44話 高速道路ゴブリンの夢
オレ、晴海忠は、恐ろしい夢を見ていた。
ゴブリンというのだろうか。
西洋ファンタジー風のゲームや小説に出てくる、緑色の小人のようなバケモノの、数万という群れが、人間を襲っているのだ。
場所は、どこかの高速道路だ。
人々は車で避難しようとしたようだが、道路がビッシリと車で埋まるような渋滞が起きていて、前に進むことは、ままならないようだった。
焼け焦げた車や、燃えながら煙をあげている車、衝突してへしゃげた車、あせって運転していてそうなったのか、それとも何らかのバケモノに蹴倒されてそうなったのかはわからないが、横転している車も何台か見える。
ゴブリン共は、ギャッギャッと歓喜の声をあげ、斧、剣、棍棒などの武器を持って、逃げる人間を追い回したり、中に人間のこもっている車のドアを破壊したりしていた。
ある若い男は、脚力に自信があったのか、車から飛び出して、走って逃げようとしていた。
命をかけた全力疾走なだけあって、陸上のオリンピック選手も顔負けの、なかなかのスピードだった。
しかし、不利な状況を、くつがえすまでには至らなかった。
壁のように立ちふさがった、10匹くらいのゴブリンに、行く手を阻まれたのだ。
若い男は、勢いで突っ切ることもできず、はじき返されて、しりもちをついた。
その間に、たちまち4、5匹のゴブリンに囲まれて、そのうちの1匹に剣で切り付けられた。
それを皮切りに、剣で切られたり、棍棒で殴られたり、槍で突かれたり、ゴブリンどもによる、男に対する凄惨なリンチが始まった。
最終的に、若い男の体は、あちこちが千切れたり、凹んだりして、至る所から血が噴き出していた。
こうなっては、もはや生前どんな顔をしていたかも、わからない。
ボロボロの人型の肉塊のようになっていた。
また、30代半ばくらいの若い夫婦と、3歳くらいの幼い娘の3人家族は、ミニバン型乗用車に閉じこもって、怯えながら、ゴブリンの襲来をかわそうとしていた。
彼らは、体を寝かせて、外からは誰もいないように見せかけようとしていたのだ。
運転席に父親、後部座席に、母親と娘がいた。
母親が、娘の頭を胸に抱きかかえて、怖がらないように視界をふさぐ。
「何も怖くないからね……。お願いだから、大人しくしててね……」
母親は、少し声を震わせながらも、娘を安心させようと、努めて、やさしい声を出そうとしているようだった。
そうだ、うまく気配を消して隠れるんだぞ、奴らに気付かれないようにするんだ。がんばれ!!
神の視点なのか、それともテレビの視聴者のような視点なのか、夢の中の、オレの立ち位置は、よくわからなかったが、とにかく、危機に瀕した親子を応援せずにはいられなかった。
「ママ……、ママ……、こわいよ……」
女の子の雲行きは、かなり怪しい。今にも泣きだしてしまいそうだ。
「お願いだから……、ね……」
「うええええええええええん!!」
母親の努力もむなしく、ついに女の子は泣き出してしまった。
女の子の泣き声を聞いて、20匹くらいのゴブリンが、ギャッギャッと嬉しそうに叫びながら、ミニバンの周りに集まってくる。
体格が大きめのマッチョなゴブリンが、大きな棍棒をつかって、激しく、ミニバンの運転席横のドアを打ちつけ始めた。
バンッ!! バンッ!!
マッチョなゴブリンが一回、ドアを打ち鳴らすごとに、凹みは広がり、ドアは奥に押しやれていく。それに伴い、ドアの歪みによって生じた隙間も広がっていく。
女の子は、音と衝撃の恐怖で、さらに激しく泣きだした。
「畜生!! こんなことなら、女神教に入信していれば良かった……。あの人たちの言葉に耳を傾けるべきだった。おお、女神様、せめて、娘を、私たちの大切な宝物である、娘の命だけでも、お助けください……、私はどうなっても構いませんから……」
運転席で身を伏せていた父親は必死に、女神に懇願している。
何なのだ……、この地獄絵図は……。
そう言えば、異常なのはゴブリンだけではない。
空には巨大なドラゴンみたいなのや、ハネの生えた巨大な虫みたいなのが、飛んでいる。
よく見たら、空の色も紫色っぽい。
月のようなものが、空に浮かんでいるが、それにしても、数がおかしい。
月みたいな衛星が3つ、空に浮かんでいるのだ。
ここは、本当に地球なのだろうか。
マッチョなゴブリンが、その太くて立派な腕で、運転席にふせていた父親の首ねっこをつまんで、外に放り出す。
そして、尻もちをついた父親に、勢いよく巨大な棍棒の一撃を叩きこむ。
「うわああああああああああ、たすけてくれえええええ」
一瞬で、父親は押しつぶされ、なんだかよくわからない、大量の血と、肉の塊に変貌した。
不謹慎にも、オレは、ハエ叩きで、激しくハエを叩いた後の死骸を拡大したような姿だなと思った。
後部座席の前のドアにはりついていた通常サイズのゴブリン共も、ドアのガラスを割り、母親から奪い取るような形で、女の子を引っ張りだそうとしていた。
「こわい!! こわいよ!! ママ!! 助けて!!」
女の子が、必死に母親に助けを求める。
しかし、母親の抵抗もむなしく、女の子は、ドアの外に引っ張り出されてしまった。
3、4匹のゴブリンがニヤニヤしながら、一斉に、剣や斧を、小さな女の子に振り下ろそうとする。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その瞬間、オレは叫びながら、目を覚ました。
これで、この手の夢を見るのは何回目だろうか。
1週間くらい前から、何度か、こういう夢を見ている。
心なしか、夢の視聴時間が長くなり、映像も、より鮮明になってきているような気がする。
まぁ、1か月前に、逃亡生活を始めてから、悪い夢しか見ていないのだけど……。
あと多いのが、サイレンが鳴る中、パトカーに囲まれ、警官に見つかり、手錠をかけられて逮捕される夢と、山菱会の連中に見つかり、拷問され、殺される夢だ。
どれもろくな夢じゃねぇな。
そもそも、この1か月、安心して、まともに2時間以上、眠れたことがない。
わけのわからんファンタジー世界のモンスターに襲われるのと、山菱会の連中に捕まるのと、どっちが、まだマシなんだろうか?




