31話 雷通のメディア企画局長
五反田周辺の交番の洗脳が終わり、信者数は68人まで増えた。
当面の目標である、100人まで、あと32人だ。
俺はナギと一緒に、いったんメイド女学院に戻ることにした。
時刻は午後4時半を少し過ぎていた。
「お帰りなさいませ、教祖様」
いつものように吉松店長が俺たちの帰りを迎えてくれる。
最初は、どうせ「お帰りなさいませ」と言われるならば、こんなオッサンにではなく、かわいい猫耳メイドに言われたい、と思っていたが、もはや数日で慣れてきた。
これはこれで、味があって、良いのかもしれない。
「そう言えば、吉松店長、そろそろ、利用客の名簿は完成しましたか?」
「確認されますか?」
ナギ、店長といっしょに、奥の事務所スペースへ行く。
ОAイスに腰かけて、パソコンの画面を見る。
約500名ほどの、店の利用客の予約名、職業、年齢などが一覧で表示されていた。
この前、見たときは100名くらいしかリストに載っていなかったので、人数はかなり増えている。
「実際の利用客の数は、もっと多いのですが、ある程度、女の子と親しくなって、職業などの個人情報を把握している客の数となると、これくらいになります」
「これ以上、リストに記載される人数は増えませんか?」
「そうですね。思い出したお客さんの個人情報や、新規のお客さんが増えたら、随時、情報を追加で報告するように言ってはいますが、情報が集まるペースは、明らかに落ちています。これから急激にリストの人間の数が増えることはないと思いますね」
俺はリストに目を通す。
まず気になったのが、前に見たときにも名前が載っていた、yourtuberジカキンの存在だ。
「うーん、何回見ても、ジカキンの名前が気になる……」
「大ちゃん教祖様、ジカキンが気になってるっちば?」
ナギが俺に聞いてくる。
「そうだな……。たしか、有名yourtuberをパクった名前をしている二番煎じ野郎で、10万人以上もチャンネル登録者がいるんだろう?」
「大ちゃん教祖様は、yourtubeに無知すぎるっちば!!」
「えっ、それはどういうことだ?」
「youtuberが話題になってから、もう何年も経ってるちば。今の時代、チャンネル登録者数が10万をこえるyourtuberなんてゴロゴロいるし、大したことないっちば」
「そういうものなのか?」
「ジカキンなんて、小物っちば!!」
「うーん、そうか……」
小物だろうが何だろうが、今は信者獲得のために猫の手でも借りたい状態なのだから、洗脳して信者にすれば良いのではないか、と思った。
ただ、ここまでナギが悪しざまに言うということは、何からの理由があって、ナギはジカキンのことが嫌いなのだろうな。
俺はリストの続きに目をやる。
「高塚秀夫……、この人は使えるかもしれないな」
高塚秀夫、48歳。東大教養学部を卒業しているらしい。
なぜ、学歴まで把握されているのだろう? 女の子に学歴自慢でもしたのだろうか?
日本最大の広告代理店である雷通で、メディア企画局長という肩書きを持っているようだ。
雷通は、テレビやラジオの番組をつくるための、お金を提供してくれるスポンサー・広告主を押さえている企業で、メディアを支配している、と言われている。
ネットメディアによる影響力が大きくなったと言え、いまだ、老若男女を問わず、共有できるような話題を提供しているのはテレビだ。
俺が小さい頃はテレビが大好きだったな。
平日の夜は、お笑い芸人のバラエティ番組を見て、金土日は、テレビで放映される映画を見ていたものだ。
俺が中学生くらいになるまで、インターネットは、それほど一般人には身近なものではなかった。
高校生になり、はじめてインターネットに接続して、WEBサイトを見るようになった。
ただ、見るWEBサイトも、現在から見たら、とても簡素な内容で、WEBサイトに動画をのせるなんて、もってのほか、容量の大きい画像すら、サイトにのせられていることは稀であった。
容量の大きい画像なんてのせられていようものなら、訪問者はカクッカクッと、まるで安物のカラープリンターが写真を印刷する時のように、少しずつ画像が表示されていくのを辛抱づよく待っていなければならなかった。
今では動画は見放題だし、個人が気軽に動画をアップできる。
良い時代になったものだ。
いかんいかん、つい昔のことを思い出してしまった。
今のテレビはあまり好きではないし、テレビを見る頻度もさがっているのだけど、それでもやはり、テレビは主要な、情報を共有するための装置なのだ。
想像の共同体を維持するためには、テレビのようなメディアが必要だ。
どんなに人気で、チャンネル登録者が100万人をこえているトップyourtuberでも、田舎の農村に行って名前をたずねてみたら、90%以上の人間が、誰だかわからないなんてこと、ザラにありそうだ。
そもそも、名前や顔の情報が、共有されていないのだ。
その点、テレビに頻繁に出ている有名人は違う。
だからこそ、雷通のメディア企画局長の高塚秀夫、この男は使えるだろう。
「高塚さんは、1回だけナギを指名してくれたことがあるっちば」
「どんな感じの人だった?」
「うーん」
ナギが、あごに人差し指をあてて考えている。
「ゴルフが好きみたいで、よく日焼けしていたっちば。よく遊び、よく仕事するって感じ。なんか、ギラギラした人だったっちば」
ナギの指名客は、オタクの大人しくて、やさしい人が多いというのが、俺のイメージだ。
やさしい、もとい、カモられやすい人が多いイメージ。
指名が1回だけだったというのは、ナギとは合わなかったということだろう。
俺とも、あまり合わなさそうな気がするが、洗脳してしまえば、絶対服従だから関係ない。
よし、この高塚という男を洗脳しよう。
俺は、名簿のチェックを行い、高塚、ジカキンを含めた合計35人を明日の終わりまでに洗脳することとした。
情報を提供したデリヘル嬢に、何らかの理由をつけて客を呼び出せたのち、洗脳する。
計画通りすすめば、明日の日付が変わるまでには、目標である100人の大台を突破できるだろう。




