54話 粉骨砕身
「外垣会長、ありがとうございました」
司会役の、アゴヒゲを生やしたスーツ姿の男が、そう言うと、外垣はステージから降りて、向かいの丸テーブルに戻った。
外垣の座っているテーブルには、外道会の最高幹部が集まっているようだ。
今は司会として、ステージの上に立っている、外垣から“ショウちゃん”と呼ばれている男、外道会の若頭である、正田慎一郎も同じテーブルだ。
ただ、よく見たら、たったひとり、そこに場違いな人間が座っていた。
“裏切り者の百田”である。
百田なんて、ザコのはずなのだが、新規加入のご祝儀なのか、最高幹部の集まるテーブルの、それも外垣の隣の席に座っていた。
「外垣会長、この度は、私のために特等席をとっていただき、ありがとございます。先ほどのご挨拶も、お見事でございました」
小柄で、ネズミのような顔をした百田が、思いっきりゴマをすっている。
見ていて、哀れになるくらいだ。
「おう、百田か……、まぁ、お前も、持ち前の“忠誠心”でワシのために、よう働いてくれや、ギッシッシッ」
そう言って、外垣は、笑いながら、バンバンッと百田の肩を叩く。
「も、もちろんで、ございます!! この百田秀秋、外垣会長のために、粉骨砕身させていただく所存でございます!!」
おそらく、この“忠誠心”のくだりは、外垣なりの皮肉なのだろうが、百田は気づかないフリをして受け流しているようだ。
「ほうか、ほうか、“粉骨砕身”か、そりゃ、ええわ、ギッシッシッ」
つられて、同じテーブルの最高幹部たちも笑っていた。
その後、正田の司会のもと、他の最高幹部のあいさつや、〇ちゃんの仮装大賞を、さらに、おバカで、下品にしたような、いくつかの下部組織による出し物、ジャイアンリサイタルのような、外垣のヘタクソなカラオケ熱唱などが行われた。
もちろん、熱唱のあとには、おべんちゃらと、追従の拍手が続いた。
ちなみに歌っていたのは、ARBの『ROCK OVER JAPAN』である。
これらの出し物が行われている間も、大量の料理や酒が運ばれてきて、参加者たちは飲食を続けていた。
外道会は酒飲みが多いのか、宴も終盤に差しかかる頃には、大半の幹部が酔っ払っていた。
外垣とて、例外ではない。
外垣は見た目通りの大酒飲みで、その巨体ゆえか、他の参加者の5倍くらいの酒を飲んでいた。
しかし、酒に強いのか、ベロベロに酔っぱらうことはなく、まだ、ほんのり顔が赤くなっている程度である。「まだまだ、これからやど!!」と叫びながら、他の幹部たちに無理やり酒を飲ませていた。
隣にすわっていた百田などは、哀れなもので、浴びるほど酒を飲まされ、顔を真っ赤にしていた。
こいつ、オレが手を下さなくても、急性アルコール中毒で死ぬんじゃないか?
この場にいて、一滴も酒を飲んでいないのは、司会の正田くらいではないだろうか。
「それでは、宴も終盤に差しかかって、まいりました。いよいよ、皆さん、お待ちかね。会長のたっての希望でもある、JKのコース料理です。まずはJKの活け造りから……」
司会の正田が、そうアナウンスした。
会場で一斉に「おおーっ」という歓声があがる。
「これや、これや!! ワシが待っとったんは、これや!!」
そう言いながら、外垣が舌なめずりをする。
「えっ、女体盛りでも出るんですか? 女体盛りなんて、久しぶりです。さすが外道会ですね」
百田も興奮気味だ。
やがて、大きなお盆にのせて、料理が各テーブルに運ばれてきた。
お盆に乗っていたのは……、雌豹のポーズをさせられた、若い女の全裸死体だった。
外垣のテーブルのお盆に乗っていた女は、茶髪のロングヘアー、体型は、出るべきところは出ていて、引っ込むべきところは引っ込んでいる、モデルのようにスタイルが良い女だった。
内蔵は抜かれており、腕や、尻など、各部位に、切り込みが入っていて、そこから取ったであろう、赤い肉が4、5切れ、丁寧に並べられていた。
「どや? 百田。JKの活け造りやど。こんなん食べるの、お前、初めてやろう? タレにつけて喰ったら、最高にうまいんやど」
外垣は嬉しそうだ。
外垣は「いただきまーす」と言うと、さっそく箸を使って、お尻のうえに乗っていた肉を一切れ、つまんで、タレにつけて、口に運んだ。
「この尻肉、うんまっ♡」
ウキウキの外垣とは、対照的に、百田の方は、顔面蒼白になり、血の気が引いていた。酔いも一気にさめたようだ。
「どないしたんや、百田?」
「あ、あの、外垣会長、どうしても、これを食べなければなりませんか?」
百田が質問をすると、今までウキウキしていた外垣の顔が一瞬で、ギョロっと睨みつけるような憤怒の表情に変わった。
「アアンッ? 百田ぁ、お前、ワシの出した料理が食べられへん、言うんか?」
「め、め、め、滅相もございません」
慌てて、百田がとりつくろう。
外垣は、死体となっている若い女の首を、左手でつかむと、顔を反り返らせた。
女の顔は白目をむいていた。
「百田、見てみぃ!! このJKの顔を!! 死んどるやろう!! ワシらに食べてもらうために殺されたんや。ちゃんとおいしく食べたらな、もったいないし、このJKが、かわいそうやろう!!」
そう言って、今度は、右手で、肩の切り込みのところに乗っていた、肉の一切れを箸でつまんで、タレにつけ、口に運ぶ。
「うんうん♡、うまうま♡ 百田、お前はワシを見習わなあかんど!! ワシは『いただきます』言うて、ちゃんと感謝の気持ちを示しながら、このJKをおいしく食べとる。今頃、このJKも、天国で『外垣様、私をおいしく食べてくださって、ありがとうございます♡』って感謝しとるわ。一方……、お前は何や!!」
外垣は、そう言うと、左手でガシッと百田の頭を掴んだ。
外垣には、チンパンジー並みの握力があるのか、百田の頭はギリギリと締め上げられている。
「ひ、ひぃーっ、会長……、な、なにをなさるんですか?」
「食べられへん、言うんやったら、ワシが食べさせたるわい!!」
そう言いながら、外垣は、右手で箸を使って、肉をつまむと、タレもつけずに、次々と肉を、百田の口に放り込んでいく。
「ひ、ひぐうううっ、し、死ぬぅぅぅぅ」
百田は呻きながら、ジタバタと暴れ、必死に抵抗している。
「おどれは、大人しくしとれや!!」
そう言って、外垣は、百田の頭をつかんでいる左手に、さらに力を込める。百田の頭を締め上げる力はさらに強まっていく。
やがて、それが数十秒間、続くと、ついに頭から、バキッという音がして、百田の頭の形がグシャッっと崩れた。
「えっ?」
力を込めていてた、外垣自身が一番、驚いているようだった。
「会長……、百田の奴、頭がい骨が割れてしまったみたいですよ」
ステージ上で様子を眺めていた、正田が冷静に言う。
「あちゃ~、ワシ、またやってしもうたんか……、すまんな、百田……」
謝ったが、外垣の掴んでいたところだけ凹んで、妙な形になってしまった百田の頭部は、もう何も喋らない。
どうも、外垣が力を込めている途中で、意識を失い、絶命してしまったようだ。
「でも、会長、百田も本望だったんじゃないですか?」
正田が言う。
「え、どういうことや? ショウちゃん?」
「アイツ、言ってたじゃないですか、会長のために粉骨砕身したいって……。これぞ、まさに“粉骨砕身”ですよ」
「そうかぁ、そりゃそうやな!! さすが、ショウちゃんや。うまいこと言うわ!!」
そう言うと、また「ギッシッシッ」とギザギザの歯を見せて、大笑いしはじめた。
それに、つられて、他の幹部たちも「ダッハッハッ」「ガッハッハッ」と笑い始める。
こいつら、狂ってやがる……。
やがて、笑いが一通り、おさまると、外垣は、百田の死体を一瞥して言った。
「誰か、コレ、邪魔やから、片してぇな。この椅子も、もういらんわ……」
外道会の構成員たちが、てきぱきと百田の死体と椅子を運んでいく。
こうして、外垣の隣のスペースが、がら空きになった。




