52話 中南米コックと食餌会
午後5時からの食事会で、外垣道重を襲撃する予定だが、それまでに、まだ時間がある。
脱出経路の最終の確認をするためにも、透明ステルス化した状態で、外道会館内を探索していると、調理室から、コックの恰好をした中南米系の男性が走り出てくるのが見えた。
「モウ、イヤダ!! ワタシ、コンナコト、シタクナイ!! コレハ、殺人ダヨ!!」
コックと思わしき男性は叫んでいた。
「待ちやがれー!!」
外道会の構成員と思わしき、黒いスーツを着た、真っ赤なモヒカン頭の男と、目つきの悪い角刈り男、2人が叫びながら、中南米系のコックを走って追いかけていた。
外道会の奴らの方が、走る速度がはやく、あっという間に中南米系のコックは追いつかれてしまっていた。
角刈りが、コックを組み伏せる。
「イヤダ!! ワタシ、コンナコト、スルタメニ日本ニキタンジャナイ!! カエシテクレ!!」
「全て済んだら、帰してやるって言ってんだろうがよ!! 大人しく、言われたものをつくりやがれ!!」
角刈りが、コックを怒鳴りつける。
「ウソダ!! ワタシ、ダマサレナイ!! 全部オワッタラ、オマエタチ、ワタシタチ全員、殺ス気ダロウ!!」
「この野郎!! 何言いやがる!!」
角刈りが、さらに力を入れて、コックを押さえつける。
ヒートアップする角刈りとは対照的に、モヒカンの方は冷静だ。
「へぇー、意外と賢いじゃねーか」
モヒカンが感心したような声を漏らした。
「だがよ……」
モヒカンはバタフライナイフを懐から取り出した。
「つくらなかったら、お前、今、ここで死ぬことになるぜ」
そう言いながら、バタフライナイフを、コックの喉元に押し当てる。
少しだけ深めに切りつけられているのか、コックの喉から少量の血が流れている。
「殺シタケレバ、殺セ!!」
「へっへっへっ、そんなこと言って、良いのかな~?」
そう言いながらモヒカンは、一枚の写真を取り出した。
「これ、な~んだ?」
「ソ、ソレハ、財布ニ入レテイタ、ワタシノ妻ト娘ノ……」
「奥さん、娘と一緒に日本に来たんだってな……、5歳くらいか? お前の娘、かわいいじゃねぇか? 奥さんも30代前半くらいかな? まだまだ行けるぜ、グヒヒ」
「ヤ、ヤメロ!! 妻ト娘ニハ、手ヲ出スナ!!」
「だったら……、わかってるだろう?」
「グッ……」
コックは観念したようだ。
「まったく……、手間かけさせやがって……」
コックを組み伏していた、角刈りが言う。
コックは意気消沈し、両腕を2人の構成員の掴まれたまま、調理室へと連れられて行った。
これが外道会のやり方だ。
用済みになれば、殺されることを知りながら、働かされるコックの気持ちは、いかばかりのものだろうか。
本音を言えば、コックを助けて、逃がしてやりたかった。
オレの透明ステルス能力があれば、それを行うのは容易だ。
しかし、食事会が開かれる前に、外道会館内で、殺された構成員が発見されれば、食事会そのものが中止になりかねない。
そうなれば、外垣を始末するチャンスを失う。だから、助けることはできなかった。
オレが外垣の暗殺に成功したら、その混乱に乗じて、さっきのコックがうまく逃げてくれることを願うしかない。
あと、コックが言っていた“殺人”の意味は気になる。
外道会の連中が、人を殺しているのは、日常茶飯事だ。しかし、なぜコックが“殺人”だと声高に叫ぶ必要があったのか?
オレもバカではない。うすうすは、どういうことか、予想はついている。
しかし、オレの心が、それについて深く想像することを拒絶する。
それに、今はどうやったら、外垣を葬り去れるのか、その方法を考えることに専念すべきだ。
逃走経路の確認も終わり、午後5時になった。
ついに外道会の“食事会”が開催される。
会場となる大ホールは、前にステージがあって、天井にミラーボールなんかが設置されている。
もしかしたら、過去には、ここはディスコとして使われたり、カラオケ大会が開かれたりしていたのかもしれない。
ホール内には、白いテーブルクロスが敷かれている、10人くらいが座れそうな大きな丸テーブルが6つ並んでいる。
すでに外道会の幹部たちは、ほとんどが着席しており、あとは主催者である外垣を待つだけの状態となっていた。
オレも幹部たちにまじって、ホールの中に潜入し、端の方で息を潜めて待機していた。
それから、待つこと2、3分、ついに外垣が護衛と共に現れて、ステージの真ん前のテーブルに着席した。
護衛の数は2人、さっき車から降りたときより、明らかに少ない。
ステージの左端には演台があって、マイクが置かれている。
演台の前に、さっき“ショウちゃん”と呼ばれていたスーツ姿のアゴヒゲ男が立っていた。どうやら、この男が司会のようだ。
「これより、外道会、毎年恒例の“食餌会”を開催いたします」




