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12話 ファミリマーケット西新井店襲撃~この世界への退職届~

 足を踏み入れると、例のファミファミファミマ〜♪というメロディが俺たちの作戦の開始を告げた。


 まずは店内に、何人の人間がいるかをチェックしなければならない。


 西新井(にしあらい)店には、壁面の陳列スペースのほかに、大きく3つの陳列棚の島があるので、奥のレジまで行くのに4つの通路が存在することになる。


 俺は全ての通路をざっと見て回る。


 奥のレジに堀川(ほりかわ)店長がいるのが見えた。


 あと、壁面の陳列棚でドリンクを補充しているのは、ベトナム人留学生の女の子、ミンちゃんだな。この子に日本語を教えてあげたことがある。素直で、よく働く、良い子だ。


 客は、雑誌コーナーで本を読んでいる、黒いニット帽に、あごひげを生やしたストリートファッション風の20代後半くらいの男がひとり。スウィーツコーナーで何を買おうか迷っている50代くらいの小太りのおばさんがひとり。


 従業員と客を合わせて4人か。うん、これなら全然やれそうだ。


 俺は寺田くんの肩をトントンと叩いて、スウィーツコーナーにいるおばさんの方を指さす。次に、リョーコに雑誌コーナーにいる男の方を指さして、そちらに行くように合図する。


 残った俺と金岡(かなおか)さんが奥のレジへと向かう。


 そこにはバーコード頭の、メガネをかけたおじさんが座っていた。堀川店長だ。年齢は確か65歳だったかな。


「金岡さん、大丈夫だと思いますけど。もし、この人が逃げるようだったら押さえつけてください」


 俺が小声で話す。「わかりました」と金岡さんが返事をする。


「あれ、(はた)くんじゃないか? 体調が悪くて休んでたんじゃないの? もう動いて大丈夫なのかい?」


 堀川店長は、とてもやさしい人だ。なにせ、暗くて、愛想もなく、ただ真面目だけがとりえだった当時26歳の俺をアルバイトとして採用し、その後、12年間も雇い続けてくれた人だ。


 店長がこの人でなければ、おそらく12年間も働き続けることはできなかっただろう。


 俺は店長に深々と頭を下げる。


「店長、この度は、ご迷惑をおかけしてすいませんでした!! シフトに穴をあけてしまってすいませんでした!!」


「ね、ねぇ、畑くん。もういいんだよ。なんとか代わりの人も見つかったことだし……。ね、頭をあげてよ」


「あと、店長にお話ししないといけないことがあります」


「どうしたんだい? 急に」


「俺、畑大悟(はただいご)は、本日をもって、ファミリーマーケット西新井店のアルバイトを、やめさせていただきます!!」


「ええー!!」


 堀川店長が驚いている。


「なぜだい? 今まで真面目にやってきたじゃないか」


「なぜ……、ですか?」


 俺は聞き返す。


 この人は、俺がずっとコンビニ店員として、これまでのような人生を続けることが当たり前だと思っているのだろうか? 死ぬまでずっと、コンビニ店員として働いて、給料も安いために委縮して、結婚もできず、子供もできず、最後は、みじめにひとりで死んでいくのが当然だと思っているのか? それが俺にふさわしい人生だとでも……?


 この時、俺の中で、黒い情念が、ふつふつと沸きあがってくるのを感じた。


 俺は頭を上げる。


「なぜ……、かって?」


「教えてやるよ!!」


 そういって、俺は勢いよく、堀川店長のバーコード頭を右手でつかむ。ちょっと脂ぎってんな。


「うわぁ、何をするんだ!! 畑くん」


「俺はな……、俺はな……、()()()()()()()()()で、終わるような人間じゃねぇんだよ!! 俺は神に選ばれた特別な人間なんだ。人類の歴史に名前を刻むような()()()()()なんだよ!!」


