27話 交番襲撃犯キラーの中津川
オレの名前は中津川亮二。
五反田交番に勤務する45歳の警察官だ。階級は巡査部長。
高校卒業から27年間、ずっと警察官として働いてきた。
とは言っても、別に強い正義感を持って、警察官になったわけではない。
安定した公務員の仕事だから、警察官になることを選んだのだ。
幸い、中学時代から野球部に所属しており、体力には自信があったし、体育会系のノリにもなれていた。
この仕事は危険と隣あわせ、というイメージを持っている人もいるかもしれないが、オレは全く気にならなかった。
人間、運が悪くて、死ぬときは、どんな仕事をしていても死ぬものだ。
人間が生きていること自体が、ある種のギャンブルなのだ。
生命保険の掛け金の元をとれるかどうかもギャンブルだし、危険とみなされている代わりに、少しお給料が高めの仕事で死ぬかどうかもギャンブルだ。
自分が責任をもって張った目で、負けたら、それはそれで、やむをえないことだ。
安定した公務員だから、この仕事を選んだことからも大体、わかってもらえるだろうが、俺は警察官の仕事に、高い理想をもっていないし、燃えるような情熱もない。
ただ、お給料に見合うだけの仕事をしなければならないと思っているだけだ。
情熱はないが、この仕事、特にポリスボックス(PB)勤務は、それなりの裁量権があって楽しい。
時間配分や、パトロール中の仕事内容について、一定の範囲内で、上司におうかがいを立てることもなく自分で決めることができるのだ。ストリートレベルの行政職員というやつだ。
警察署の警務課(総務系の仕事をする部署)で、上司の決裁をあおぐ事務仕事をした経験があるからわかることだが、自分だけの判断でいろんなことを決められるのは、主体的に仕事をしている気分にもなれるし、テンションがあがるものだ。
それに、道に迷ったお年寄りや、困っている人を助けて感謝された時には、やはり、それなりに、この仕事をしていて良かったなと思う。
安定した仕事をさがしていたら、なりゆきで公務員の警察官になったが、それなりにやりがいを感じていて、楽しく仕事をこなしている、というのがオレの現状だ。
給料は、商社マンや銀行員なんかのエリート様と比べれば、涙が出るほど安いが、高卒の自分がもらえる額としては、まぁまぁ満足できる額だとは思っている。
公務員なので、給料表に従って、毎年、少しずつ給料があがっていくしな。
今のご時世、もっと厳しい経済事情の人もたくさんいるだろうし、自分はめぐまれているほうだと考えるべきだろう。
好景気で、自分たちのふところがホクホクのときには、何も言わず、景気が冷え込んだとたんに、思い出したように公務員たたきをはじめる、年収1,000万以上のテレビ局のエリート様たちには正直、死ねとしか思わないが……。
キレイな独身寮にすんじゃいけないのかよ、テレビ局のエリート様。
公務員ふぜいは、きったない築50年以上の昭和にたてられた建物に住んでろってことか。
年齢は同じなのに、オレの給料、テレビで偉そうにコメントしているアンタの半分以下なんすけど……。
おっと、怒りのあまり、つい話が脱線してしまった。
実はオレには、10年前に起こった事件から、ある異名がついている。
その異名と言うのが“交番襲撃犯キラー”だ。
10年前、32歳、無職の男Aが、北区の赤羽交番にいた警察官Bを襲撃し、拳銃を奪い、発砲した。
銃撃を受けた警察官Bはまもなく死亡した。
警察官Bが銃撃されるのを目撃していた、同じく赤羽交番に勤務する警察官Cが、無職の男Aに対して発砲、男Aは胸を撃たれ、病院に搬送されたが、2時間後に死亡が確認された。
この無職の男Aを射殺した警察官Cというのがオレのことだ。
同僚を銃撃した、無職の男Aは大学卒業後、就職した会社をすぐにやめてしまい、以後10年間ずっとニートを続けていたような社会の負け犬だった。
そんな社会の負け犬が、自暴自棄になって、たまたま近くにあった交番の警察官や、なんの関係もない善良な人々を巻き添えにして自滅しようとしたのだ。
クズは勝手に一人で死んでろよ、と思う。
事件後、オレは査問を受けたし、多くの同僚が、人間を1人殺すという重い十字架を背負ったオレのことを心配してくれたが、当のオレ自身は、あの男を射殺したことに対して、なんの罪悪感も感じていなかった。
むしろ、あの男を射殺する瞬間、オレは自分がなすべきことをなしているという、確かな満足感があった。
警官から銃を奪って、社会に迷惑をかけようとするなゴミ野郎は、殺処分されて当然なのだ。
だから、オレは同じようなシチュエーションに置かれたら、何度でも、何人でも、社会のゴミを殺処分してやるつもりだ。
それが“交番襲撃犯キラー”たるオレの役目なのだから……。




