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13話 ナギ、戻らず

 無事、ファミリーマーケット西新井(にしあらい)店の従業員および客の洗脳が完了した。


「堀川店長、監視カメラの映像は消しておいてください」


 映像が残っていたら何らかの不具合が生じる気がするので、念のため、早めに監視カメラの映像を消しておいてもらうことにする。


「かしこまりました。教祖様」


 教祖様か……。


 堀川店長、ついさっきまでは「(はた)くん」と呼んでくれていたけれど、もうこの人から「畑くん」と呼ばれることはないのだろうな。なんだか、少し寂しい……。


 かと言って、ナギの時のように「畑くん教祖様」と呼ばせるのもな……。こういう点は、12年雇ってくれた店長より、見た目がかわいい女の子を優先してしまう。我ながら薄情だ。


 昨日で50人、今日、西新井店の4人を洗脳したので、俺を除いた信者数は54人になった。


「ねぇ、教祖様。アタイたち、めっちゃ、うまくいったんじゃない?」


「ああ、そうだな」


 確かにリョーコの言うとおりだ。何の障害もなく、西新井店の洗脳は完了した。


「スマホで見たら、ここらへんに、あと4店ほど、コンビニがあるみたいだからさ、他のコンビニも襲わない?」


 リョーコが他のコンビニ襲撃を提案する。

 

 悩ましいところだ。西新井店の人たちを洗脳したことで、俺の中で、目的がハッキリとしてきたし、情熱もわいてきた。今は勢いがありそうだし、この勢いに任せて、他のコンビニ店を襲撃するのも悪くない気がする。


 しかし、失敗した場合にどうなるか、ということを想像してしまう。


 例えば、コンビニ店を襲撃している最中に、屈強な柔道部員が10人くらい来て、俺たちを取り押さえてしまったら、どうなるだろう?


 目撃者がいたら、俺がやっていることは、催眠術の一種のようにとらえるのではないだろうか。人の体を押さえつけて、催眠術をかけて言いなりにしているように見えるのではないか。


 そうなると俺がやっていることは、傷害罪に該当するだろうし、柔道部員から警察に引き渡され、拘置所に入れられることも考えられる。


 女神様からは、あちらの世界がもっとも近付く3か月後までに、目標を達成しなければならないと言われている。拘置所送りになんかされたら、たちまちゲームオーバーだ。


「うん、今日はやめておこう……」


「えーっ、教祖様、慎重すぎ~」


 リョーコは不満そうだ。


 今はまだ、そんなに、あせって行動する必要もないだろう。


 いったん、拠点である、五反田のムチムチ猫耳メイド女学院に戻ることにする。






 稲田(いなだ)さんの運転するハイエースが、ムチムチ猫耳メイド女学院の近くに到着した頃には、時刻は20時をまわっていた。


「お帰りなさいませ、教祖様」


 相変わらず、怖い顔をした吉松(よしまつ)店長が、俺を迎えてくれる。


「吉松店長、リストの進み具合はどうですか?」


「まだ、各女の子に、リストの作成依頼をなげて、返事を待っている状態です」


 利用客の職業などの個人情報をのせたリストの作成を命じておいたのだ。頼んでから、まだ数時間しか経っていないから、そんなものか。


「教祖様が西新井店から戻ってこられると聞いて、先ほどまでの時点で、集まっている情報をリストにしておきました。現時点では、このような感じです」


 吉松店長からリストを受け取る。大体、100名くらいの客の予約名、職業などの情報が書かれている。


 一番、注目したいのは職業だ。


 配達員、建設作業員、会社員(何の会社かは不明)、様々な職業が書いてあるが、ひときわ俺の目を引いたのはyourtuberユアチューバーという職業だ。


「店長、この職業欄に“yourtuberのジカキン”と書かれている客は、結構、有名な人なんですか?」


「そうですねぇ、超大物yourtuberと似たような名前をつけただけの二番煎じ男ですよ。何度か接客したことがありますが、内容の薄っぺらい、いけすかねぇ奴でさぁ」


 そうか、確かに、似たような名前のyourtuberの方は、テレビCМ等で見たことがあるような気がする。


「それでも10万人以上の登録者がいて、そこそこの収入があるって言うんだから、世の中、わかんねぇもんですよねぇ」


 10万人か。女神教の布教に使えるかもしれないな。


「引き続き、リストの作成を急いでください」


「わかりました!!」


 リストも完成までに時間がかかりそうだし、ひとりで、少し外を出歩いてみるかな。


 20時台の五反田周辺をブラブラと歩く。


 もし、ひとりで人気(ひとけ)のないところを歩いているような人間がいたら、洗脳したかったのだが、それらしい人間は見当たらなかった。


 仕事帰りのサラリーマンが結構、歩いているので、この時間帯は洗脳には向いていなさそうだ。失敗だったな。


 気が付けば、俺はナギのマンションまで来ていた。


 昨日のうちにナギからスペアのカギを預かっていたので、とりあえず、ナギの家で休むことにする。


 今日はコンビニ店の4名の洗脳だけか。収穫が少ない日だったな。起きたのが、遅かったので活動時間も短かった。


 外が暗くなってきたせいもあって、眠くなってきたので、もう、そのまま眠ることにした。






 目が覚めて、スマホを確認すると、時刻は深夜の1時頃になっていた。中途半端な時間に、目が覚めたものだ。


 またもや、ニュースアプリ、スピードニュースの通知が来ている。


 どうやら、またサイコロステーキ殺人事件の被害者が発見されたらしい。なんか、一気に殺人のペースが速まっていないか。


 『目黒で若い女性のバラバラ死体が発見』と記事タイトルには書かれている。


 スマホを開いてみると、携帯の着信履歴が5件入っていた。いずれも吉松店長からだ。


 ああ、そういえば、吉松店長には一日の終わりに、リストの進捗状況を報告するように言っていたのだったか。しかし、それにしても着信5件は多くないか。どうしても報告したいことがあるのだろうか。


 メッセンジャーアプリの方も開いてみると、吉松店長からメッセージが届いていた。


『教祖様、ナギちゃんが、まだ戻ってきていません』

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