28話 五反田交番の異変
その日のオレは、非番だった前日に、パチンコで負けこんでいたためにムシャクシャしていた。
大崎警察署に出勤し、スーツから制服に着替え、装備品の点検を行ってから五反田交番に向かう。
五反田交番に着いたのが午前10時前だ。前日の担当だった武田と山本から報告を受ける。
特に大きな事件は起きてはいないようだ。
明日の10時前に交代の当直がくる。
途中、仮眠時間もあるが、それまでの24時間がオレの勤務時間だ。
今日の担当はオレと高橋直樹だ。
高橋は、オレと同じ高卒の警察官だ。年齢は20歳。
最初に配属されたのが、この五反田交番だった。
警察学校を卒業後、配属されてから1年半、オレが指導係となって交番勤務での仕事を教え込んできた。
オレが45歳なので、オレから見たら息子くらいの年齢だ。
オレが20代で結婚して、子供をもうけていたら、ちょうど高橋ぐらいの息子がいてもおかしくはない。
幸いオレは結婚しておらず、独身だが……。
高橋は中高とバスケットボール部で活躍していたらしい。
少年らしさが残る、さわやかな若者だ。
時々、ビックリするくらいノリが軽い時があるが、基本的には、年長者であるオレに対して、敬意を持って接してくれている。
「主任、どうされたんですか? 不機嫌そうな顔して……」
ちなみにオレは、階級が巡査部長で、交番では主任という役職なので、高橋からは主任と呼ばれている。
「実は昨日、パチンコで2万円ほど、負けこんでな……」
「またパチンコ、やったんですか? 本当、主任はギャンブルが好きですよね」
「人生自体がギャンブルみたいなもんだからな。調子の良い時もあれば、悪い時もあるもんさ。オレは、その時の波に身をまかせていたいんだ……」
「まーた、主任の人生ギャンブル論が始まった。そんなこと言っといて、負けこんでたら、不機嫌そうな顔してるんだから世話ないですよ。負けてるからって、当たらないでくださいよ」
「そんなことはせんよ。まぁ、まじめな高橋くんは、かわいい婚約者の彼女に逃げられないように、ギャンブルなんぞに目もくれず、一心不乱に仕事に打ち込みたまえ」
「はーい」
高橋には3か月に結婚式をあげる予定の婚約者がいるのだ。
なんでも中学1年の時から7年間、ずっと付き合ってきた彼女らしい。
青春だねぇ。若いって、うらやましいわ。オレのような、半分、枯れたダメおっさんにはまぶしすぎる。
12時までは交番で来訪者や電話の対応を行い、12時からは昼食をとった。
13時から、オレひとりで地域の商店や家庭をまわる巡回に出た。
16時ごろ、巡回をおえて、交番にもどろうとすると、交番がおかしな状況になっていることに気付いた。
交番の中に4人の男女が立っていたのだ。
そして、事務机の前にあるイスに座っていた高橋は、体をそらせた状態で、白目をむいて、口からよだれを垂らして、気を失っていた。
この4人の男女に、高橋が何かをされたことは疑いようがなかった。
オレは、ホルスターから拳銃サクラを抜くと、両手で構えて、交番の入口まで近づいた。
「お前達、両手をあげろ!!」
高橋の方を見ていた4人が、一斉にオレの方を振り返る。
1人は、身長が約180cm、年齢は30代後半くらいの、冴えない感じの男。
きっと、うだつのあがらない人生を送ってきたのだろう。男の人生が顔に、にじみ出ていた。
他に、20代前半のカラオケ店のアルバイトにでもいそうな感じの若い男が1人。
黒いニット帽をかぶり、あごひげを生やした、少しヤンチャそうな20代後半くらいの男が1人。
最後の1人は、20代前半くらいの小柄な女の子だ。なかなかの美人だ。
ベージュのワンピースのうえに、同色のジャケットをはおっており、女の子らしい服装をしている。
この4人組の外見には統一感がない。
なんの集団なのだろうか。不気味な連中だ。
「他のお巡りさんが帰ってきたみたいっちば……」
若い女が言った。
オレはとりあえず、4人組に銃口を向けながら、再度、命令する。
「お前達、聞こえなかったのか? 両手をあげろ、と言ったはずだぞ」
4人がゆっくりと両手を挙げる。
「そこにいる警察官に何をした?」
冴えない感じの男が代表して答える。
「おまわりさん。撃たないでください。俺たちは何もしていませんよ」
「白目をむいて、気を失っているんだ。何もしていないわけがないだろう!!」
冴えない感じの男が質問してきた。
「お巡りさんは、きっと俺と同じで、昭和の生まれですよね?」
「何を言っているんだ。話をそらすな。早く、質問に答えろ!!」
「『天才バ〇ボン』は、やはり昭和50年代に放送された『元祖天才バ〇ボン』が一番、しっくり来ると思いませんか? 富田耕生さんがパパで、林原めぐみがバ〇ボンを演じていた『平成天才バ〇ボン』とかもあるけれど、やっぱり何か違うと思うんですよね……」
「お前、ふざけてんのか?」
「お巡りさんが、そうやって、簡単に、怒りながら銃口を向けるのは、やっぱり『元祖天才バ〇ボン』の肝付兼太ボイスの本官さんから影響を受けたからなんでしょう?」
「いいかげんにしろ、このオタク野郎!!」
オレが怒鳴った瞬間、後ろから声が聞こえた。
「主任、そこまでです!! 何をやってるんですか!! その方に銃口を向けるなんて、なんと畏れ多い!!」
声の主は、さっきまで気を失っていたはずの高橋だった。
高橋は、拳銃サクラの銃口を俺のほうに向けて立っていた。




