表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/60

四十八話 捕獲作戦

「でも、これで確信出来た。明らかに今の八階層では異常事態が発生してる。一刻も早くこの事をギルドに伝えなきゃいけねえんだが……」


 ソーマさんは煩わしそうに頭を掻く。


「さっきのアレのせいで、結構奥の方まで来ちまったんだよな」


 昨日、ナガレと共有した迷宮塔についての知識の中に、迷宮塔内には一層一層に出口に繋がる転移陣があるというものがあった。

 ただ、それは一層ごとに場所が異なっているらしく、


「……戻るとしても、薬草群に向かった方が多分早いですね」


 バルトさんはそう言って徐に懐から地図のようなものを取り出した。


「恐らく、現在地がここ。それで、転移陣がある場所がこのバツマークの部分です」


 バツマークは、二箇所。

 入り口付近に一つと、深部に一つ。


 たった十分程度逃げ回ったとはいえ、魔法で強化された状態で走り回っていたのだ。

 入り口付近からは随分と離れてしまっていた。

 確かにこれなら、深部に向かった方が早い。

 何より、来た道を戻るともなると、先程の大群と出くわす可能性が高かった。


「それじゃあ、このバツマークのところに向かった方が良さそうですね」

「でも、少し休んでから行こう」


 すっくと立ち上がる私に、ナガレが制止するように言う。


「また、さっきのようにならない保障はどこにもないだろ。そんな時に、体力が無かったってならない為にも、少し休憩してからの方がいい」

「……確かに、それもそっか」


 私はユーミスさんから渡されたローブのお陰で殆ど疲れてないけど、魔法を使いっぱなしだったティアさんや、道を作ってくれていたソーマさんは疲労が溜まっている筈。

 ここはナガレの言う通り、少し休憩してから向かうがベストな選択だった。


「それじゃあ、少し休むとして────あ」

「どうかしたか」

「……そういえばこれ、持ったままだった」


 急に魔物が襲って来たせいで、あの時の〝魔晶石〟を咄嗟にポケットに入れたままだった事を思い出し、取り出す。

 魔力を発生させる鉱石故に、〝魔晶石〟は魔物を引き寄せる。

 だから、どこか遠い場所に捨ててこようと思い、再び立ち上がろうとして。


「にしても、最近は色んな場所に〝魔晶石〟が転がってやがんな」


 何気なく呟かれたソーマさんの言葉に、私は引っ掛かりを覚えた。


「……そうなんですか?」

「ああ。特に、変わった〝魔晶石〟が見つかったとか何とか高ランクの連中が話してるのを聞いた事があった気がする。ま、それは普通の〝魔晶石〟みてえだけどな」

「変わったっていうと、例えばそれは、魔力を完全に失った〝魔晶石〟のこと、か?」


 ナガレが踏み込む。


 私達はこれまで、アストレア付近で見つかった魔力を失った〝魔晶石〟がヴェザリアの迷宮塔と関係ないものと考えていた。

 もしかすると関係があるかもしれない程度には疑っていたが、それもあって〝魔晶石〟はユーミスさんに聞くだけで満足していた。

 いや、違う。

 ユーミスさんを除いて誰からも情報を得られないと決めつけていたから、『露光の花』についてしか聞こうとしていなかった。

 やがて、ナガレの問いに対する返事がやってくる。


「よく知ってんな? まぁ、実物を見た訳じゃねえんだが、上層階でそういう〝魔晶石〟を見たって話を偶然、耳にした事がある。そうでなくとも、最近は色んな場所に〝魔晶石〟が散らばってやがる。理由は、まぁ分かんねえんだが」


 ────ソーマさんの口振りからして、その件も〝幽霊騒動〟が起こった辺りからの出来事の筈だ。


(ルゥ。ルゥ! 一つ聞きたい事があるんだけど……!)

(……なぁに?)

(可能性の話として、ブラックドラゴンが、〝魔晶石〟の魔力を吸い尽くした可能性はある?)


 ルゥが私の魔力を受け取っているように、ドラゴンも魔力を取り込む。

 だから、ブラックドラゴンが〝魔晶石〟の魔力を吸い尽くしたという可能性は十分にあり得るのではないか。


(……可能性としてはなくはないよ。だけど、普通はあり得ない。仮にそうだとしても、二個も三個もその状態の〝魔晶石〟が見つかるなんて事は起きないと思う。ぼくらも、無限に魔力を取り込める訳じゃないしね)


 だから、状況的にはあり得ない可能性とルゥは言い切る。


(だけど、この一件に〝ブラックドラゴン(黒蜥蜴)〟が絡んでる可能性は高いと思う。特に、引き篭もり体質のあいつらがここまで出てきたって事は絶対何か理由がある。とっ捕まえたら何か情報は出てくるだろうね)


 でも、とっ捕まえるのは殆ど無理に等しいんだけどね。あいつら、逃げ足超速いし。

 などと付け加えられた言葉は、過去にそれを実感させられる出来事にでも見舞われたのか。

 いやに感情が込められているように思った。


(……正攻法じゃ無理ってことは……たとえば、罠を仕掛けるとか?)

(正攻法よりは、上手くいく可能性が高いと思う。でも、成功確率はすんごい低いかなあ。だけど、やらないよりはマシ、とは思う)


 罠を仕掛けるとしても、何処に仕掛けるか。


(あと、仕掛けるとしたらその薬草群ってところがいいと思う)

(どうして?)

