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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章

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五十六話 コガラの実

「……なんだそりゃ」


 訝しむような視線で、テッドさんが言う。

 それが、地下から戻ってきた私達に向けられた一番最初の言葉だった。


 リュックに入り切らなかった素材の数々。

 ルゥと〝ブラックドラゴン〟には上着に包まって貰うとして────その前提でぱんぱんに詰め込んだものの、やはり入り切らなかった物を私はどっさり手に抱えていた。


 勿論、この全てがユーミスさんに頼まれていた治療薬等に使うものではない。

 ただ、何かの機会に使えそうな物が多かったから、取り敢えず保管しておこう。

 という私の勿体無い精神故の結果だった。


 ……滅多に手に入らない希少素材も多かったし、これは仕方がない。うん、仕方ない。


 ウェルさんボール改にはお世話になったので、これはヴェザリアに行ったお土産として更なる改良に役立てて貰う為にも必要なのだ。


「それで、準備は整ったですか」

「はい。ここで出来る事は、全て。ただ、治療薬がまだ完成していないので宿に作っておいた工房を使わなくちゃいけないので……もう少しだけ時間を貰う事になりそうですが」

「その点は問題ねえよ。こっちもこっちで、ちょいと根回しをする必要があるからな。どうせ、向かうとしても少しだけ時間がいる」


 テッドさんが口にした「根回し」という言葉に、何を根回しするのだろうかと思って私は小首を傾げる。


「……以前、ギルドの仕組みについて説明した事は覚えてるだろうが……依頼なしに迷宮塔に潜る事は基本的に禁止なんだ。加えて、上層階は冒険者でなくても入れる〝制限なし〟依頼の発行が認められてねえ。というより、依頼は出来るが、危険極まりなくて受理されん。だから、お嬢ちゃん達も入れるようにその根回しと、万が一を想定して、ドラゴンの存在が露見しないようにしておかなくちゃならん」

「……そういう事でしたか」


 確かに、実力も不透明な人間が危険極まりない場所に足を踏み入れようとしている場合、とてもじゃないが許可は下りないだろう。

 迷宮塔への入り口は、ギルド内にのみ存在している。

 彼らの許可をどうにかして得ない事には。


 そう考えたとこで一つ、私の頭の中に可能性が浮かび上がった。


「あれ。でも、そう言えば、それじゃあ〝ブラックドラゴン〟ってどうやって迷宮塔に入ったんだろう」


 〝幽霊騒動〟として騒がせていた〝ブラックドラゴン〟は一体、どうやって迷宮塔に入ったのだろうか。

 もしや、私達の知らない入り口があるのでは。


「それはもう共有してある。〝ブラックドラゴン〟曰く、上空五十メートル付近に外から入れる小さな入り口があるらしい。だが、俺達が入れる大きさの入り口じゃないんだと」


 だから、根回しをするという結論に至ったのだとナガレが教えてくれた。


「それと、ユーミス・ツェルグア」

「うん?」

「何か希少な変異種の死骸とか、保管してるです? 出来れば、根回しに使わせて貰いたいです」

「……希少な変異種の死骸が、根回しに必要なんですか?」


 賄賂か何かだろうか。

 いやでも、死骸なんて賄賂には使えないだろう。とんでもない変人に対してなら……使えなくもない、のかな……?


「〝幽霊騒動〟を解決したともなれば、必要になってくるのは〝討伐〟したという証明になるです。〝ブラックドラゴン〟が〝幽霊〟の正体と告げた場合、〝討伐〟した証明が必要になるです。だから、私達は適当な変異種を〝幽霊〟としてでっち上げる予定にしてるです」


