36話 白衣を着たミイラ男
深夜0時頃、別の班が拉致してきた人間が監禁されている、西園寺クリニックの地下階へ移動する。
そこには10人の人間が手足を縛られ、気を失って寝かされていた。
メイド女学院の客の中でも、女神教で、役に立ちそうな地位や能力を持っていると判断された人間たちだ。
店の女の子たちに、連絡を取らせて、呼び出し、こうやって一か所に集めたのだ。
女神教の発展のためには、人材を集めなくてはならない。
三国志の曹操(ツァオツァオ)のように人材コレクターにならなくてはならないのだ。
「そう、俺はツァオツァオのようになる……」
縛られた客たちを見下ろしながら、俺は、ひとり言を言っていた。
「教祖様、ツァオツァオ……ですか?」
横に立っていた、寺田くんが反応する。
「いや……、寺田くん、聞かなかったことにしてくれないか?」
「ツァオツァオが何を意味するのか、すごく気になりますが……。きっと、教祖様にしか、わからない深い意味があるんでしょうね!! わかりました!!」
違うんだ、寺田くん。
曹操をピン音(中国語の発音)で読んでみただけなんだよ。
ツァオツァオ、言うてみたかった、だけなんだ。
寺田くんは、三国志の曹操すら知らない可能性があるし、いちいち全部、説明するのが面倒くさくなって逃げただけなんだよ。許してくれ。
「教祖よ、この者たちを、どうなさるのですかな?」
俺が、心の中で取り乱しているうちに、気が付いたら、白衣を着て、杖をついた老人が、そばに立っていた。
顔は、目元と口元以外は、包帯でぐるぐる巻きになっており、メガネをかけている。
俺が左手のグーパンチで、左ほおを骨折させた西園寺院長だ。
急に、白衣を着たミイラのような怪人が横に立っていたので、俺は驚いた。
「い、院長……、急に現れて、ビックリさせないでくださいよ」
「確かに、今の私は、ミイラのような見た目をしていますからな。教祖が、驚かれるのも、無理はありますまい。ハッハッハッハッ」
何だろう……、この人。
拉致した人たちをクリニックの地下に監禁するので、打ち合わせのために何度か電話で話したのだけど、洗脳してから、妙に明るくなったし、活き活きしだしたように見える。
「それで……、この人たちをどうするか、ですよね? もちろん、有用な人材ですから、洗脳して、我が教団のために働いてもらいます」
そう、俺は、ツァオツァオのようになるからな。
「そうですか。もし、何人か余っているようなら、解剖させていただければと思ったのですが……」
アホか、このジジイは。そんなのアカンに決まってるだろう。
そもそも、“余っている人”なんて、この10人の中には、1人もいないわ。
「西園寺院長、言っておきますが、今後、よほど特殊なケースで、俺が許可を与えた場合でない限り、人間の解剖は禁止です」
「えっ……」
院長はそれを聞いて、杖をポトリと落とした。
えっ、それ、そんなにショックなことだったのか? 当り前だろう。
それにナギを見つけるまで、40年くらいは枯れたようになって、解剖をもしていなかったのではないのか。
院長は、あわてて代替案を提案しはじめた。
「そ、それでは教祖よ。“改造手術”を行うのは許されますかな?」
「改造手術? 具体的には、どんな?」
「人間をサイボーグ化して、体に武器を埋め込んだり、魔法使いが魔法を使うメカニズムを解明して、それを魔法を使えない人間に移植したりするのです」
「人間のサイボーグ化と、魔法の移植ですか。確かに、魔法を移植できたら便利そうですね……」
確かに、便利そうだな……。
しかし、見た目といい、発言内容といい、西園寺院長は、ますます仮面ラ〇ダーのショッ〇ーじみてきているな。
俺の反応を見て、脈ありと感じたのか、落ち込んだ顔をしていた、西園寺院長の顔がパッと明るくなった。そして、さらに改造手術について話を、ぶっこんでくる。
「そ、それでは教祖よ。魔法能力を移植するためには、魔法使いを捕まえて、解剖し、魔法発生の仕組みを解明しなければ、なりませんぞ」
結局、着地点は、そこなんかい。人間を解剖したいだけじゃないか。
「院長、もしかしたら、将来的に、そういうことが必要な場面が出てくるかもしれません。ただし、それは状況に応じて、俺が判断します。勝手なマネはしないでください」
「わかりました。教祖よ、私は、人生の最後で、究極のフロンティアを見つけることができて、最高に興奮しておりますぞー!! 長生きしていて、良いこともあるものですな!! 魔法発生メカニズムの解明、必ずや、やり遂げてみせます!!」
どうも院長の科学的な探究心が刺激されて、こんなふうに活気づいているらしい。
院長のことさておき、今、寝かされている10人の洗脳を行わなければならない。
コンビニ店員時代もそうだったが、俺は効率を大事にしたい人間だ。
基本的には効率厨なのだ。
寝ている人間は、そのままの状態で洗脳する方が抵抗されず、余計な手間がかかならくて良い。
逃げられたり、噛みつかれたりするリスクもないしな。
ただし、必死にあがく姿や、恐怖する人間の顔を見ることができないのが、退屈ではある。
いかん、俺は何を言っているのだ。考える内容が少し、リョーコみたいになってきたな。
俺は、自分の信条にしたがって、9人目までは効率的に洗脳することができた。
しかし、10人目に差しかかって、ちょっと遊んでみたい、という気持ちが急激に刺激された。
なぜなら、10人目は、二番煎じの小物yourtuber、ジカキンだったからである。
茶色いパッツン頭に、真っ赤なセルロイドのメガネをかけた、30代くらいの小太りな男がスヤスヤと、何も知らずに、呑気に眠っていた。




