表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/60

五十話 連携

 ソーマさんの声と同時、私達は一斉に駆け出した。

 不幸中の幸いは、〝幽霊〟を捕まえる為に八階層の地図を頭に入れていた事だろうか。

 お陰で転移陣の場所までの最短ルートを理解していた。


 だから、大丈夫。大丈夫と自分に言い聞かせて足を動かす。でも、そんな私達の想いを嘲笑うように、言葉にならない声が鼓膜を揺らした。


『────』


 〝死神(レイヴン)〟による魔法。

 悍ましい程に昏い黒々とした魔法陣が、私達の足下へ広範囲に展開され、瞬く間に場を席巻した。


 逃げようにも、あまりに速く広範囲に展開されたソレから完全に逃げ切れる手段はなく、それを前にしてソーマさんとバルトさんは足を止めて反転。

 逃げる事をやめた。


「ッ、ティアは二人を転移陣まで護衛しろ!! オレとバルトで足止めする!!」


 ────逃げ切れない。

 そう判断をしたソーマさんの言動にティアさんは賛同すると言葉ではなく行動で示す。

 足手纏いになるとは分かっていても、私達だけが逃げるという事実を前に躊躇う私達の腕を、ティアさんは引っ張った。


「二人は強いから、大丈夫」


 それは知っている。

 〝ブラッドラット〟の大群が押し寄せた時に、実際にこの目で見ているから。


 だけど、相手が階層主と呼ばれる存在。

 ソーマさん達の力量を信頼していて尚、厳しい戦いになると判断しているのか、ティアさんの声は震えているようにも思えた。


 ことこの場において私達は足手纏い。

 ウェルさんボールで援護しようと考えたけれど、そのせいで此方に相手の注意が向いてしまえばそれこそ、ソーマさん達に余計な迷惑が掛かる。

 何より、〝死神(レイヴン)〟と呼ばれた存在に、ちゃんと通用してくれるという保障はどこにも無いのだ。


 でも、このまま逃げる事しか出来ないのか。

 何か私達に出来る事はないだろうか。


 足を動かしながら、私はそんな考えのもと、ナガレの名を呼び視線を向ける。


「……ナガ、レ?」


 視界に映り込む彼は、足を動かしながらも私と同様に眉間に皺を寄せ、考え込んでいた。


 だけど、これまでの短くない付き合いからその考え込んでいる内容が私のものとは異なっていると理解する。

 ナガレは、まるで「何かがおかしい」と言わんばかりに表情を歪めていたから。


「……どうして、階層主(アレ)が八階層にいた」


 ────それは、〝ブラッドラット〟と同様、〝ブラックドラゴン〟に追われてやって来たのでは。


 そんな考えが浮かぶ。

 ティアさんがいる前だから、詳しくは言えないけれど、それが正しい答えだと思った。

 でも、ナガレは違うと言わんばかりに声に出して己の推理の真偽を確かめてゆく。


「追われていたなら、正しい行動は身を潜めて十階層に留まるが最善だ。偶然、階層主が八階層に出現したという前提を踏まえても、今現在、〝幽霊〟がいた八階層でこうして目立つ行動をする事に説明がつかなくなる」


 言われてもみれば、確かにと納得せざるを得なかった。

 じゃあどうして、〝死神(レイヴン)〟はここにいるのか。

 こうして、猛威を振るっているのか。


「ルゥ」


 ナガレがルゥの名前を呼ぶ。

 ティアさんに存在がバレてしまう可能性を加味して尚、今聞かねばならない事だったのだろう。


「〝ネードペント〟の時、ドラゴンブラッドは途轍もない効果を俺達に齎してくれた」


 対抗薬作成のため、ルゥは私の魔力と引き換えに、血を提供してくれた。

 アレがなければ、失敗していた可能性は大いにある。

 故に、ドラゴンブラッドの存在が如何に大きいものか。それを私達は理解しているつもりだ。

 そして、それが魔物にとっても軽んじるものでない事も。


「……俺の予想だが、〝幽霊〟が手負いの可能性がある。だから、薬草群にいると仮定すれば辻褄が合う。あの〝死神(レイヴン)〟が八階層で暴れてる理由をドラゴンブラッドを得る為とすれば、少なくとも違和感はなくなる」