 〝ブラックドラゴン〟の習性を説明したとして、納得するかどうかは賭けの域。

 それどころか、ドラゴンの希少な鱗や血などを求めてその習性(リスク)を無視してでも討伐しろと騒ぐ輩は少なからず出てくる。

 だったら、その存在を隠してしまった方が都合がいい。でっち上げた方が都合がいい、と。


「……成る程。確かにそれが道理だねえ。適当な変異種を見繕って〝幽霊〟としてでっちあげるのが最適解だ。それに、幸いにもお誂え向きの物があるよ」


 ユーミスさんのその一言に、私はびく、と身体を震わせる。


 ルゥを隠していたこのリュック。

 ぱんぱんに詰め込まれている理由は、勿体無い気質が少なからず影響しているのだが、それは本当の理由ではない。


 本当は、ものはついでだからとユーミスさんが要らない素材を色々とお裾分けして貰ったので、リュックがぱんぱんだった。

 その中の一つに、とある変異種の死骸の一部も含まれていた。


 まぁ元々、錬金術に使えるかどうかも分からないものだったので、問題らしい問題はないのだけれど、少しばかり名残惜しかった。


「今回の一件が片付いたら、代わりのものをあげるさね。ノヴァスの奴が全然帰ってこないから、色々と在庫が有り余ってるからねえ」


 元々、ただでお裾分けしていただいたもの。

 代わりの物を求めるなんて、とんでもない。とんでもないと思う私だったけど、地下に保存された希少素材の一部を譲って貰えると聞いて期待しない錬金術師はいないだろう。


 ユーミスさんから受け取った変異種の死骸の一部を手放すことに、何の躊躇いもなくなった。


「ばっちりオッケーです! 死骸の方もリュックの中に保管してあります!」

「そ、そうか。問題がないなら良かったぜ」


 小声で交わされた一瞬のやりとり。

 一体、どんな取引があったんだと言わんばかりに、テッドさんから変なものを見るような視線を向けられたが、ただでさえ時間がないからか深掘りされる事はなかった。


「オレ達は先にギルドに向かって根回しをしとく。だから、準備が出来次第、三人はギルドに来てくれればいい」

「分かりました」

「んじゃ、そっちはそっちで頼んだぜ」


 そのやり取りを最後に、テッドさん達と別れた私達は、ギルドとは向かう方面の違う宿屋へと向かった。



「……さて、と。問題児のお出ましだ」


 そしてたどり着くや否や、残った最後の希少素材────『コガラの実』をリュックから取り出し、対面する。

 正直なところ、『コガラの実』に関しては、失敗する可能性が極めて高い。

 ユーミスさんが所持していた全てを持ってきたけれど、その数は僅かに二つ。


「……『コガラの実』か」


 取り出した希少素材を、ナガレが一目で看破する。


「七色に変化する実、だったよな」

「うん。その『コガラの実』だよ」


 『コガラの実』は、正しい手順を踏んで処理を行った場合、その実の色は、七回変化をする。

 だから別名、虹の実などと呼ばれる事もある希少素材であった。

 処理の仕方は、簡単だ。

 決められた温度の、錬金液と呼ばれるものに浸すだけ。


 錬金液とは、四元素の一つである水。

 汲んだ水ではなく魔力が多く含まれた魔法で用意した水のことを指す。


 ただ、七回、温度を変化させる必要と。

 僅かな誤差すら許されない事。

 その誤差で、素材は腐食し、一瞬で使い物にならない廃棄物と化す。


 加えて、錬金液が温度調整が極めて難しい物である事。

 それらの前提条件故に、『コガラの実』は事実上、処理が出来る人間は片手で事足りる。

 などと言われる程の素材だった。


「だから、工房じゃなくちゃいけなかったの」


 簡易工房とはいえ、道具をただ並べただけではない。

 その程度なら、手持ちにあるものでどうにかなった。必要だったのは、小一時間程かけて描いたコレ────法陣にあった。


「……知ってるものとは少しだけ違うけれど、これってもしかして」


 私が法陣に目を向けていたからか。

 ユーミスさんが何かに気付いたように声を上げる。その意味はきっと、見覚えがある独特な法陣であるからと私は自己解釈をして、応じるように声を出す。


「はい。これは、ダウィドさんから教えていただいた法陣です」


 法陣とは、魔法で言う補助魔法のようなもの。簡単な錬金術は法陣がなくとも何も問題はない。ただ、複雑になればなるほど法陣が必要となってくる。

 そしてそれも千差万別。


 すぐに描ける法陣もあれば、時間を要する法陣もある。ダウィドさんから教えて貰ったものは後者にあたる。


 だから、宿屋に戻る必要があった。


「俺は何をすればいい」

「ナガレには、こっちをお願いしたい」


 そう言って私は、地下で処理を終えていた希少素材の一部を取り出して、ナガレに渡す。


