六十話 全てが終わって
* * * *
「これがウェルさんのお土産で、こっちがアリスさんで、こっちのケーキがガロンさんで、それでそれで、こっちがダウィドさんで」
あれから一週間。
〝ブラックドラゴン〟の経過観察の際、何かがあった時は錬金術師である私も必要だろうという事で一週間ほどヴェザリアに滞在した後、私達はアストレアへと戻って来ていた。
「……こ、これは『マガルの花』から得られる超希少な素材じゃないっすか。こんなものを一体どうやって」
これでウェルボール改verⅡの開発がー!!
と、ご機嫌な様子で工房へとウェルさんが引っ込んでゆく。
相変わらず名前の命名のセンスがアレだったけれど、黙っておく事にする。
そして、パフェ仲間のガロンさんには勿論ケーキ。
アリスさんへのお土産はよく分からなかったので、色々と悩んでいたのだが、事情を知ったユーミスさんからいただいた魔道具がお土産となっていた。
ダウィドさんへのお土産も、ユーミスさんが愚兄によろしく伝えてくれと言われ、いただいた希少素材の数々。
初めは固辞したのだけれど、またすぐに集まるからと言われて押し切られてしまった。
「ところで、一ついいかしら」
「どうかしたんですか? アリスさん」
「……言い辛いんだけど、なんか一匹増えてるのは私の目が可笑しくなったからなのかしら」
「…………」
アリスさんのもっとも過ぎる指摘に、私は口を真一文字に引き結んだ。
私の頭の上には、いつも通りルゥが乗っている。だが、いつもと違うのはその更に上に浮遊する真っ黒な生き物がいる事だろうか。
勢いでどうにかならないかなと思っていた私の思惑は、ものの見事に玉砕していた。
「これは、その、私達がヴェザリアに向かった理由に深く関係していると言いますか」
「……ガロンとダウィドも集まってから話すつもりだ」
こうなった事には、それは深い深い訳があった。それこそ、思わずナガレがアリスさんから目を逸らすくらいの訳が。
「〝魔晶石〟の件が実はドラゴンによるもので。困っていたドラゴンを助けたら懐かれた、だぁ!?」
ガロンさんが、なんだそりゃと言わんばかりに叫んだ。
厳密には懐かれたではないのだが、ある意味、懐かれたが故のものでもあるのでそれで通す事にした。
遡る事、数日前。
〝ドラゴン〟も回復し、滞在する理由が無くなった私はそろそろアストレアに戻ろうとしていたのだが、何を思ってか。
己の妹を里とやらに送り届ける為に別れた筈の〝ブラックドラゴン〟が私達の下に帰って来たのだ。
律儀というか、何というか。
助けて貰ったお礼といって、アンバーさんやユーミスさんを始めとした面々に〝ドラゴンブラッド〟といった希少素材を半ば強引に押し付けていた〝ブラックドラゴン〟だったのだが、私達に対しては何故か恩を返す為について行く。などと言い出していた。
理由は、お礼をしたいのは山々だが、私達の側にはルゥがいる手前、〝ドラゴンブラッド〟は必要ないだろうし、他の物もルゥに頼めば解決するものばかり。
だから、〝ブラックドラゴン〟なりに悩んだ結果が、一緒についていく。
というものであったらしい。
もちろん、固辞をしたが聞き入れてくれる訳もなくて。
結局、強引に押し切られて今に至る。
という現状だった。
だが、その際に気になる発言もあった。
『サーシャさんって、もしかしなくても精霊と縁のある人じゃないですか』
それは、〝ブラックドラゴン〟に説得されていた私に、メルファさんから向けられた言葉。
〝ブラックドラゴン〟が、それもあってついて行きたいと言っていたからその言葉は頭に強く残っている。
『錬金術の技量も聞く限りそうですけど、何というか、そんな感じがするです』
曰く、森の精霊たるエルフの勘。
錬金術師としての技量も、血筋が関係しているのではないかと告げられていた。
が、父は純粋な貴族だった。
母の出生についてはよく知らないが、精霊に関係のある人間だなんて話は聞いた事もない。
『……やっぱり、ぼくの勘違いじゃないよねえ』
そう言えば、一時期、ルゥからは聖女みたいな子とか、なんとか言われていた事を思い出す。それが関係しているのだろうか?
