19話 ガスの倒し方
「ヘッヘッヘッ、チンピラ、ヨワカッタ……。ツギハ、オマエタチノバン……」
巨体の黒人がニヤニヤしながら、俺たちの方へと、にじりよってくる。
「金岡さん、沢田さん、数十秒間でいいでの、奴の動きをとめてください」
「金岡さんは、俺たちから見て、奴の右側の腕、沢田さんは左側の腕に、体重をかけて、しがみついてください。絶対に腕をはなさないで。奴の頭が、なるべく低い位置に来るよう、ひきずりおろしてください」
「わかりました!!」
金岡さんと沢田さんがほぼ同時に返事をする。
「ヘッヘッヘッ、アソボウヨ、モンキータチ……」
そういうお前も、サルの一種(ゴリラ)みたいな外見してるじゃねぇか。
黒人や白人が、黄色人種だけをモンキー呼びしているシチュエーションを見ると、いつも同じことを考える。
ガスの余裕の態度に俺は怒りを感じた。
絶対に、お前を洗脳して、俺の汚ったないスニーカーをなめさせてやるからな。
俺がそんなことを考えていると、俺、金岡さん、沢田さんの、3人のおっさんで形成される列の前を、一陣の風が通り抜けていった。
俺たちの前に立っていたのは、赤と黒のチェックのミニスカートを履き、口にピアスをした女、リョーコだ。
リョーコは特殊警棒を左手で持って、トントンと自分の左肩を叩くと、顔だけクルッと右横に向けて、俺に話しかけてきた。
「ねぇ、教祖様。この黒人なら、丈夫そうだし。好き放題、やっても良いよね?」
「あっ、ああ……」
同意はするが、散々イキっていた渡辺丈があんな結果だったわけだから、颯爽と飛び出したはいいものの、リョーコが同じ結果にならないかが心配だ。
「オジョウチャン、サービス、シテクレルノカイ? ヘッヘッへッ」
そう言ってガスは、右手を丸めたうえで、口の前に持ってきて、シュコシュコと上下に動かし、フェラチオのようなしぐさをする。実に下品なジョークだ。
「ああ、アンタが昇天するほど、たっぷりサービスしてやるよ♡」
「ヘッヘッヘッ、カモォォォン、ベイベェ」
ガスが挑発すると、リョーコは、ガスのふところ目がけて、猛ダッシュで進んでいく。
自分に向かってくるリョーコを捕えようと、ガスが両腕をすばやくリョーコの方に回しこもうとする。
しかし、ガスの手は空を切った。
リョーコが、とっさに姿勢を低くして、かわしたのだ。ガスの股下で、かがんでいるような状況になっている。
そこから、リョーコは左手に握った、特殊警棒を振り上げると、ガスの金玉袋に勢いよく叩きつけた。
「ノ、ノォオオオオオオオオオオオ!!」
突然の痛みに、ガスは金玉袋を押さえながら、涙を流して転げまわっている。
リョーコは立ち上がり、地面に転げまわっているガスを見下ろす。
「アタイはさ……、常々、自分より体が大きい相手に勝つには、不意打ちか弱点攻撃しかないと思ってるんだよね。だから、今回は、弱点を攻撃させてもらったよ。アンタたち男は、そこを攻撃されたら弱いんだろう?」
「ノ、ノオオオオオオオオオオオ」
ガスはリョーコの問いに答えるでもなく、叫び続けている。
「たださ……、そこの痛みもやがて、やわらぐだろうからさ、あんたの力を削ぐには、それだけじゃ、不十分だと思うんだよね。だから……」
そう言うと、リョーコは左手に握っていた特殊警棒を逆手に握りなおした。
そして、ガスの顔に近付くと、特殊警棒の先端をガスの右目の眼球めがけて、勢いよくぶっ刺した。
ブチュッという音が聞こえ、ガスの右目から液体がこぼれ出ている。ガスの右眼球は破裂したようだ。
見ているこっちが痛くなる。
「ノ、ノオオオオオオオオオオオ!!」
金玉の痛みも忘れて、今度は右目を押さえながらガスが転げまわっている。
「痛い? ねぇ、痛い?」
リョーコはニヤニヤしながら、苦悶の表情を浮かべるガスを眺めている。
「でもさ、目を攻撃する以上、アタイは両目をつぶして、光を奪わないと意味がないと思ってるんだよね。だから、ね……、ふふふふ」
そう言って、逆手で特殊警棒を握りながら、今度はガスの左目を狙って、じりじりと近づいていく。
リョーコ、初対面の時から異常な女だとは思っていたが、つくづく恐ろしい女だ。
「ゴ、ゴメンナサーイ!! モ、モウ、ヤメテクダサーイ!!」
「えっ、何だって? ごめんね、アタイ、英語がわからないんだわ……。ちゃんと日本語でしゃべってくれないと……」
「オ、オネガイシマース。タスケテー」
「ソ、ソコノアナタ、コノヒトヲ、トメテー」
そう言って、今度は俺にまで助けを求めてきた。数秒前までの余裕の態度がウソのようだ。
「教祖様に助けを求めたって、ダメダメ、ダメなんだからね♡ さぁ、たっぷり楽しみましょう♡」
そう言って、特殊警棒を持って、ガスの方に近付いていく。
「リョーコ、ストォップ!!」
そんなリョーコを止めたのは俺だ。
信者であるリョーコは、俺の命令には絶対服従なので、ピタッと動きが止まる。
「何だよ? 教祖様、アタイの楽しみを邪魔すんのかよ」
「そこの黒人も信者にしたいんだ。だから、両目を奪うな。死なない程度に頭を殴って、気を失わせて終わりにしろ」
「ちぇっ、わかったよ……」
そう言うと、リョーコはガスの頭を特殊警棒でボコッと殴って、気を失わせた。
「これで良いんだろう? 教祖様……」
リョーコがそう言った瞬間、矢が飛んできて、リョーコの右胸に刺さった。
「え……?」
リョーコが自分の胸に刺さった矢を眺める。
矢が飛んできた方を見ると、そこには、肩で息をしながら、ボーガンを構えて立っている西園寺院長の姿があった。