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10話 院長先生とパンク女子

「院長先生?」


「そうです。わしらは“院長先生”と呼んでいます。目黒の方に、個人の自宅兼クリニックがある、おんとし92歳のお医者様です。週に1回くらいのペースで、ナギちゃんを丸1日、指名するんですよ」


「92歳!! そんな年で、そういうサービスを受けられるものなんですか?」


「前に、ナギちゃんにどんなことをしているか聞いたことがありますが、そういうヌキのサービスはないみたいですね。なぜか、メイド服すら着ずに全裸になるように命じられて、そのままずっと昔話を聞いたりとか、無言でじっと何時間も見つめられたりとかしているようです」


 92歳だと、その医者の爺さんから見たら、ナギは、ひ孫くらいの年齢だよな。自分のひ孫くらいの年の女を全裸待機させて、ひたすら昔話を語ったり、眺め続けたりする。


 そんなことをして楽しいのだろうか。マニアックな人もいるものだ。


「そういえば、この前、ナギちゃん、院長先生に頼まれたらしいです」


「何をですか?」


「『解剖させてもらえないか?』って。何でも戦前、10代の頃に、捕虜の解剖を補助するような仕事をしていたらしくて、その時の興奮が忘れられないとかで」


 何じゃそりゃ。マニアックなんてものではない。かなりヤバイ(じじい)じゃないか。


「ああ、もちろん院長先生も冗談でそんなこと言っただけですけどね」


 そりゃ、そうだろう。マジだったら殺人犯だわ。


 とりあえず、ナギは今日1日はいないのだな。


 客の職業が書かれたリストができあがるまでには、まだ時間がかかりそうだし、今日は何をしようか。


 そうだな。人手がそろえば、強引な方法で洗脳して信者を増やしてもいいかなと思っていたのだ。少し、その練習をしてみようか。


「吉松店長、俺も含めて信者5、6人で、これから、あるコンビニ店にいる従業員と客を全員、洗脳しに行こうと思っているんだけど、手伝ってくれるのに、ちょうど良い人間はいないですか?」


「殴り込みですかい、教祖様? そいつぁ、いいや。それだったら、金岡(かなおか)と、あと、教祖様が昨日、洗脳した若いの、青山(あおやま)を連れていってやってくだせぇ」


 ああ、あの20代後半の店員さん、そういえば、青山って名前だったな。


 俺と金岡さんと、青山くん、あとドライバーは稲田(いなだ)さんが良いか。これで4人だな。


 あと2人か。誰にしようか。


「教祖様、なんか面白そうなこと話してんじゃん。アタイも仲間に入れてよ」


 俺と吉松店長が話していると、事務所の入り口のあたりから声がした。


 声の方を向くと、身長160cmくらいの、パンク風のファッションに身を包み、蒼白い顔をした女が腕組みしながら立っていた。


 上はチェーンの付いた黒いTシャツ、下は赤と黒のチェックのミニスカートに、白と黒の横じまのニーソックス、黒い靴という出で立ちだ。年齢は20代前半くらいか。


 髪の毛は肩くらいまでの長さで、本人から見て、右半分が赤色で、左半分が黒色をしている。唇にはリング状のピアスを付けている。


「ゲッ、お前はリョーコ。何で、こんなところにいやがるんだ!! 指名が入ってたんじゃねーのかよ!!」


 吉松店長が、リョーコと呼ばれるパンク風の女に叫ぶ。


「今日のアタイは、そんな気分じゃないんだわ」

 

「何言ってやがる!! 『そんな気分』も、へちまもあるか!! お客さんが待ってるんだから、さっさと行きやがれ!!」


 ヒートアップしているようなので、俺が店長をなだめることにした。


「まぁまぁ、店長。ちょうど、あと2人、誰を連れて行こうか迷っていたところなんです。リョーコちゃんなら、ちょうど良いかもしれない」


「そ、そうですか。教祖様」 


 吉松店長が、しぶしぶ引き下がる。 


「さっすが、教祖様。話がわかるわ~」


 リョーコが、ニヤけた顔でウィンクしながら、人差し指を俺の方に向ける。


 野郎ばかりで行くのも、むさ苦しいと思っていたのだ。これはこれで、まぁ、良いだろう。


 結局、最後の1人は、昨日、たまたまお店に来ているところを洗脳した、風俗未経験の大学生、寺田くん(20)にすることにした。寺田くんだけは五反田から遠いので、目的地に現地集合だ。


 非番の時間帯だったので、吉松店長に頼んで、金岡、青山、稲田の3名を電話で呼び出してもらう。


 30分後には、寺田くんを除いた、コンビニ店の襲撃チームが全員、メイド女学院の事務所に、そろっていた。


 俺が記憶を頼りに書いた、コンビニの見取り図を指しながら、説明をする。


「いいですか、皆さん。今回の目的は、ファミリマーケット西新井店にいる従業員と客の全員を洗脳することです」


「ファミリーマーケット西新井店は、出入口が一か所しかありません。なので、6人いるうちの2人が出入口を封鎖して、中の人間が外に出られないようにすると共に、外から誰かがやってこないかを見張ります。店内班と出入口班は、それぞれ1台ずつトランシーバーを持って、何かがあったら、連絡します」


 そう言って、トランシーバーを2台、机の上に置く。全員そろうまでの時間を利用して、近くの電機店で買ってきたのだ。


「俺を含めた、残りの4人が中にいる人間を洗脳します。俺が、ひとりひとり洗脳していくので、店内班の残りの3人は、頭に右手を当てている間、対象の人間が身動きがとれないように体を押さえていてください」


「この打ち合わせ後に西新井店に向かったとして、おそらく到着する時間帯には、従業員が2人、お客さんは3人か4人くらいではないかと思います。店内にいる5人から6人を全員、洗脳できれば、今回の作戦は成功です」


「店内班は……」と俺が言いかけたところで、割って入るものがいた。


「ハイ、ハイハイハイハイハイ!!」


 挙手しているのはリョーコだ。


「何ですか? リョーコさん」


「教祖様、アタイ、店内班が良い!! 絶対に店内班が良い!! というか店内班じゃないとやらない!!」


「何で、そんなに店内班がやりたいんですか?」


「だって、教祖様が、頭に右手をかざしたら、みんな『女神様……』とか言って、アへ顔しながら気を失うじゃん。アタイ、あのアへ顔を見るのがたまらないんだよ!! それにイヤがって抵抗している人間を無理やり押さえつけるのも、たまんねぇ!!」 


 大丈夫か、この女……。


 リョーコを連れて行くことにしたのは、俺の判断ミスだったのかもしれない。

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