41話 ドタキャン野郎
午前11時30分、俺は、5人の信者といっしょに、西園寺クリニックの近くで待機していた。
ナギを利用するだけ利用して、捨てた男、聖哉が来るのを待っているのだ。
5人の信者のうち、1人はナギで、あとの4人は、非番の警察官など、屈強そうな信者を集めた。
ナギに返事のメッセージを送らせて、11時に西園寺クリニック前でおちあう約束をしたのだが、聖哉の姿は、まだ見えない。
「聖哉は、時間にだらしのない男のようだな」
俺が問いかけると、ナギが答える。
「いつも、そうだったっちば」
世の中には、時間を守れない人間がいる。
時間を守れない程度なら、かわいい方で、約束自体を守れず、いとも簡単にドタキャンしてくる奴もいる。
俺が過去にのぞきみた、ナギの記憶を思い起こせば、聖哉がどんな奴なのか、わかりそうなものだが、そうすることで、ストレスがたまりそうなので、なるべくなら、やりたくない。
約束の時間から10分が過ぎた時点で、ナギから「まだ来ないのか」というメッセージを送らせているのだが、返事がくるどころか、既読にすら、なっていないらしい。
「なぁ、ナギ、無駄だとは思うが、もう一度、催促のメッセージを送ってみろよ」
「わかったっちば」
そう言って、ナギがスマホ画面をチェックする。
「あっ、聖哉から返事がきたっちば!!」
そう言って、ナギが、俺にスマホのメッセージ画面を見せる。
『ごめん、急に予定が入って、行けんくなった。また今度にしよ』
はぁ? 何じゃ、そりゃ。
そもそも、会いたいと言ってきたのは、コイツの方だろう。
予定が入って行けなくなったのなら、約束の11時前、贅沢を言えば、ナギが家を出るか、家で準備をしているであろう時間には、無理になったって、言ってこいや。
世の中には、殴りたくなるような奴が多すぎる。
こういう奴って、犬と一緒なんだよな。
心の中に序列をつくっていて、自分より格下の存在だとみなすと、容赦なく、侮った行動をとってくる。
いや、「犬と一緒」なんて言ったら、犬に失礼か。犬は、かわいげがあるし、もっと賢いものな。
この聖哉という男は、ナギのことを下に見ているから、いくら時間を無駄にさせても平気なのだ。
バカ女だった頃のナギなら、それで良いのだろうが、今回は違う。
俺や、他の信者の時間も、無駄になっているのだ。
「おい、ナギ、これは教祖命令だ。どんなエサで釣っても構わない。何としてでも、この聖哉というバカ男を呼び出せ!!」
「わ、わかったちば……」
ナギは1分間ほど、考え込んでから、スマホにメッセージを打ち込み始めた。
それから聖哉の反応を待つこと5分。
「今すぐ、くるって言ってるちば」
どんなエサで釣ったのかは気になるが、とりあえず、やってくるらしい。上出来だ。
それから、さらに20分が経過した。
ついに聖哉と思わしき、20代前半くらいの若い男が現れた。
身長は160cmくらいか。
茶髪の前髪を伸ばしている。
顔立ちは整っている方だろうが、顔がデカくて、脚が短い。
何が良いのか、さっぱりわからん。ナギは、なぜ、この男に惚れ込んだのだろう。
「よぉ、ナギスケ、久しぶりだなぁ。お待たせ」
聖哉と思わしき男が、なれなれしく声をかけながら、ナギに近付いてくる。
俺と、ナギを除いた4人の信者は、しばらく、少し離れたところで、聖哉とナギが歓談している様子を観察する。
聖哉の奴、大分、油断してきているようだな。よし、行こう。
俺が手で指し示すと同時に、4人が逃げられないように聖哉を取り囲む。
「な、なんだよ、お前らは?」
聖哉は怯えているようだ。
「お前が聖哉だな?」
俺は、聖哉の言葉を一切、無視して質問した。
「なんだよ、おっさん。お前の質問に答える必要なんて、あんのかよ」
「この4人の男たちは、俺が命令すれば、お前を袋叩きにする。痛い目を見たくなければ、返事した方が良いと思うがな」
「お、俺を脅すのかよ。わ、わかったよ。確かに、オレが聖哉だよ……」
やけに簡単に認めたな。自分が聖哉だとバレたら、身に危険が迫る、とか考えないのだろうか。
「そうか……」
そう言って、俺は、聖哉の頭をつかみ、魔力を送り込むことで、気を失わせる。
今回は、まだ洗脳はしていない。
洗脳すれば、女神教の信者になり、自分たちの身内になるからだ。
そうなると、これから聖哉に行う予定のことが、やりにくくなる。
「こ、ここは……」
聖哉が目を覚ます。
聖哉は、西園寺クリニックの地下階の手術室にいた。
裸にされ、手足を鎖でつながれた状態で、大の字に寝かされている。
皮肉にも、2日前のナギと同じような恰好だ。
「こ、これはどういうことだ? オレをどうする、つもりだ?」
聖哉の前には、顔を包帯でぐるぐる巻きにして、手術着を着た老人が、手にメスを持って立っていた。




