24話 西園寺院長の過去 その4
西園寺公彦は、是名少将から直々に、生体解剖で執刀するように指示された。
公彦は、生体解剖の補助はしたことがあるが、メインとなって執刀したことは一度としてなかった。
軍医でもない、軍属の少年が解剖研修で執刀するというのは極めて異例なことだ。
公彦は、自分の働きが評価されたのだと喜んだ。
そして、公彦にとって“運命の日”である、4月24日が訪れる。
通常であれば、研修の下準備は、公彦が行うのだが、今回は特別扱いで、別の軍属の少年が準備を行ってくれた。
この日のために、公彦は気合を入れて、勉強をしてきた。
解剖書や手術書を読み込み、解剖経験のある軍医からミッチリ、レクチャーも受けた。
公彦は、今日で自分のキャリアはさらなる飛躍をとげるのだと考え、期待に胸をふくらませていた。
手術室には、解剖を担当する軍医2名と公彦、衛生兵2名、立ち合いに来ていた是名少将と副官の合計7名が待機していた。
あとは実験材料が連れてこられるのを待つだけだ。
そして、ついに彼女が憲兵に連れられてやってきた……。
「なんで、君がここに?!」
公彦は思わず言葉をあげた。
そこにいたのは河島ユリエだった。
ユリエは人民服を着ており、両手を縄で縛られていた。
また、右目の下にはアザがあり、何らかの虐待を受けたであろう痕跡がみてとれた。
いつものような華やかさはなかったが、そこに立っていたのは、紛れもなくユリエであった。
「公彦さん!!」
ユリエも声をあげる。
ユリエの隣に立っていた、30代後半くらいの丸メガネをかけた憲兵が説明をする。
「この女の父親、河島耕作はK市の責任者という要職にありながら、裏で八路軍(中国共産党軍)とつながっており、我が軍の情報を流していました。また、この女、河島ユリエも、是名機関の関係者と接触をはかり、情報を盗み出そうとしていたのです。よって、この女、河島ユリエは是名機関で処分することとしました」
「ユリエ……、君は僕を騙していたのか?」
「違うわ!! 公彦さん。信じて!! 私、本当にお父様のこと、何も知らなかったの!!」
「黙れ!! この女狐め!!」
憲兵がユリエを怒鳴りつける。
公彦の頭の中は、激しく混乱していた。
今まで、ユリエとの甘い人生を夢見ていた。
公彦は、今まで実験材料を同じ人間として見ていなかった。だから罪悪感はない。
しかし、自分の手が血で汚れているという自覚はあった。
そんな汚れた自分でも、ユリエとならば、仲の良いオシドリ夫婦になって、かわいい子供をもうけて、幸せな家庭をきずけるではないか、そんな希望があった。
それが、ただ利用されていただけだなんて……。
「公彦さん、お願い!! 助けて!!」
ユリエが叫ぶ。
公彦の中で、ユリエを信じたい、助けたいという気持ちもあった。
仮に、ユリエの父が八路軍とつながっていたのは本当だとしても、ユリエが自分に接触して、情報を盗み出そうとしていたというのは濡れ衣ではないか、憲兵が、自分とユリエが交際している事実を色眼鏡で見た結果、そのように解釈しただけではないか、とも思えた。
ユリエと楽しく将来のことを語り合った、あの時間がウソとは思えなかったからだ。
だが果たして、ただの軍属に過ぎない自分が説得をして、ユリエの命を助けるなんてことができるのだろうか。
おそらくキーとなるのは、是名少将を説得できるかどうかだが……、そんなことを考えながら、是名少将の方を見た。
是名少将は、いつもと変わらない表情をしていた。
そして、腕時計を眺めたかと思うと、公彦に言った。
「西園寺くん、もう実習開始の時間だよ~」
この時、公彦は、是名少将が、自分とユリエの関係を知りながら、わざと執刀者に自分を指名したことを悟った。
是名少将の言葉とともに、衛生兵が2人、ユリエの方に近付いていく。
1人がユリエの体をおさえ、もう1人がユリエの口に麻酔薬をしみこませた布を押し当てる。
ユリエは最初、抵抗していたが、すぐに意識を失ってしまった。
ユリエの体を、衛生兵が2人がかりで手術台のうえまで運んでいく。
そして、ユリエの服を脱がせた。
公彦が、ずっと見たいと思っていた、白いユリエの裸体がそこにあった。
体が白いからこそ、脚と腕にある、青いアザが痛々しかった。
「この実験材料、なかなか良い体をしているな。なぁ、そうは思わんか? 西園寺よ」
担当軍医の1人である、松本大佐が、下品に話しかけてくる。
公彦は、こんな形でユリエの裸を見たくはなかった。
しかし、ここまで来たら、もう後戻りはできない。
一度、歯車が回り出したら、機械はとまらない。
公彦の意識の中で、何かが壊れた……。
今回の生体解剖の目的は、人体の構造を知ることと、人間はどれくらいの出血で死に至るかを調べることだった。
公彦たちは、ユリエの腹をメスで切り裂き、腸をとりだした。
また胸にもメスを入れ肺をとりだした。
解剖していく過程で、大量の血液があふれだしてきた。
首、腕、脚、次から次へとメスを入れていくうちに、ユリエの体はバラバラになっていった。
愛した女は、気が付けば“生きた人間”から“物体”に変わっていた。
公彦は、ユリエを解剖している間、ずっと、激しく勃起していた。
公彦にとって、人生で最高にエクスタシーを感じる瞬間だった。
ユリエの切断された頭部をながめながら、彼女の言葉を思い出していた。
「公彦さん、私たち、きっと幸せになれるよね……」