 その素材の種類から、何をしてくれと私が言いたかったのか瞬時に理解してくれたのだろう。


「『コガラの実』の最後の処理に必要なアレを作れば良いのか」


 六色に変化をした後、『コガラの実』は最後に透明色の実を残して処理が終わる。

 だが、その実も特殊な調合法によって完成した液体を使わなければならないというもう面倒臭い事この上ない希少素材だった。


 だから、私が『コガラの実』をどうにかしている間に、その液体をナガレに作って貰う事にしていた。


「私に手伝えることは────」

「ユーミスさんは、この後に大仕事が待ってると思うので、その為に魔力を温存しておいて下さい」


 地下での説明を聞く限り、その労力は計り知れないものだ。

 キーであるユーミスさんが、こんなところで魔力を消費するのは褒められた行為ではない。

 故に、有難い申し出ではあったものの、私は「必要ありません」と断った。


「だから、〝ブラックドラゴン〟も私の手伝いをする必要はないよ」


 終始、そわそわしていた〝ブラックドラゴン〟に向けても言葉を言い放つ。


 ただ、断ったからには何が何でも成功させなくちゃいけない。

 極論、物さえ完成してしまえば私はいてもいなくてもあまり変わりはない。


 だからこそ、ここで魔力を使い切る事になろうとも、全神経使って成功させる。

 今私に出来る事は、それだけだ。


「……じゃ、やろっか」


 そして私は、足下に描いた法陣に魔力を注ぎ、伝導させる。

 明滅する光。

 それが補助魔法のような役割を果たし、錬金術の効果を促進させる。


 燃費は悪く、簡易的な錬金術には使わないので、これを用いるのは久しぶり。

 何より、法陣に頼ってばかりだと錬金術の腕が上がりにくいのが玉に瑕だった。


「まず、一色目」


 色の変化。

 常温の錬金液に突っ込むや否や、灰色の実が一瞬で白に変色。

 錬金液に含まれる魔力と反応して、実が分解されてゆく。

 常温にもかかわらず、ぶくぶくとまるで沸騰でもしているかのように、空気の粒子が実から溢れ出てゆく。


 そして、色の変化に合わせて錬金液の温度を変化させなくてはいけない。

 ただ、錬金液は温度が特に変化しにくい液体。温度の変化には途轍もない魔力を消費する。

 後の事を考え、出来る限り節約を。

 でも、失敗は許されないので節約し過ぎて失敗する事はないように。


「〝燃え上がれ(イグナイト)〟」


 温度変化。

 常温から、高温に。

 色は白から赤に。


 図書館で得た私の知識通りならば、ここから五分ほど、この温度の維持が必要。

 『コガラの実』の処理の仕方を発見した先人は、つくづく化け物だったと言わずにはいられない。


 次に、一気に温度を下げた後、また急激に温度を上げる。その繰り返し。

 タイミングも、色が変色を始めた瞬間に行わなければならないので一瞬とて目が離せない上、温度調整の関係上、気はずっと緩められない。

 僅かの乱れで、実が腐食したものに変わってしまうから。


『……いつか、必ず礼はする。させて貰う』


 そんな中、〝ブラックドラゴン〟が口を開いた。


『こんな事なら、初めから人間を頼るんだった』

「……いや、それに関しては博打要素が高い。止めておいて正解だったと俺は思うな」

「右に同じだねえ。誰も彼もがお人好しとは限らないさね」


 会話をする余裕がないので言葉には出せないけど、私も二人の意見に同意だった。


 ドラゴンの素材は、希少素材よりも余程、希少なものだ。

 ユーミスさんや、テッドさん達のような人間は間違いなく少数だ。


『ぼくらは大概の人間の嘘は見抜けるけれど、見抜いた時にはすでに手遅れってなってる可能性は否めないからね』

「それに、礼をする云々の話はちゃんと助けられてからすればいい。絶対に助けられるとは限らないのだから」


 非情にも取れる突き放すような言葉だが、ナガレの言葉は正論だった。

 助けられる可能性は、現時点で五分五分。

 ううん、もっと低いだろう。


 期待させるだけ期待させて、助けられませんでした。という結果の方がもっと残酷だ。

 リスクは事前に可能な限り伝えておくべきだろう。


「ただ、俺に礼はいらない。俺はサーシャが助けたいと言ったから、その手伝いをしてる。それだけだから」


 私達の本来の役目はもう終わっている。

 その証拠云々も、王子であるナガレの証言で十分過ぎるから。


 だから、今は単に私の我儘にナガレを付き合わせてしまっているだけ。

 申し訳なく思いながらも、付き合ってくれるナガレに感謝の念が尽きなかった。

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