18話 渡辺丈vsガス
ついに俺たちは、院長や、監禁されたナギがいる部屋の前までたどり着いた。
いよいよ、西園寺院長と対決するときだ。
俺、リョーコ、金岡さん、渡辺丈、沢田さんの5人は意を決して、部屋の中に突入する。
「大ちゃん教祖様!!」
声を出したのはナギだ。
確かに、そこにナギがいた。
ナギは全裸にされたうえで、手術台のうえに大の字状に寝かされていた。
手と足は、鎖で固定されている。
「うれしい……。来てくれるって、信じてたっちば……」
ナギが涙を流して感激している。
ナギの反応を見て、手術台に向かって立っていた、手術衣を着た男が、俺たちの方にクルッと向きなおった。
手術帽をかぶり、口にはマスクをつけているので、ハッキリとはわからないが、おそらく、この男が西園寺院長だろう。
帽子とマスクの間からのぞくメガネからは、いかなる感情も読み取れない。
「アンタが、西園寺院長だな?」
「まさに……そうだが……、君たちは何者だ?」
「俺は、その子の教祖様だ。と言っても、意味がわからないだろうな。その子の保護者といったところだ」
院長の目が一瞬、キラリと光る。
「ほお、この子に保護者が……。私は、この子から『自分は天涯孤独だ』と聞いていた。保護者がいるというのは初耳だ。保護者ということは、この子を助けに来たわけだな?」
「この状況を見て、わからないか? そうに決まっているだろう」
「そうか、そうか。しかし、今から行おうとしていることは、私にとって、とても大事な儀式なんだ。誰にも邪魔されたくない。そこで……商談といかないか?」
「商談?」
「そうだ。私の儀式を、このまま見逃してくれたら、ひとり1億円ずつやろう。合計5億円だ。どうだ? 悪い話ではないだろう?」
「うひょー、1億円!! マジですかい!!」
提示された額に、真っ先に喰いついたのは渡辺丈だ。やはり、信者でない奴が、ひとりいると、どうも調子が狂ってしまう。
急ぎ、渡辺丈の発言をさえぎる。
「あいにくだが、院長先生、俺たちはお金には興味ないんだ。それに、もし、お金が必要なら、5億円なんて、まだるっこしいことは言わず、あんた自身も含めた、あんたの持っている財産・資源は根こそぎ全部いただくよ」
「私には、ちょっと君の言っている意味がわからないのだが……。とにかく、商談は不成立ということだな。双方にとって悪い話ではないと思ったのだが……。実に残念だよ……」
そう言うと、院長は「ガスーッ!! ガスーッ!!」と声をはりあげた。
すると、手術室の暗がりの中から、身長2m、年は20代後半くらいの筋肉隆々の黒人がヌッと姿を現した。
「紹介しよう、この男の名前はガス。私の召使いだ。頭をいじくったうえで、薬を投与している。私の命令には絶対服従の男だ。私が死ねと言えば、この場で死ぬような男だよ」
「ガス!! コイツラを始末しろ!!」
「イエス!! ボス!!」
ガスは院長の命令に応じると、俺たちの方へ、勢いよく向かってきた。
「ここはオイラの出番ですね。畑さんたちは、さがっていてくだせぇ」
そう言って、一歩前に進み出たのは渡辺丈だ。
「しゃああああ!! コノヤロー!!」
渡辺丈は気勢を上げながら、ガスの近くにまで接近し、太もものあたりに蹴りを入れる。
しかし、残念ながら、威力が足りないらしく、丈の蹴りは、ガスの厚い筋肉に、はねかえされた。
「くらええええっ!! コノヤロー!!」
何回も蹴りを入れる。
しかし、声だけは迫力があるが、キックは全く効いていないようだ。
「コノ、チンピラ…ウルサイ……」
そう言って、ガスが、丈の右足を両手で捕まえる。
「何しやがんだ!! この黒人が!! はなせ、コノヤロー!!」
丈は叫んで抵抗しているが、なす術がないようだ。
ガスは、丈の右すねを両手でつかむと、思いっきり左右、逆方向にねじった。
すると、少し離れたところにいる俺の耳にも聞こえるぐらい大きな「ボキッ!!」という音が聞こえた。
「痛ってええええええええ!!」
右のすねをおさえながら、丈が地面を転げまわる。やがて、丈は白目をむいて気を失ってしまった。
うん、丈がイキりだしたあたりから、この展開は、なんとなく想像がついていた。
まぁ、気を失ってくれたおかげで、丈を洗脳しやすくなったので、それで良しとしよう。
本番はここからだ。
俺が、ガスという黒人の頭に右手をかざして、洗脳が終わるまでの間、なんとか金岡さん、沢田さん、リョーコの3人に動きを止めておいてもらうしかない。
動きを止めるのは、長くても、せいぜい数十秒間で良いのだ。勝利条件のハードルは低い。
「ヘッヘッヘッ、チンピラ、ヨワカッタ……。ツギハ、オマエタチノバン……」
ガスがニヤニヤしながら、俺たちの方へと、にじりよってくる。