11話 信者は家族
結局のところ、以下の班分けで、ファミリーマーケット西新井店を襲撃することになった。
店内班:俺、リョーコ、寺田くん、金岡さん(トランシーバー持ち)
出入口班:稲田さん、青山くん(トランシーバー持ち)
打ち合わせが終わったところで、稲田さんのハイエースに乗り込む。
2席×3列で、合計6人が座れるのだが、俺が2列目の右側の席に座る。すると、迷いなくドカッと、リョーコが俺の左隣の席に座ってきた。
「教祖様、これから35分間、よろしくね♡」
メイド女学院がある五反田から、目的地である、ファミリーマーケット西新井店まで、車で大体35分くらいの距離なのだ。
リョーコは、赤と黒のチェックのミニスカートを履いているうえ、ガリ股で、脚を広げて座っているものだから、チラッチラッとパンツが見えそうになる。
つい、視線をリョーコの脚の方に向けてしまう。20代前半だけあって、すべすべのきれいな脚をしている。
「何、教祖様? アタイのパンツが気になってるの?」
リョーコが俺の視線に気づいたようだ。
リョーコの質問は、答えるのになかなか難しい。正直、一人称を「アタイ」というような女は、好きではない。これで、リョーコが、ゴリラみたいな見た目の女だったら、迷いなく「気にならない!!」と即答できただろう。
しかし、リョーコは、パンク風で、口にピアスしていたり、髪の毛の半分を赤く染めていたりしているような女だが、俺から見たら、顔だちも整っているし、美しい、カッコイイ外見をしている女なのだ。
だから、パンツが見えそうになったら、気になって、つい視線がそちらに向いてしまう。
「ねぇねぇ、教祖様、アタイのパンツが見たいの? 見せてあげようか、ねぇねぇ?」
そう言って、リョーコが、ニヤニヤ笑いながら、両手で、チェックのミニスカートの両サイドをつまみ、少しずつ持ち上げようとする。
「コラ!! リョーコ!! いい加減にせんか!! 教祖様に無礼だろうが!!」
後ろの列の席に座っていた金岡さんが、上半身を乗り出して、リョーコを叱ってくれた。
助かった……。
その後も車で移動中、リョーコからは「彼女はいるのか?」とか、「もしかして素人童貞か?」とか、いろいろと直球の質問をされたが、その度に、金岡さんが、たしなめるという流れが、何度も繰り返された。
「ちぇっ、結局、教祖様からなにも聞き出せなかったじゃん。金岡のおっさん、ブロックしてんじゃねーよ」
リョーコは不満そうだ。
そうこうしているうちに、車は目的地であるファミリーマーケット西新井店に到着した。
稲田さんが、店の入り口、正面の少し前あたりにハイエースを横付けする。
「ついにアタイのコイツを使う時がきたようだね」
そう言って、リョーコは左手に持っていた特殊警棒をジャキンッと振って伸ばした。
「おいおい、ちょっと待て!! リョーコ、ストップ!!」
リョーコちゃん、とか、リョーコさん、と呼んでいたが、こいつの呼び名はもう、リョーコ、でいいや。
「今から襲うファミリーマーケット西新井店は、俺が12年間、ずっと働いてきて、お世話になったお店なんだ」
「だから? 今まで、こき使われた、お礼参りにいくんだろう、教祖様?」
「違う、違う。ここの店長、堀川店長には、感謝こそすれ、復讐しようなんて欠片も思ってないよ」
「じゃあ、なんで襲撃すんのさ?」
「そうだな……、昨日、ナギを洗脳したとき、『この子には帰れる場所がない』と思ったんだよ。ただ、同時に、それは俺にも言えることだと思ったんだ。今までの俺には、帰れる場所も、安心できる場所もなかったんだ」
「そんで?」
「だけど、今の俺は違う。俺には帰れる場所があるし、家族がいる。女神教のみんなが俺にとっては家族だし、ホームなんだ」
「西新井店を襲撃するのは、お世話になった店長たちを、俺の家族に迎え入れたいから、やるんだよ。だから……、手荒なマネはなるべくしないで欲しい。わかってくれるな? リョーコ」
「チェッ、わかったよ。教祖様……」
そう言って、リョーコは、特殊警棒を座席と座席の間にポイッと投げ捨てた。
リョーコの説得が終わったところで、ハイエースに乗っていた5人が次々と車外に出る。
「みなさ~ん、ぼくを忘れないでくださ~い」
駐車場のあたりから、甲高い声をあげながら、駆け寄ってくる、小柄な若い男の子の姿が見える。
ああ、あれは寺田くん。移動中に、メッセンジャーアプリで、集合場所や役割分担は、あらかじめ寺田くんには知らせてあったのだ。ただ、いろいろありすぎて、彼の存在をすっかり忘れていた。ごめんね、寺田くん。
これで、ようやく襲撃チームの6人がそろった。
「それでは出入口班の稲田さんと青山くんは、店内の客が外に逃げないように見張っていてください。あと、もし警察の見回りか何かがきたら、青山くんはすぐにトランシーバーで知らせてください。稲田さんは、何かあったら、すぐに全員が車に乗って逃げられるよう準備をしておいてください」
青山くんと稲田さんが、ほぼ同時に「わかりました!!」と返事をする。残りの俺を含めた4人が店内に突入する店内班だ。
「それでは、皆さん。行きましょう。新しい同胞を増やしに!!」
俺たちは、いさんで、ファミリマーケット入り口の自動ドアの方へあゆみを進める。
ドアが開き、例のファミファミファミマ〜♪という入店チャイムが、俺たちの作戦の開始を告げた。