だけど、考えても仕方がない事ではあったので、ひとまずそれは置いておいて今回の事の顛末を説明したら、ガロンさん達に凄く呆れられた。
私だって好きでこうなった訳じゃないのに。
「……ドラゴンって、そんなほいほい出会えるもんじゃねえと思うんだが」
────私もそう思います。
って言いたかったけど、実際にほいほい出会えてしまっているので、すんでのところで言うのをやめた。
「しかし、ドラゴンか。オレはてっきり、あの魔物が怪しいって思ってたんだがなあ」
「もしかしなくても、城門のところにあったアレってガロンさんが倒したんですか?」
城に戻る際、城門付近にどでかい魔物が捨て置かれていた。
どうやら、ガロンさんが〝魔晶石〟の原因と当たりをつけて狩ってきた魔物であったらしい。
「ええ。ですが、ついさっきまで調べていましたけど、アレはただの魔物でしたね。〝魔晶石〟の件とは一切無関係でした」
ダウィドさんとガロンさんがすぐに見つからなかった理由は、その魔物を調べていたかららしい。成る程、道理で。
「ったく、完全に骨折り損じゃねえか」
結構苦労したんだぜ、アレ。
ガロンさんがそう口にするだけあって、かなりの大きさだったし、苦戦を強いられたであろう事は想像に難くない。
「あーあ。オレもヴェザリアについて行けば良かったぜ」
迷宮塔や、ドラゴン。
退屈する事はなかったと伝えたからか、失敗したと言わんばかりにガロンさんは溜息を吐いた。
そして、私がお土産として持ってきた酒場勤めだったノアさん特製のケーキをガロンさんが憂さ晴らしのように口に運び頬張る。
「……う、美味!? なんだこりゃ。半端なく美味え……」
「ですよね……!? ナガレやルゥは普通に美味しいしか言ってくれなかったんですけど、凄く美味しいですよねこれ!?」
「……オレ特製のパフェの下の部分を、この生地に変える事を検討するくらいには美味え」
「たしかに……!! 流石はガロンさん!!」
発想が間違いなく天才のソレである。
「いやいや。このケーキを土産として持って帰ってきてくれた嬢ちゃんのセンスあってだ。しかしこれは要研究だな。魔法師長としての腕がなるぜ」
この味を再現してみせる……!!
などと意気込むガロンさんを、ダウィドさんは白い目で見つめていた。
ケーキを味わう事にどうして魔法師長としての腕が鳴るんだ。
〝魔晶石〟の時より余程、やる気に満ち溢れているのは魔法師長としてどうなんだ。
……なんて考えてるんだろうなあと思いつつ、私は見て見ぬふりをする。
美味しいパフェを食べる為、今はガロンさんの味方をせざるを得ない……!!
「だが、問題が一つある」
「も、問題ですか……? それは一体」
私に出来る事なら、なんだってやるつもりだ。美味しいパフェの為ならば、それこそ嫌いな魔物であっても……!!
「材料がねえ」
「…………ぁ」
そういえば、ことの発端はお菓子屋さんが材料の調達が難しく、休業してしまった事であったと思い出す。
そうだ。レシピを完成させられたとしても、材料がないから作れないんだ。
「な、生殺し過ぎる……!!」
「くそったれえ……!!」
「お前ら本当に仲良いな」
「同志ですから」
「同志だからな」
パフェの絆は深いのだ。
ナガレの言葉に、私とガロンさんの返事はものの見事に一致していた。
『……食べ物の材料くらいなら、オイラが調達してくるけど』
本気で打ちひしがれる私とガロンさんを見かねてか、〝ブラックドラゴン〟─────クロノが控えめながら声を上げる。
彼の名前はあの後、いつまでも〝ブラックドラゴン〟じゃ不便だからと教えて貰っていた。
「救世主あらわる!!」
「おおおお!! 流石に私的な理由で転移魔法は使えねえから助かるぜ……!!」
これでも一応、ガロンさんなりに遠慮はしていたのだ。
どうにも、魔法長だからこそ、有事の際に万全の状態でいられるよう、私的な用事で転移魔法は使わないよう心掛けているらしい。
「……また一段と賑やかになりそうですね」
私とガロンさんのパフェ好きは今に始まった事ではないので、ダウィドさんも諦めているのだろう。
「まあ、静か過ぎるよりはマシだろう」
そしてナガレが同調。
「聞けば、ルゥ坊も大活躍だったらしいし、今回は特別に激辛ケーキも作ろうか」
私命名、喋るお人形さん事件。
ノアさんのケーキもルゥの尽力がなければたどり着く事は出来なかったので、ある意味一番の功労者とも言えるだろう。
本人は、喋るぬいぐるみ扱いをされた上、殆どリュックの中に隠れる事を強いられていたので不満たらたらであったが。
しかし、ガロンさんから特別に激辛ケーキを作って貰えると聞き、あからさまに機嫌を良くしていた。
激辛なケーキは、最早ケーキじゃないと思うんだ。
思わず抱いた感想を呑み込みつつ、そうと決まれば早速レシピを作る為にもノアさんのケーキをじっくりと味わうぞと、みんなでケーキをつつく事になった。
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