55話 外垣、死すとも
百田秀秋は、外垣によって、頭を割られ、死亡した。
裏切り者にふさわしい末路と言えるだろう。最後まで哀れな男だった……。
ただ、最後には、間接的ではあるが、少しだけオレの役に立ってくれた。
百田が死亡したことで、奴の死体と、座っていたイスが片づけられ、外垣の隣のスペースがガラ空きになったのだ。
オレは透明ステルス化している状態を維持したまま、ゆっくりと、人にぶつからないように注意しながら、外垣の隣まで移動する。
奴との距離1mのところまで、接近することに成功した。
宴も終盤に近付き、外垣のそばに付いていた2人の護衛も、外垣の手によって無理矢理、大量の酒を飲まされ、フラついていた。
外道会館のまわりには、何台もの監視カメラが設置されていて、外道会の構成員が常時、映像を監視している。
外道会館の入口となるゲートには、当番の構成員がいて、誰が会館の敷地内に入ってきたのかをチェックしている。
まさか、宴会が行われている、このホール内に、透明人間のヒットマンが潜入しているとは、夢にも思わなかったのだろう。
油断したな、外垣道重。その油断が、お前の命取りだ。
さっき、お前は、誰にも自分たちを「裁かせはしない」と言っていたが、このオレが、お前を裁いてやる。
本来ならば、この上ない苦しみを味あわせてから殺してやりたいところだが、一瞬で命を絶つことになってしまいそうなのが残念だ。
「どうや、うまいやろう。でも、これは、まだ序の口やで。メインディッシュが見物なんや。ワシのリクエストでな……、“美少女JKの凌遅しゃぶしゃぶ”を出してもらう予定なんや。生きた制服姿のJKの肉を切り取って、そのまま、しゃぶしゃぶにして食べようという嗜好や。なんでも絶世の美少女が手に入ったとか……。楽しみやのう、ギッシッシッ」
外垣が嬉しそうにベラベラ喋っている。
さっきのJKの活け造りと言い、お前の残酷な趣味には、もうウンザリなんだよ。ただ、ただ、胸糞が悪い。
さっさと死ね。
オレは、用意していた風呂敷をとりだして、中に入っていた2つの物体を、ゴトリッと、外垣たちの座っているテーブルの、ど真ん中に置いてやった。
テーブルのど真ん中に突如、出現したもの……、それは、オレが前に殺害し、切り取った2人の外道会ヤクザの首だった。
「ゲッ、こ、これは、殺された……、桧山と桶川の……」
外垣と同じテーブルに座っていた外道会の最高幹部の1人が、顔を引きつらせながら言った。
驚いてくれたようで良かった。その顔が見たかったのだ。頑張って、保存する冷凍庫を探した甲斐があったというものだ。
「誰じゃい!! こんなもん、置いたのは!!」
外垣が怒りながら、立ち上がって叫ぶ。
「オレだよ……」
そう言って、オレは持っていた拳銃グロック19を、外垣の、右のこめかみに押しあて、引き金をひく。
火薬が爆発し、弾丸は、外垣の頭を貫通した。
両サイドのこめかみに開いた穴から、血がゴボゴボと流れ出る。
特に左側の穴は大きく、より大量の血が溢れ出ていた。
外垣は、即死かと思われたが、一応、まだ生きているようだ。
頭がフラフラと左右に揺れている。
会場にざわめきが起こり、飲まされ、フラついていた護衛2人があわてて、外垣のところに駆け寄る。また、それとあわせて、ホール内を警備していた8人の構成員も、いそいで外垣のもとに駆けつけてきた。
外垣に必要なのは、救護であって、護衛や警備ではない。
今さら駆けつけてきたところで、もう遅い。
しかし、ここでオレの思いもよらないことが起こった。
「ぼぐばああああああああああ」
外垣が叫びながら、急に、オレが立っている方に、腕を伸ばしてきたのだ。
とっさのことに、よけきることができず、オレは外垣の腕に捕まってしまった。
「わじゃあああああ、まだ、でぃなんどおおおおお」
外垣は叫びながら、オレの体をギリギリと締め付けてくる。頭を撃たれた直後というのに、なんという馬鹿力だ。コイツはバケモノか……。
会場にいた他の人間たちからは、外垣が、透明な人間サイズくらいの、見えない何かを強く抱いているように見えたはずだ。
とっさの判断を下したのは、司会としてステージ上に立っていた若頭の正田だった。
「会長が抱いている、透明な何かが、会長を撃った犯人だ!! お前達、奴を撃て!!」
宴に参加している幹部たちは、銃を携行することを許されていない。だから、正田は、護衛と警備に発砲を命じた。
「し、しかし、それでは、会長も巻き添えになってしまう可能性が……」
護衛のひとりが、代表して躊躇いのセリフをはく。
「かまわん!! 会長はどのみち、もう助からん!! 最期に、ヒットマンと心中できれば会長も本望だろう!!」
それを聞いた外垣が、ステージにいる正田の方に顔を向ける。
「じょ、じょうばあああああ、ぎだまああああああ」
外垣が叫んだ、その瞬間、体を締め付ける力が弱まった。オレは、いそいで、しゃがんで、外垣の巨体に身を隠す。
その直後、護衛2人と警備8人の、合計10人が、外垣と、一瞬前まで、オレが捕まっていた空間めがけて、一斉に発砲を開始した。
「ぐばああああああああ」
体中に、何発もの銃弾を浴びて、ついに外垣道重は息絶えた。
そしてオレは……、いくら外垣の体が盾になったとは言え、無傷とはいかなかった……。




