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1話 女神様からの啓示

 俺は夢を見ていた。


「……聞こえますか?」


 声がする。目を開き、あたりを見回すと、そこは真っ白な、何もない空間だった。


 ただし、俺の目の前だけは違っていた。


 前方5mくらいのところに、身長3mはあろうかという、巨大な若い女が、空中にフワフワと浮かんでいたのだ。女は、脚を組みながら、まるで見えないイスに座っているかのような姿勢をとっていた。


 髪は、背中の真ん中あたりまで伸びた金色のロングヘアーで、古代ギリシャ人が着ていたような衣を身にまとっている。そして、体中から、まばゆい黄金のオーラを放っていた。


 これって、もしかして……女神様?


「……私の声が聞こえますか?」


 女神様の声は、凛としているが、とてもやさしい。


「は、はい!! 女神様。聞こえます」


「私の声が聞こえたのですね。それは良かった」


 女神様がニコリと笑う。


畑大悟(はただいご)(38)、私は、ずっとあなたに、声が届くのを待っていたのです」


「俺に?」


「そうです。あなたに、です。カンが良さそうなので、すでに理解してくれているようですが、あなたから見て、私は異世界の女神という存在になります。名前をニグラトと言います」


「ニグラト様……」


 しかし、なぜ異世界の女神様が目の前にいるのだろう。俺は死んだのだろうか。


 確か、昨日もコンビニのバイトを終えて、俺の人生、こんなつもりじゃなかった、とか考えながら、自分の部屋で眠りについたはずだ。


 常々、こんな人生がずっと続くようなら死んだ方がマシだ、とは思っていたが、本当に死んだ記憶はない。


 気付かないうちに、家が燃えて焼け死んだのか。それとも隕石でも落下したのだろうか。


「ふふふ、あなたは、なかなか想像力がたくましいようですね。しかし、違いますよ。あなたは死んではいません」


 えっ、女神様、俺が考えていることがわかるのか。


「もちろんです。女神ですから」


 ニコニコしつつも、少し得意げだ。


「私があなたの前に現れたのは、預言者になって欲しいからです」


「預言者?」


「そう、預言者。私からのメッセージを受け取り、使命を達成してもらいたいのです」


「使命? 俺は何かをしなければならないのですか」


「今、私の世界と、あなたの世界は、急速に接近し、お互いに影響をおよぼし合いつつあります」


「実は、あなた方の世界の時間で、もう何週間も前から、私はあなたに話しかけていました」


「あなたに私の声が聞こえた、ということは、それだけ2つの世界が近付いてきているということなのです」


「私の予測では、2つの世界の接近は、3か月後にピークを迎え、双方の影響力が最も大きくなります。しかし、その後は、急速に離れていきます。そうすれば、影響力は弱まり、あなたに私の声は聞こえなくなるでしょう」


 女神様は説明をしてくれているが、俺には話がどうも見えてこない。


「それで、女神様、俺は何をすれば……」


 女神様は、両手を開け、八を逆にしたような形で腕を広げると、自らに心酔しているかのようなウットリした表情で言った。


「あなたに、私が治める世界と、あなたの世界をつなげる役目をしてもらいたいのです!! 私の素晴らしい恩寵をあなたの世界にも広げたい!!」


 えっ、異世界と、この世界をつなげる。そんなことができるのだろうか?


「そんなことができるのか、疑問に思っているようですね。無理もありません」


「しかし、それは可能です。必要な()()をそろえ、手順に沿って、儀式を行えば、あなたの世界に私達の世界を呼び出すことができるのです!」


「畑大悟、今から私が言うことをよく聞きなさい。あなたがやらなければならないことは、大きく2つあります」


「ひとつ目は、あなたが教祖となって、私を讃える教団を設立しなさい。そして、2つの世界をつなげる活動を行うための実行組織とするのです」


「あなたの世界の人間も、それぞれ、量は少ないですが、魔力と呼ばれる力を持っています。あなたの世界の人間の魔力値は大体、平均で5~10ポイントくらいでしょうか」


「あなたは、3か月以内に信者の魔力値の総合計1,000万ポイントを達成しなければなりません。量だけを見れば、それくらいあれば、私たちの世界を呼び出すことが十分、可能です」


「ただし、信者の魔力値の総数が1,000万を超えても、それだけでは私達の世界を呼び出すことはできません」


「先ほど、あなたの世界の人間の魔力値は5~10ポイントだと言いましたが、ごくまれに突出した魔力値を持った人間が存在します。そういった人間は特殊な才能の持ち主で、あなたの世界で言うところの"魔法"が使えます」


「ある者は炎を操り、ある者は魔法の力によって、人間をはるかに超えた速さで走ることができるでしょう。そんな魔法が使える人間、"魔法使い"の中でも、神や悪魔、精霊、獣を呼び出す魔法を使える者達がいます。"召喚魔法使い"です」


「あなたは、神や、世界をひとつ丸ごと召喚できるレベルの、抜きん出た才能を持った“召喚魔法使い”を3か月以内に見つけ出さなければなりません。それがあなたの2つ目の使命です」


「おさらいしますね。あなたがやらなければならないことは2つ。①私を讃える教団をつくり、信者の総魔力値1,000万ポイントを目指す、②世界ひとつをまるごと召喚できるレベルの器を持った、召喚魔法使いを見つけ出す。この2つです、期限はどちらも3カ月以内、理解できましたか?」


