45話 山菱会
山菱会、約3万人の構成員をかかえる日本最大の暴力団組織である。
そんな山菱会のトップ、日本の首領と呼ばれている、会長・岡田龍雄を狙撃したのが1か月前だ。
オレの所属する大日本正忠団は、もともと構成員100名程度の組織だった。
弱小なりに、地元である大阪で、それなりの活動を行ってきた。
しかし、山菱会の会長が、岡田に代がわりすると、今までの融和路線から方針を転換し、正忠団にも傘下に入るよう迫ってきた。
独立心の強い、団長の晴海正は、もちろん、その要求をつっぱねたわけだが、それによって山菱会から強烈な切り崩しにあうようになった。
ある者は、山菱会系の組織の傘下にくだり、ある者は、この稼業から足を洗い、引退にまで追い込まれた。
結果、約100人いた構成員の数は、半分以下の45名にまで減少した。
このままでは、いずれ正忠団はつぶされてしまうと、焦りを感じた晴海正は、一発逆転を狙って、岡田龍雄の暗殺を計画した。
ちなみに晴海正は、オレの兄である。オレ、晴海忠は正忠団の副団長をつとめている。
兄からの指示を受け、オレはヒットマンのチームを組織し、約半年間にわたって、岡田暗殺の準備を進めてきた。
計画の最終段階では、司令塔の役割を兄に任せ、オレ自身も、岡田の狙撃に加わった。
オレを含めた3人のヒットマンが、行きつけの高級クラブにいた岡田を狙撃したわけだが、結果は大失敗だった。
4名いた岡田のボディーガードのうちの1名を仕留めたものの、岡田自身は無傷だった。
今となっても、なぜ、計画が、かくも無惨な大失敗に終わったのかが、オレには理解できない。
オレを含めた3人のヒットマンは、アメリカに渡って、射撃訓練を入念に行っていた。しかも、そのうちの1人は元自衛官だった。
そんな3人が一斉に、岡田に向けて、発砲したのだ。
はずれようがなかった。
本番の動揺で、いくらか狙いがずれたとしても、1、2発は命中していないとおかしい状態だった。
しかも、本番、オレたちは、あまり動揺せず、正確に岡田に狙いを定めることができたように見えた。
弾は、そのまま通常の弾道をえがいていれば、岡田に命中しているはずだった。
しかし、弾は一発も岡田には命中しなかった。
発砲時、オレの目には、弾が岡田の近くにまで来ると、フッと“消えた”ように見えた。
岡田は、まるで神に守られているかのようだった。
直後、岡田のボディーガードが、オレたちに向けて発砲し、オレ以外の2名は、たちまち射殺されてしまった。
オレだけが、かろうじて、あの場から逃れることができた。
逃げる際、背中越しに、岡田が「ほぉ、アイツも持っているのか、面白いのう」とコメントをしているのが聞こえたような気がしたが、その発言の意味はわからないし、空耳だったのかもしれない。
暗殺の失敗直後から、山菱会による、正忠団に対する、凄惨な報復がはじまった。
山菱会は、敵対者の死体の処理において、両極端な対応をとる組織として有名であった。
どういうことかと言うと、敵対組織に対して、恐怖心をうえつけるために、メキシコの麻薬カルテルばりにド派手な死体をつくって、目に付く場所に放置したり、ネットに動画や画像をアップしたりすることもあれば、逆に、死体の存在を隠ぺいすると決めれば、徹底的に痕跡を“消し”、まるでその人間が最初から存在していなかったかのような状況をつくりだしたりもするのだ。
この山菱ルールが、今回の正忠会への報復でも適用された。
まず、オレの兄である、団長の晴海正がさらわれ、殺された。
兄の死体は、全裸にされたうえで、首を切断され、その写真をネット上にさらされた。
“正忠団、晴海正のセルフフェラ”と題された、その死体写真は、兄の切断された首が、自分のイチモツを咥えこんでいた。
また、兄の嫁と、15歳になる兄の娘、早苗も殺された。
オレにとっては、義理の姉と姪にあたる人たちだ。
“これぞ真の親子丼”と題された、全裸の死体写真は、ディルドーをつけた、義姉の死体が、バックから、姪の死体を突いているような構図だった。
しかも、さらに倒錯したことに、首を切断し、母娘で、入れ替えた状態で、それぞれの首の付け根に縫い付けられていた。
つまり、姪の首がついた、義姉の死体が、義姉の首のついた、姪の死体を、バックから突いているような絵面になっていた。
この3人の死体写真を見たとき、オレは涙がとまらなかったし、吐いた。
「なんで、こんなことに……」と叫ばずにはいられなかった。
岡田の暗殺を計画した時点で、兄もオレも、死は覚悟していた。
しかし、なぜ、かくも兄の死が、辱められなくてはならないのだ。
しかも、直接関係のない義姉さんや、早苗ちゃんまで……。
もちろん、兄や、兄の家族には護衛がついていたが、護衛ごと殺されてしまったようだ。
そして、暗殺計画の実行時には45名いた正忠会の構成員も、この1か月の間に、ほぼ全員が“消されて”しまった。
生き残っているのは、オレ、ただ1人である……。