 魔道具の一件についてはまだ疑問は残っている。でも、私はナガレの予想が正しいと思った。それはルゥも同じだったのだろう。


「どうするべきだと思う」


 このまま逃げる事が正しいのか。

 〝ブラックドラゴン〟を探すべきなのか。


 前者の場合、私やナガレの安全は限りなく高い可能性で保障される。

 後者の場合、その保障がない。

 それどころか、死ぬ可能性だってある。


 でも、今の私達にとって〝ブラックドラゴン〟は〝魔晶石〟の件の唯一の手掛かり。

 かつ、ルゥの同胞。


 魔道具を盗まれかけはしたが、直接的な被害は受けていない。


 ────助けた方がいいのではないか。


 そんな考えが脳裏を過ぎる。


『……引きこもりで、鬱陶しい奴だけど〝ブラックドラゴン(黒蜥蜴)〟は義理人情に厚くて、身内意識がかなり強い。本当に手負いなら、助ける価値はあると思う。恩を仇で返される可能性もないと思う。ただ、』

「私の事なら気にしないで。自分の身は、ちゃんと守れる。それに、ナガレがいるから心配なんてしてないよ」


 ルゥが気に掛けたのは私の事。

 だから、心配ないと告げておいた。


「決まりだな。それに、錬金術師として同行する依頼だったとはいえ、依頼を満足にこなせてないのに自分だけ先に逃げるのは俺も気が進まなかったんだ」

『でも、それをするにしてもどうするのさ』

「俺が〝死神(アレ)〟を食い止めてる間に、ルゥがブラックドラゴンを見つけてくる。簡単な話だろ」

『……アレ、結構強そうだけど大丈夫なの?』

「俺を誰だと思ってる。これでも、王子でなければ魔法師長の座を譲ったのにってガロンに言われた人間だぞ」


 不敵に笑うナガレの言葉を最後に、会話が終わる。

 内容を聞く限り、ナガレもナガレなりにこの場に留まる理由を探していたという事なのだろうか。


 私が背負うリュックの中から聞こえてくるルゥの声に、ティアさんは驚きを隠せず、「え!? え!?」と、狼狽していた。

 そしてそのまま、リュックから白いもこもこが飛び出したのだから、もう訳が分からないとばかりに目を丸くする。


 申し訳なくはあったけど、そんなティアさんに詳しい説明をするより先に私とナガレは逃げる足を止め、反転。


 ブラックドラゴンを助けるなら、私もそのサポートに回らなくちゃ。


「ちょっと、二人ともッ!?」

「ごめんなさい!! 少しだけ、時間を下さい……!!」


 悲鳴染みたティアさんの声に謝罪をしながら、私は魔法を展開すべく準備をする。

 同時、魔法師顔負けの手際の良さで此方も魔法陣を虚空に浮かばせ、展開させてゆくナガレの行為によってソーマさん達も異変を否応なしに感じ取った。


 その行動によって、〝死神(レイヴン)〟の注意を掻っ攫ったナガレに、「何やってんだっ!!」と鬼の形相で叫ぶソーマさんだったが、その声は私達に届く寸前で掻き消される。



「────〝稲妻奔れ(ライトニング)〟────」



 魔法陣より迸る無数の雷撃が、音を呑み込み、〝死神(レイヴン)〟へ殺到を始める。

 眩い光は、今しがたソーマさん達に敵意を向け、攻撃を試みていた〝死神(レイヴン)〟の魔法さえもを掻き消す。

 私とナガレを除く全ての人間の間に、一瞬の空白が生まれた。


「……おいオイ、錬金術師じゃねえと思っちゃいたが、高位魔法まで使えんのかよッ」


 程なく、先の魔法の正体を看破したソーマさんが、信じられないと言わんばかりに言葉を吐き捨てた。


 魔法には、主に四つの種類が存在する。

 一つに、下位魔法。


 私が使える魔法のほぼ全てがこの下位魔法と呼ばれるもの。

 錬金術に使用する魔法も、殆どが下位魔法で一番親しみ深い魔法とも言える。


 次に中位。高位。そして、超位の四種類。

 中位と高位の差は、扱い辛さと消費する魔力の量に起因しており、一流と呼ばれる魔法師のその大半が高位魔法までを扱える。


「加勢する」


 虚空に手を翳し、更に魔法を展開。

 〝ブラックドラゴン〟を探しに向かったルゥの存在を悟らせない為とはいえ、ナガレは大立ち回りをし、魔力を湯水の如く垂れ流す。


 その間に、ソーマさん達が何かを言おうとしていたが、挑発するように妖しく目を光らせる〝死神(レイヴン)〟の呻き声によって、遮られてしまう。

 直後、対抗するように闇色の魔法陣が展開され、そこからぼこぼこと這い出るように、白骨化した肢体が姿を覗かせる。


「……やっぱり、気分が悪い」


 ────〝屍兵召喚(リビングデッド)〟。

 それは、高位の〝死霊(アンデッド)〟。

 特に、リッチなどが好んで使用する魔法だった。


 見ていて気持ちの良いものではない。

 ぽつりと漏らしたティアさんの一言に、私は全面同意だった。


 そしてそのまま、休む間を与えないとばかりに、続けて展開される魔法。

 ナガレの魔法による連撃猛攻を躱す〝死神(レイヴン)〟によるソレを前に、ソーマさんは大声で叫び散らす。


「〝這い出る闇手(アンフェクシオン)〟だ!!! そいつに触れんじゃねえぞ!! 魔力を吸われる事になる!!!」


 魔法陣からは、触手のようなものが生えたと同時に蠢き始める。

 ニョロニョロと動くそれは、生理的嫌悪を私に齎した。

 ただ、その触手が未だ残る薬草群の名残りである薬草に触れるや否や、一瞬にして腐食。

 枯葉となって風化するその様は、正しく驚異的の一言。


 こんなものをどう対処するのだ。


 胸に抱いたその疑問を言葉に変えるまでもなく、「伏せろォッ!!」というソーマさんの言葉が響き渡る。


「マナ、ブラストぉぉぉおッ!!!」


 青白の剣線が衝撃波として、三日月を模って触手達を斬り裂いてゆく。

 その威力は流石の一言。


 そして、私はその間に一つの魔法を完成させる。



「────〝魔能膨陣(マナサークル)〟────」



 ソーマさんと、ナガレ。

 加えて、ティアさんの足下にそれを展開。設置。


 効果は、魔法の効果向上を齎すもの。

 魔法を扱う錬金術の作業効率向上の為に、ガロンさんから教えて貰っていた魔法の一つ。


『攻撃魔法の才能は残念ながらからっきしだが、錬金術に使える魔法はスポンジのように吸収してしまうソレは謎すぎねえか? まぁいいか。折角だ、なんか面白えし、錬金術に使えそうな魔法は一通り教えてやるよ』


 そんなこんなで教えて貰っていた事が、こんな場面で役に立つとは思わなかった。


「ほん、っ、と、これで錬金術師とか絶対に嘘でしょッ!? 二人とも!!」


 魔法師より魔法師らしい。

 ティアさんは悲鳴を上げながら、〝マナサークル〟で増幅した魔力で、魔法陣を〝死神(レイヴン)〟の頭上に展開。


 直後、ジャララ、と金属同士が擦れる音が木霊する。その正体はすぐに判明。


 無数に出現した鎖の音だった。

 それは〝死神(レイヴン)〟と、〝屍兵〟の多くを拘束。そして生まれた一瞬の硬直。隙。


 その一瞬を待ってましたと言わんばかりに、虚空に身を躍らせる人影が一つ。

 〝ブラッドラット〟の時は抜きすらしていなかった剣を抜いたバルトさんだ。


 やがてやってくる未来を予想してか、最前線で剣を振るっていたソーマさんが、避難するように慌てて退避。


「どっちでも良い!! 結界張れ!!」


 最早、錬金術師扱いするだけ馬鹿らしいと判断したのか。

 ソーマさんは私達に向かって叫び散らす。


「分かり、ました……っ!!」


 どうしてと理由を尋ねる時間はない。

 だから言われるがままに私は、結界の魔法を全員に付与してゆく。

 ナガレはその間にも、ティアさんの鎖を解かせないよう、魔法での牽制を続けていた。


 そして、大上段に構えていたバルトさんの剣が、振り下ろされる。

 まるでそれは────〝炎剣〟。


 業火を纏うそれは、事前に伝えられていた通り、まごう事なき魔剣。


「……魔剣ゼノーヴァ。如何に階層主とはいえ、真正面からもろに直撃したとあれば無事では済まないでしょうね」


 勝ちを確信したティアさんの呟きが正しいと証明するように、高位魔法と見間違う程の量の炎が撒き散らされる事となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