、とある部屋に集められていた。その後、追加でやってきた光点も、同じ部屋に入れられていた。
しかし、3時頃になると、“サイコロステーキ殺人鬼?”と一緒にきていた、3つの光点が、別の光点に誘導されるように移動し、ある部屋で消えたのである。
これが何を意味するのか、俺にはわかる。
魔力というのは、人間の生命エネルギーでもある。それが消えたということは、3つの光点、つまり3人の人間が、その場で殺されたということだ。
その後も、いくつかの光点が同じ場所に移動してから、消えていた。
“サイコロステーキ殺人鬼?”を示す光点は、他の5つの光点と一緒に、部屋にとどまっていた。
次に大きな変化が起こったのは、午後8時頃である。
どうやって把握しているのかはわからないが、魔力探知MAPでは、外道会館内の見取り図を映しだすことができる。
丸テーブルが、いくつもならんだ広いホールがあって、そこにたくさんの光点が集まっていた。
晴海忠と思わしき光点も、その場にいた。
晴海忠は、外道会の人間に見つかったら、即座に抹殺されるような人間である。
何の妨害もなく、動き回ることができているということは、透明人間になる魔法を使っているのだろう。
やがて、ある光点が不可解な動きをした。
ステージの真ん前にある丸テーブルの、1つの光点が、となりの光点と引っ付いたかと思うと消えたのだ。
つまり、ここで、また1人、人間が殺されたということになる。
しばらくして、その消えた光点の位置まで、晴海が移動を始める。
晴海と、となりの光点が引っ付いたかと思うと、やがて、10個の光点に囲まれてから、晴海の隣にいた光点が消えた。
おそらく、このタイミングで、晴海は暗殺を実行したのだろう。
しかし、異変が起きていたのは、ホールだけではなかった。
“サイコロステーキ殺人鬼?”といっしょの部屋にいた、全ての光点が、突然、消えたのである。
部屋の近くにいた、おそらく見張り役であろう光点が、あわてて部屋にかけつけるが、それも、すぐに消された。
サイコロステーキ殺人鬼が動き出したのだ……。
その場でどんな光景が展開されているかは、想像したくなかった。




