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六話 オリジナルレシピ

 父や姉に認められるには、果たしてどうすれば良いだろうか。


 それは、私がずっと考えていたことだった。


 ……私は嫌われ者だった。

 だから、レイベッカの技術は終ぞ教えて貰えなかった。

 でも、彼らに認められるには間違いなく、錬金術師としての道しかない。それは、絶対に。


 しかし、レイベッカの技術を使わず、レイベッカと同等。もしくは、それ以上の何かを完成させたところで、認められるには至らないだろう。

 きっと、不興を買うだけだ。


 それを分かっていたから私は、ナガレのようにすごいポーションを作るという事に一切重きを置いていなかった。


 私には、錬金術師として認められる為に、違う切り口で攻めるしか選択肢はなかった。


「……ヨスガの葉を使わず、ポーションを作れると?」

「はい。私のポーション(、、、、、、、)は、ヨスガの葉を使いませんから」


 信じられないものを見るような目で私を見つめてくるダウィドさんの言葉を肯定した。

 


 ————ヨスガの葉。



 それは高地に自生するポーションを作る際に必ず必要とされる材料。

 だが、ある一定の温度を安定的に保たねば育たないという条件などがある為、自家栽培をしようにも少量が限界。

 そもそも、絶望的に向いていない。


「その代わりに、あれを使います」


 私が指を差したのは、鉢に植えられた状態で置かれていた何の変哲もない草のようなもの。


「アグニ、の葉ですか……?」


 それは、錬金術を使う際に必須となる「よく燃える」事で知られる葉であった。

 錬金術とは、煮たり、焼いたりする事で、ポーションや、魔剤と呼ばれるアイテムを生成する。


 だから、よく燃えるアグニの葉は錬金術師にとって欠かせないものであった上、それはヨスガの葉と比べればかなり手に入れやすい葉であった。


「アグニの葉を使って、ヨスガの葉に代わる材料を生成します」

「ヨスガの葉を、つく、る……?」

「それに、一から作れば、理論上ではありますが、ヨスガの葉よりも上等な材料となり得る可能性も多分にある。もちろん、波はありますけど」


 ポーションの質は、基本的に変わらない。

 ただ、ヨスガの葉の状態でそれは僅かながらに変化する。


 だから理論上、良い状態のヨスガの葉を人為的に作ることが出来るならば、質の良いポーションが作り続けられる事となる。

 けれど、栽培という手法を使っては多くは作れないし、一度試すだけでも莫大な時間を要する。


 ならば、錬金術師らしく、作れば良い。

 本曰く、昔の錬金術師は何もかもを作って補っていたという。だから、無理ではないと考えた。


「……オリジナルレシピですか」

「単に、私に基本的知識が無かった事と、手元に自由に使えるお金が殆ど無かったからってだけです」


 探求者とも呼ばれる錬金術師にとって、己のオリジナルレシピは自分の生き写しのようなもの。

 でもこれは、そんな高尚なものじゃないと私は否定しておいた。


 これは単に、偶々の産物であるから。


 ヨスガの葉は、その、割とお高い値段で取引されているのだ。

 家は裕福であったけど、私自身は全然裕福ではなかった。だから、節約は一番の課題だった。


 何より、私に錬金術の基本的知識が一切教えられなかった事が一番の要因だろう。

 お陰で、ポーションを作る際は必ずヨスガの葉を使う。という固定観念が定着しなかった。


「……確かに、オリジナルレシピがあるなら可能ではありますが……いや、しかし、」


 可能ではあるが、それでも、実際にやるとなると土台無理としか思えない。

 そう否定しようとするダウィドさんの考えは決して間違ってない。寧ろ、これ以上なく正しい。


 普通の錬金術師ならば、アグニの葉をポーションの材料に、使おうとも思わない。


 一度、父に話した際には、ただ馬鹿にされるだけに終わっていたから。


「なあ、ダウィド。俺もここ二年ほど錬金術を学んだが、昔の錬金術師は、ヨスガの葉を使ってたやつの方が少数派だったらしいぞ?」


 そして、助け舟を出すようにナガレが会話に割り込む。


「それは、昔の錬金術師達が優れていたからであって、」


 そこまで言ったところで、ハッとダウィドさんは目を見開いた。


 口を衝いて出てきたその言葉は、優秀な錬金術師であれば作れるという事実を認めたに他ならない発言であったから。


「……成る程。私ともあろうものが、随分と常識に囚われていたようですね。ここで立ち往生するのもみっともありませんし、出来るというのであれば、場所と手を貸しましょう。これでも一応、錬金術師長と呼ばれる身」


 そこで私もハッとする。


 ダウィドという名を当たり前のように聞き流していたが、錬金術師長でダウィドと聞けば、心当たりは一人だけ。

 何故気付かなかったのだという思いと、そんな人を目の前にして大見得を切るような発言をした事を自覚し、気持ち悪い汗が心なし、背中を伝う。


 ダウィド・ツェルグア。


 魔法都市アストレアに籍を置く世界でも指折りの錬金術師。


「ガルシア。父上には、後で向かうと伝えておいてくれ。これからきっと、猫の手も借りたい状況になる筈だ。錬金術の心得が一応ある俺もここは手伝うべきだろう」

「わっかりましたよ。それじゃ、陛下にはそうお伝えしておきましょう」

「それと、そこのお前。ダウィドからのポーションはもう持っていってくれて構わない。ただ、出来たポーションを後で持って行かせるから場所だけ教えてくれるか」


 まるで、ヨスガの葉も無しにポーションが出来上がると信じて疑わないナガレの発言に、驚きを隠せない騎士の彼であったが、「み、南の門に来ていただければ!!」とだけ言葉を残して足早に去ってゆく。


 南の門といえば、私達が来た方向とは真逆の方角である。道理で気付かなかったわけだ。


「……随分と信頼をしてるんですね殿下」

「俺は、二年間サーシャがポーションを作るところを見て来たからな。そりゃ、信頼もするさ」


 ……そのお陰で、めちゃくちゃ材料を試す事が出来たので、この成果の半分くらいは本当にナガレのものといっても過言ではない。


 火に反応するアグニの葉を使っていたせいで、三桁くらい爆発する結果に見舞われていたけども。


「……成る程。ですがそれが本当なら、末恐ろしい才能ですね。調合の量、手順、材料。それを一から全て見つける。大したオリジナルレシピでもなかった私でさえ、それを成すのに十年近く掛かったんですけどね」


 ヨスガの葉を抜きにポーションのレシピを完成させるその才能は、末恐ろしいと。

 ナガレの言葉もあって、信じたのだろう。

 けれど、未だ驚いた様子であったダウィドさんの称賛の言葉が気恥ずかしくて、私は逃げるように錬金塔の中へと足を踏み入れ、ポーション製作の準備に取り掛かった。

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