57話 何者なんだ?
オレは、外道会の会長、外垣道重の暗殺に成功した。
しかし、その際に、銃弾を受けてしまう。
フラフラになりながら、なんとか外道会館からの脱出を試みたが、鉄製のゲートに阻まれてしまった。
ゲートを乗り越えるだけの気力と体力が、オレには残されておらず、透明ステルス状態を維持したまま、オレは庭の芝生で力尽きた。
あれから何時間が経過したのだろう。
芝生から体を起き上がらせて、左脚をひきずりながら鉄製のゲートまで行くと、そこで目にしたのは、あわただしく行き交う、警察官や鑑識、救急隊員……、そして地面にちらばった無数の人間の血と肉片だった。
何人分の血なのかはわからないが、ゲートの周辺は、血の池のようになっていた。
そして、血の池の中に、まるで島のように、いくつか、肉の塊が落ちていた。
それぞれの塊は、数千のサイコロ状の肉片で構成されている。
細切れになったスーツも見えるし、塊の形からも想像できることだが、この塊ひとつが、ひとりの人間だったのだろう。
腸などの臓器の内容物が、はみ出ているせいか、悪臭がひどい。
よく見たら、その場にいる警察官や鑑識も、全員マスクをしていた。
ここで一体、何が起きたのだろうか……。
とにかく、今は鉄製のゲートが上がっているので、この場から脱出したい。
風呂にも入りたいし、手当ても受けなければならない。
しかし、こんな状態で、どこで手当てを受ければ良いのだろうか?
普通の医療機関にいけば、何があったのかを聞かれるだろう。
かと言って、傷を放置するわけにもいかない。
命にかかわることなので、個人クリニックの医者をおどして、治療をさせるしかないか……。
それも、治療中か、治療後に、警察に通報されそうではあるが……。
いろいろ考えていても、らちが明かない。
とにかく、今は一刻もはやく、この場から離れたい。
血の池が広がっているゲート付近で、わずかにだけ残っていた陸地の部分を注意深く、選んで踏みながら、オレはゲートの外に出た。
いったんは、世田谷区にある隠れ家の方に行こうと心にきめて、漫然と400mくらい、左脚をひきずりながら歩いた。
狭い路地に入ったところで、向かいから、男のグループが歩いてくるのが見えた。
真ん中に、20代前半くらいの、小柄な男がいて、そのまわりに柔道でもやってそうな体格の良い男が4人、合計5人だ。服装は、スーツ姿ではなく、それぞれ私服だ。
真ん中の、小柄な若い男は、ワイヤレスマイクをつけながら、携帯電話で誰かと通話しているようで、しきりに「はい……、はい……」とか「えっ、もっと右? こっちですか?」とか言っている。
こいつら、何者だろう? もしかして、山菱会の追手か?
オレが外垣を殺ったことがバレて、追手を差し向けられたのだとしたら、犯人を特定し、居場所を突き止めるのが早すぎる。
そんなに素早く動けるとは思えない。
外垣を狙撃してから、まだ一度も、透明ステルス化した状態を解除していないのだ。
オレの姿を見た者はいないはずだ。
あと、追手にしては、真ん中の小柄な男が、あまりにもヤクザっぽくなさすぎる。
真ん中の小柄な若い男は、なかなか、かわいい女顔をしている。身長が低く、体が小さいので、中学、高校時代は、女子の同級生から「かわいい」とか、言われていそうな感じだ。
しかし、だからと言って、お高くとまっているところもなく、庶民的な親しみを感じる。ピザ屋のバイトで働いていそうな感じだ。
この集団、謎が多すぎる。
とにかく、この集団には近づかない方が良い、と判断したオレは、向きを変えた。
しかし、反対側からも、体格の良い男が5人、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
しまった、挟み撃ちにされてしまったようだ。
クソ、もう体力的にもしんどいのだが、力をふりしぼって、活路を見出すしかないか……。
懐にしまっていた、銃に手をかけたところで、真ん中の小柄な男が驚くようなことを言った。
「あのう……、あなた、晴海忠さん……、ですよね?」
なぜ、オレの名前を知っている? やはり、こいつ、山菱会の追手か?
反応をすると、オレがこの場にいることが確定してしまうので、オレは、小柄な男の発言を無視することにした。
しかし、小柄な男は発言を続ける。
「今、代表が、ここにいないので、かわりに、代表の言葉を、あなたに伝えますね」
代表? どういう組織なのだろうか?
小柄な男は、携帯で、誰かが話している言葉を聞きながら、それを、そのまま口にしているようで、英語の同時通訳のような喋り方をしている。
「あなたは、今……、負傷していますね。そして……、自分の姿を隠すことができる……、特殊能力のようなものを持っている……。大丈夫、晴海忠さん……、私達は、あなたの味方です。あなたを治療して差し上げます。いっしょに来てください……」
本当にお前らは一体、何者なんだ?