 喋っているうちに女神様のテンションが上がってきたのか、最初は5m先の空中に浮かんでいたはずだったのが、今ではズイズイと前に近付いてきていて、俺の前方1.5mくらいのところにいる。


 5m離れている時は美しいと思っていたけれど、これぐらいの近さだとデカイし、威圧感をおぼえる。女神様、少し怖いよ。それにオーラが眩し過ぎる。


「わ、わかりました。女神ニグラト様。俺は、あなた様を讃える教団をつくり、召喚魔法使いを探します。しかし……」


「しかし?」


「俺は、しがないコンビニ店員なのです。影響力もありません。女神様の存在について語ったところで、頭がおかしくなったと思われるだけではないでしょうか」


 女神様は不思議そうな顔で、人差し指をあごに当てる。


「私には『コンビニ店員』が、どういうものなのかがわかりません。奴隷労働者のようなものなのでしょうか? 少なくとも王や貴族と言った権力を持ったものではないのでしょうね」


「(ちょっと違うけど)は、はい、その通りです」


 女神様が、またもや俺に向けて、ニコリと笑いかけてくれた。


「ご安心なさい。今回のあなたの使命は、私にとっても極めて重要なものです。何万年に1回かという大チャンスなのです。私は全力で、あなたをサポートします。畑大悟、私の方に来なさい」


 女神様にうながされるまま、おずおずと前に進み出る。女神様は大きいので、俺が見上げるような姿勢になる。こうやって見ると、女神様、胸が大きいな。いかん、いかん、不敬なことを考えてしまった。


 女神様の大きな手が頭の上まで伸びてきた。女神様はやさしく頭に手を置く。


 すると、女神様の体から放出されている黄金のオーラの一部が、女神様の手を介して、俺の頭から全身に向けて流れ込んできた。


 うおおおおおおおお、これはすごい。体中に力がみなぎってくる。これが魔力というものなのか。


 やがて、俺の右手の甲に"∞"のマークが刻み込まれ、そこにも追加で、大きなオーラの塊が吸い込まれていく。


「ほんの一部ですが、あなたに私の力を分けてあげました。大体、魔力値で言えば10万ポイントくらいはあるかと思います」


 10万ポイント!! 一般的には5~10ということなので、この魔力値は破格だ。魔力値が大きいと何ができるのかは知らんけど。


「これは何ですか?」


 俺は女神様に"∞"マークが刻まれた右手の甲を見せる。


「それは私の紋章です。あなたが私の預言者であることの証しです」


「畑大悟、もともと、あなたは私達の世界に対する感度の高い人間です。これだけの力を分け与えれば、あなたも魔法が使えるようになるでしょう」


「魔法というのは、基本的には、その人間の特性に応じた効果を持った魔法が使えるようになるものです。畑大悟、あなたが使える魔法は……"洗脳魔法"です」


「"洗脳魔法"……ですか?」


 洗脳魔法、何やらきな臭い名前の響きだ。漫画やアニメだと、大体、そういう能力は悪役が使うものではないだろうか。


 俺の懸念は女神様も察知しているはずなのだが、女神様はニコニコしながら喋り続ける。


「そう、洗脳魔法です。洗脳したい相手の頭に右手をかざすことで、思考や記憶を読み取り、自由に書き換えることができるのです」


 すげぇ、何その能力、かなりのチート能力じゃないか。


「そう、かなり強力な能力です。うまく使えば、あなたは世界の支配者にもなれるかもしれませんよ」


「しかし、忘れないでくださいね。あなたのその洗脳魔法は、私が魔力を分け与えたから使えるということを。私が本気を出せば、あなたの魔力は一瞬でなくなります。あなたはその力を、私のために使うのです。わかりましたね?」


 女神様がウィンクしながら念押ししてくる。


「わ、わかりました。女神様」


 女神様には逆らえないということだな。そこに何の不満もない。俺はМ(マゾ)なのかもしれない。


「あとひとつ、あなたがこれから活動していくにあたって、情報収集が必要になってくるでしょう。そこで、こんなものを用意してみました」


 女神様がそう言うと、黄金のキラメキとともに、∞マークが刻まれたピンク色のスマートフォンが突然、現れた。デザイン、ダサいな。


 スマートフォンは、女神様の左の手のひらの上でフワフワと浮いている。女神様の手が大きいので、スマホが、かなり小さく見える。


「あなたの世界では、多くの人間が、この道具を使って、情報を集めたり、離れている人間と会話のやりとりをしていると聞いています。だから、あなたのためにこれを作ってみました」


 スマホは空中をスーッと滑るように移動し、俺の左手に収まった。


「使い方は、おいおい理解できるでしょう。これだけあれば、十分ですね、畑大悟?」


 女神様から課された使命に、どれだけの能力や道具が必要なのかはわからないが、今回、女神様から与えてもらったモノはかなり強力だ。とりあえず、女神様の問いにうなずく。


「それでは、畑大悟、あなたはもう目覚めるのです。あなたの活躍に期待していますよ」


 女神様がそう言うと、今まで立っていた白い空間の床が抜けて、俺は急速に闇の中へ落下して行った。女神様の方を見ると、一瞬、体中から放出されている黄金のオーラの間から、黒い触手のようなモノが何本か見えたような気がしたが、きっと気のせいだろう。


 俺は、落下して行く感覚に襲われ、身をよじりながら目を覚ました。


「夢か……」


 右手の甲に目をやると、そこには確かに、赤い傷のようなもので∞のマークが刻まれていた。

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