 そうだ。そうだったんだ。俺はずっと我慢してきた。毎日、毎日、死にたいと思いながら、ずっと、ずっと、我慢してきたんだ……。


「そうだよ!! 教祖様は偉大な存在!! アタイ、教祖様のこと、大好き♡ 教祖様、万歳!!」


 雑誌コーナーにいたリョーコが賛同してくれる。


「教祖様、万歳ィッ!!」


 横にいた金岡さんもドスの効いた声をはりあげ、大きく両腕をふりあげて、万歳をしてくれた。


「きょ、教祖様……すごい迫力です……。教祖様、万歳!!」

 

 寺田くんも感嘆の声をもらす。


「は、はわわわわっ、は、畑くん、どうしちゃんったんだよ?」


 堀川店長が怯えきっている。


「店長……、あなたにも、すぐにわかりますよ」


 そう言って、右手に力を込める。


 右手が黄金に輝きだし、黄金色のエネルギーのかたまりが、堀川店長のバーコード頭に流れ込んでいく。


「ひ、ひかりが、女神様……教祖様……」


 堀川店長がへなへなとレジにへたりこむ。


 一連の流れを見ていた、雑誌コーナーの若い男が声をもらす。


「何だ……コイツラ……やべぇよ……頭おかしいよ……」


 若い男はとっさに向きを変えて、入口へ、走って逃れようとする。


「リョーコ!! その男を逃がすなよ!!」


「アタイにまかせて!!」


 リョーコは、素早く飛び乗るような形で、男の背中におぶさると、右腕を男の喉に巻き付けて、首4の字固めを決める。男は最初、必死にリョーコの腕を叩いていたが、やがて泡を吹いて気を失ってしまった。


「決まったでしょう?」


 リョーコがニカッと笑う。 


「あんた!! 何すんの!! 離してよ!!」


 スウィーツコーナーにいたおばさんの方も、やや翻弄されぎみではあるが、寺田くんが、はがいじめにしているようだ。


 男の方は気を失っているので、先におばさんの方を洗脳した方が良さそうだ。


 ジタバタしているおばさんの額に右手を当てる。


「あっふん……ひかりが……」 


 寺田くんが手をはなす。おばさんは白目をむいて、その場にバタリと倒れてしまった。


「ハ、ハタさん……、ナンデ? ナンデ? あんなにヤサシかたのに」


 声を発したのは、店の角の方にあるドリンクコーナーにいたベトナム人留学生のミンちゃんだ。尻もちをついて、怯えきったような表情をうかべている。


「ミンちゃん、ごめんね。昨日で、俺は生まれ変わったんだよ。今までの俺とは違うんだ……」


「だけど、ミンちゃんは何も心配しなくてもいいんだよ。何も不安に思うことはない。それどころか、一生、不安から解放されるんだよ……」


 尻もちをつきながら、じりじりと後ずさるミンちゃんの方に、俺はゆっくりと近付いていく。


 そして、ミンちゃんの額に右手を当て、目を閉じて、強く念じる。黄金の光が、ミンちゃんの額に注ぎ込まれる。


「ああ……ヌータン……」


 ミンちゃんもそのまま気を失ってしまった。


 最後の仕上げに、泡を吹いて倒れている男の額に右手をあてて洗脳を行う。


「教祖様、やったね♡」「や、やりましたね!!」「やりましたな!!」


 リョーコ、寺田くん、金岡さんの3人がいっせいに俺のもとに駆け寄ってくる。 


「それにしても、教祖様があんなこと叫ぶなんて、アタイ、意外だったよ」


「実は、俺自身、自分のしたことに驚いているんだ……」


 ずっと、ずっと、ため込んで生きてきた。


 本心をかくして、人畜無害な草食動物のような生き方をしてきた。社会のザコとして生きてきた。しかし、それも、もう終わりだ。


 この世界は、ずっと、俺に「死にたい」と思わせ続けてきた。しかし、本当に死ぬべきなのは、この世界の方だ。


 俺が世界を変える。このゴミみたいな世界を、ぶっ壊してやる。


 モンスターがあふれて、どいつもこいつも恐怖で逃げまとうような世界にしてやる。


 そして、その世界で、覇権を握るのは俺たち、女神教だ!!


 俺たちだけが、この世界が滅ぶことを知っている。


 女神教こそが、ノアの方舟なのだ!!

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