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30話 五反田交番の隠ぺい

 ようやく、五反田周辺にある6箇所の交番、全てに、最低1人は信者の警察官を確保することができた。


 最後に訪れたのが、この五反田交番だった。


(だい)ちゃん教祖様、大丈夫っちば?」


「教祖様、大丈夫ですか?」


 駆け寄ってきたナギと青山くんが、心配そうに、俺に聞いてくる。


「教祖様、お怪我はありませんか? 私の判断が遅れたばかりに、申し訳ありません」


 高橋巡査が詫びてくる。


「俺は大丈夫だ」


 本来であれば、突き飛ばされて転んだ俺よりも、肩を撃たれて、そこでぶっ倒れている、ニット帽の彼(湯島くん)の方が、はるかに重傷であるし、彼の心配をすべき場面なのだが、洗脳された3人にとっては、俺の安全の方が優先されるらしい。


 しかし、我ながらヘマをしてしまったなと思う。


 湯島くんは、肩から大量の血を流して倒れているし、さっき洗脳したお巡りさん、中津川(なかつがわ)巡査部長も手から血を流して、気を失っている。


 そして、この結果が生じるまでに、2発の銃弾が発射されているのだ。


 警察官は、当直が終わるたびに、装備品の確認をするのではなかったか?


 警察官を信者にすれば、拳銃を撃たせ放題だと、安直に考えていたが、冷静に考えてみれば、装備品を厳重に管理されている現在の日本警察において、そんなにバンバン拳銃を撃てるものでもないよな。


 それこそ、好き放題撃てるのは『天才バ〇ボン』の中の本官さんくらいだよ。


 警察官を洗脳して信者にしていれば、心強いのは確かだが、銃の使用という一点に限っていえば、なかなかに使い勝手が悪い。


 それなら、イマドキ、そんなヤクザがいるのかはわからないが、襲撃用に手りゅう弾やマシンガンを保管している武闘派ヤクザを信者に加えた方が、よほど使い勝手が良いのではないだろうか。


 2発の発射について、どう、つじつま合わせを行おうか。俺は頭を悩ませる。


 変にひねったストーリーにすると、事態がややこしくなるのは目に見えている。


「よし、こうしよう!!」


 俺は手を叩きながら言った。


「ナギ、湯島くんは、今回の交番襲撃用にナイフを持ってきていたよな?」


「持ってきてるっちば」


「湯島くんのことを不審に思った、高橋巡査と中津川巡査部長は、湯島くんに任意同行をもとめた。交番まで、おとなしくついてきた湯島くんだったが、交番で取り調べをうけるうちに、ナイフで暴れ出した。そこで、やむなく高橋巡査が、いかく射撃を行い、中津川巡査部長が湯島くんの肩を撃った」


「今回のつじつま合わせに、このストーリーならどうだ?」


 俺は3人に意見をもとめた。


「湯島さんが、かわいそうっちば……」


 ナギが湯島くんに同情するような発言をする。


 よく言うよ。さっき湯島くんより、ほとんど無傷の俺の心配をしていたくせに……。


 ひん死の湯島くんを尻目に、どう隠ぺい工作をするか、相談している今の状態も、なかなかにサイコパスな光景だと俺は思っている。


 そんなサイコパスな打ち合わせに平然と参加している女が言うセリフではない。


「私は、主任の手を撃ったのですが、さっきの教祖様のストーリーですと、主任の手の傷とつじつまがあわなくなるのではないでしょうか」


「うーん、そっか」


 俺は、さらに別のストーリーを考える。


「なら、これならどうだ? 任意同行を求められた湯島くんは交番までついてきたが、交番で高橋巡査から拳銃を奪いとった。発砲の危険を感じた中津川巡査部長は、湯島くんの肩を撃った。しかし、ほぼ同時に中津川巡査部長も、湯島くんに手を撃たれた」


「これなら、どうだ?」

 

 俺はふたたび、3人に意見をもとめる。


「拳銃強奪犯(ごうだつはん)にまでされて、ますます、湯島さんが、かわいそうっちば……」


 だから、お前が言うな。


「それだと、ある程度、つじつまも合いますね」


「そうか。それなら、あとは目を覚ました中津川巡査部長と、さっきのストーリーを共有したうえで、高橋巡査の方から、湯島くんのために救急車を呼んであげてくれないか?」


 当初、こっそり西園寺クリニックに湯島くんを運ぶことも考えたが、さっき考えたようなストーリーが発生した場合の流れに沿った、医療機関に搬送される方が良いだろう。


「それじゃあ、俺たちは、ずらかるか。高橋巡査、あとのことは頼みます」


 今回のハプニングの当事者3人は、全て、女神教の信者だから、話は丸くおさまるだろう。


 ただ、警察官が拳銃を奪われたとなると、新聞にのるような大事であるため、それが少し気になる。


 湯島くんには申し訳ないことをしてしまった。盾となって、献身的に俺のことを守ってくれたのに、警察に差し出すようなことになってしまった。


 いずれ、機会がくれば、彼の献身には報いたい。



 今、俺たち、女神教の存在を社会に知られるわけにはいかないのだ。


 存在を知られていなければ、ほぼ100%に近いかたちで不意打ちが成功し、勢力拡大を続けることができる。



 かつて『デ〇ノート』という漫画が流行っていた。


 あの漫画の主人公は、俺よりもはるかに天才であるしイケメンだが、ヘマをしている。


 顔と名前を知れば、人を殺せる存在がいて、しかも関東に住んでいるということを、わりとすぐに絞り込まれてしまっているのだ。


 本当ならば、探偵の策など無視して、一切のヒントを与えなければ良かったのだ。


 殺意を持った人間が人を殺しているのか、それとも自然現象なのかも、区別がつかない状態を維持しておけば良かった。


 まぁ、敵の探偵も、天才なので、それならそれで、別の絞り込み方法を考えるのだろうが……。


 

 また別の話だが、アキネイターというサイトがある。

 

 ランプの魔人のようなオッサンが出てきて、いくつかの質問に答えると、自分が想像していた実在もしくは架空の人物を当ててくれるというサービスだ。


 20ぐらいの質問に答えると、大体、正解を言い当ててくる。



 これらの事例から、俺が言いたいのは、強制的に回答を強いるような、質問をいくつかすることによって、かなり対象をしぼりこめるということだ。


 そして、回答を強いられる質問と言うのは「~ですか?」という明確な質問文でのみ、行われるわけではない。


 物的証拠、状況の調査や、『デ〇ノート』のように罠をしかけることによっても、問いによる絞り込みは行われるのだ。


 だから、俺たちは、自分たちの存在を絞り込めるようなヒントを、なるべく与えてはいけないのだ。


 我々の存在、能力につながるようなヒントは隠ぺいしなくてはならない……。

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