(既に言ったけど、〝ブラックドラゴン(黒蜥蜴)〟とはいえ、意味のない事をドラゴンがするとは思わない。だから、八階層にきた理由があるんだと思う。なら、八階層にくる理由っぽい薬草群に仕掛ける他ないかなって)


 確かに、仕掛けるとするならルゥの言うように薬草群がベストだろう。


 じゃあ、薬草群に仕掛けるとして……その罠はどうしようか。

 手元に幾つか対魔物用の物はあるけれど、罠として使える物は残念な事に一つもなかった。


 とすれば、私はどうするか。


 うん。今、作る他ないだろう。

 ……い、や、待てよ。


「ナガレ」


 ソーマさんと〝魔晶石〟について言葉を交わしていたナガレの名を私は呼ぶ。


「ちょっと、リュック借りるね」

「それは別に構わないが」


 ナガレのリュックの中には、ユーミスさんから押し付けられていた魔道具がある。

 徹夜で調べに調べ、使えそうなものかつ、荷物になりにくそうなものを選んで持ち込んだ。


 確か、その中に────。


「……おいおい。随分な数の魔道具を持って来てたんだな」


 ぽいぽい、と魔道具をリュックから取り出してゆく私の様子を前に、呆れた様子でソーマさんが一言。

 やがて、私は目当ての魔道具を見つけた。


「あっ、た」


 見た目は、水晶のような玉。

 ラズライトに輝くそれは、魔力を込めれば魔力糸と呼ばれる不可視の糸を張り巡らせる魔道具である。

 特に、これは込めた魔力の量で反応する魔道具であり、多くを込めれば多くの魔力を有したものに反応を見せ、魔力糸で絡め取ろうとする。

 そして少なく込めたならば、少ない魔力を有したものに反応を見せる。


 昨夜、ルゥが面白半分に弄り、自分自身が魔力糸によって雁字搦めに巻き付かれていたのは記憶に新しい。


「……まさか、捕まえる気なのか?」


 効果を既に見ていたナガレは、私が何をしようとしているのかを察したのか。

 やめておいた方がいいとばかりに渋面を見せていた。


「捕まえるって、もしかしなくてもあの黒いヤツを?」

「捕まえられるのならそれが一番ではありますが、今回は居場所を突き止める準備、ですかね」


 ナガレの言葉にティアさんが反応する。


 この魔力糸を生成する魔道具一つでどうにかなるとは私も思っていない。

 ただ、この八層に〝ブラックドラゴン〟が用ある内に手を打たないと何処にいるのかが本当に分からなくなってしまう。

 それは、あまりに拙かった。


「なので、これも使います」


 取り出したのは一見、普通に見えるただの羽根ペン。

 でもこれは、普通とは異なってインクの部分が少々特殊なものだった。


 これは、インクを己の魔力で補う特殊な羽根ペン。名付けるとすれば、魔力ペンだろうか。


 己の魔力で書くペンだから、文字を書いても見える筈もない。

 だから、これはまごう事なきガラクタ。

 そう断じていたのだが、よくよく考えてもみれば、己の魔力は己にのみ多少遠くにいようが感知出来てしまう。

 だから、この魔力ペンと魔力糸を生成する魔道具を合わせて使えば、〝ブラックドラゴン〟の居場所を突き止める事も可能なのではないか。


 私はそう考えた。


「……魔力糸にそれを塗るって事か」


 夜更かしをして一緒にいじり倒していただけあって、ナガレは私の考えにすぐにたどり着いていた。

 とはいえ、あの不健康極まりない夜更かしがこんな形で役に立つとは夢にも思わなかった。


「あれの正体がハッキリしていない以上、直接的な危害を加えるのは気が乗らなかったが、その程度なら問題はないと思う」


 傷をつけたりすると、〝ブラックドラゴン〟が暴れ出してそれこそ収拾がつかなくなる可能性が考えられた。

 でも、糸に絡まる程度なら大事に発展する可能性は極めて低かった。


「要するに、〝幽霊〟の居場所を明確にするって事か。ばちばちに戦うとかなら反対したが……まぁ、そのくれえなら問題ない、どころか、やっておくべきではあるか」


 戦う事はソーマさんとしても反対だったのだろう。

 なにせ、危害こそ加えられなかったが、一瞬で私達の魔道具を掻っ攫うような相手だ。

 戦闘に発展したとなると間違いなくとんでもない被害が生まれるだろう。


「何より、一役買ったともなれば相当の報酬がギルド側から支給されるでしょうしね」


 どうにも、バルトさんは乗り気らしい。

 相当の報酬。という言葉を耳にして、ティアさんも顔を綻ばせる。


「決まり、だな。よし。そうと決まればオレらも手伝うぜ。取り敢えず、何をすればいいのか教えてくれや」


 魔力ペンの使用には勿論、魔力糸の生成にも、相応の魔力を消費する。

 だから、薬草群の広さが分からないから何とも言えなかったけど、不十分な仕掛けになる可能性が高かった。

 でも、ソーマさん達が手伝ってくれるのなら、私は魔力ペンの方に魔力の消費を集中出来る。

 素直にその申し出は助かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