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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章

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四十六話 ウェルさんボール改

「────……これは間違いなく、〝魔晶石〟だな」


 躓く事になった原因を拾い、ナガレの下まで歩み寄る。

 一応、ナガレにも確認をすると案の定と言わんばかりの答えがやって来た。


「〝魔晶石〟ってアレでしょ? 深部によくある光る鉱石。でも、こんなところに転がってるだなんて珍しい事もあったものね」


 ティアさんの言う通り、〝魔晶石〟は本来こんな場所にあるものではない。

 とすれば考えられる可能性は、何者かによって移動してきたというもの。

 他の冒険者達が持って来た、という可能性は無きにしも非ずだが、しかし〝魔晶石〟を持ち歩くメリットがなさ過ぎる。


 魔力を多く含む〝魔晶石〟から魔力を抽出する試みも行っていたようだけど、魔女なんて異名で呼ばれていたユーミスさんも出来なかったようだし、用途がまるでない。


「……でもこれ、少しだけ輝きが強いような」


 ガロンさんから渡された〝魔晶石〟は、もっと淡い光を放っていた気がする。


「いや、それが正しい姿だ。〝魔晶石〟は本来、内包された魔力に応じて強い輝きを放つ鉱石だから」


 とすると、これが本来の〝魔晶石〟の姿なのか。


 ……いや、でも少し神経質になり過ぎている気がする。

 〝魔晶石〟絡みでやって来たからとはいえ、何もかもを結びつけ過ぎだろう。

 そもそも、アストレア付近で起こった現象が、このヴェザリアでも起こっている可能性は距離的にもかなり低い筈なのに。


「こっちは大方、片付いたぜえ。って、なんかあったのかよ?」

「いえ。ちょっと珍しい物を見つけたので、気になっちゃって」


 私が〝魔晶石〟を見せると、ソーマさんとバルトさんは「あぁ」と頷いて納得してくれた。


「オレらにとっては珍しくねえけど、錬金術師からすれば〝魔晶石〟は珍しいか」


 錬金術を行う事を生業としているので、ダンジョンに潜る機会などそうそうない。

 加えて、〝魔晶石〟は光る鉱石として有効活用は出来るものの、発生する魔力から魔物を引き寄せてしまう特性がある為、基本的に使い道はない。

 錬金術においても、それは変わらず、それ故に〝魔晶石〟が市場などに出回るような事はない。


「でも、〝魔晶石〟なんかどこで拾ったんだ」

「あそこで躓いちゃって。偶々それが〝魔晶石〟みたいだったようで」

「そういう事か。ならもしかすると、さっきの大群はそれが原因だったのかもな」


 レッドラットの大量発生。

 それが、偶然ここに転がっていた〝魔晶石〟によるものだとすれば確かに理屈は通る。


「ですが、それはそれで妙ですね」


 バルトさんが考え込むように、手を顎付近にあてる。


「〝魔晶石〟は────」


 そう言ってバルトさんが、彼なりの見解を述べようと試みてくれた瞬間、私達の前を黒い影が横切った。

 それは人というより、飛行系の魔物の影だろうか。まるで、ルゥを少し大きくしたようなシルエットで。


 直後、私の手首に嵌めていた銀色のブレスレットが何故か忽然と消え失せていた。


「────なっ!?」


 それはどうにも、私だけに起こった不思議現象ではないらしく、バルトさんは腰に差していた魔剣が。

 ソーマさんは魔道具らしきネックレス。

 ティアさんは背負っていた弓で、ナガレは私と同様、ブレスレット。

 加えて、錬金術師として同行するからと持って来てくれていたリュックが丸ごと無くなっていた。


 視界の端に、辛うじて未だ映り込んでいる黒いシルエット。

 その側には私達から奪ったであろう物の影が見え隠れしていた。



 ──── 正体不明の魔物に襲われる冒険者の数が段々増え始めて。初めは物を奪われる程度の被害だったらしいんだけど。


 不意に、ユーミスさんから教えて貰った〝幽霊騒動〟についての詳細が頭の中で思い起こされる。

 そこで、まさかと思ってしまう。

 上層にのみ現れると聞いていたけれど、もし仮に、この八階層にああいった魔物がいるなら、事前に忠告なりがあったとしてもおかしくない。

 とすると────。


「……まさか、〝幽霊〟か? と、もかく、あん、にゃろッ!! 逃さねえ!! ティアは二人の護衛に回れ!! オレとバルトであのよく分からんヤツを取っ捕まえる!!」

「いえ!! 私も追います!! 返せ私のブレスレット!!」


 万が一の為のブレスレットとはいえ、ナガレから渡されたものを盗られておきながら、みすみす逃してやる訳にはいかない。

 普段の私なら体力に自信がないので、追い掛けるのを半ば諦めていただろうけど、ユーミスさんから受け取ったローブのお陰で今は身体がとても軽かった。


 抱えていたリュックを背負う形に変えて、言葉を口にするや否や、駆け出していたソーマさんとバルトさんに私が追従。

 それを見たナガレとティアさんも、後を追うべく走り出す。


「なんでこんな下層に〝幽霊〟がいやがるんだ……!!」

「やっぱり、あれが〝幽霊〟なんですか!?」

「聞いてた特徴やら、こそ泥みてえな真似をしてくるって情報とも合致してるし、その可能性は高え……って、うぉおっ!? 見かけによらず、サーシャちゃん足がはええな!?」


 並行するように走って追い掛ける私を見て、ソーマさんは目を剥く。

 追い掛けると叫んだものの、本当に一緒になって追いかけて来るとは思っていなかったのだろう。

 何より、ソーマさん達の移動速度は、普段の私が追い付けるようなレベルにはなかった。


「……ですが、距離は開く一方、ですね……ッ」

「あいつ、オレらの荷物をパクってる癖に、速すぎんだよ……!!」


 走る。走る。駆け走る。

 けれど、差は埋まらない。

 どころか、刻々と確実に開いている。

 

 このまま追い掛けていれば間違いなく、逃げ切られてしまうだろう。

 だから、私はポケットに収めていた球状の例のブツを取り出して不敵に笑ってやった。


 今回、ヴェザリアに向かうにあたって持参した秘密兵器。

 名付けて、ウェルさんボール改。


「……なんだそりゃ。てか、なんか猛烈に嫌な予感がするんだが」


 本当はソーマさんにちゃんと説明をしてから使いたい気持ちが山々だった。

 でも、丁寧に説明をしていたらそれこそ完全に逃げられてしまう。





『────何を作ってるんですか? ウェルさん』


 それは、錬金寮でいつもと変わらない日々を送っていたある日のこと。

 朝から珍しくウェルさんが工房で作業をしていたので顔を覗いてみると、何かを作っているようだった。

 私に分かったのは、それが錬金術とあんまり関係のない物である事くらい。


『お。サーシャさんじゃないっすか。これはっすね、対魔物用のおれ特製、ウェルボールっすよ』


 相変わらずのネーミングセンスで告げられたソレは、一見するとただのボールでしかなかった。


『おれらってほら、魔法師連中とあんまり仲がよくないでしょう?』


 魔法師長であるガロンさんを始めとして、カトリナちゃんや、魔法師の人達とも私は関わっていたので忘れていたが、アストレアの魔法師と錬金術師の仲はお世辞にも良いとは言えない。


 でなければ、当たり前のように『錬金術師バンザイ! 魔法師くたばれ!』が座右の銘などとは口が裂けても言わなかった事だろう。


『ただ、おれらは錬金術師ですから、錬金術を活かすには素材が必要不可欠っす。時には、危険な場所に赴いてでも採取が必要な時もあるんすよ』


 深刻そうな面持ちで語られる。

 だけどそれは、ガロンさんを始めとした魔法師の方々にお願いすれば、即刻解決する悩みではなかろうか。


『そこで!! 開発したのがこのウェルボールっす。錬金術師の間でも大大ブームを巻き起こしたこの逸品。しかし、それも最早、過去の栄光になりつつあるんす』

『は、はあ』

『そんな訳で、改良を施そうと四苦八苦してんすけど、中々上手くいかなくて。なので、周囲の意見を聞く為にも今日は工房(ここ)で作業をしてるんすよ』


 やっぱり、素直に魔法師の方々に頼った方が全て解決で良くない?

 とか思っちゃったけど、その部分を無視すればそれなりに真面と思える内容だった。


『そうだ。サーシャさんはどう思うっすか?』

『わ、私ですか』

『ちなみにこれ、素材集めの為に開発した秘密兵器なだけあって、魔物を蹴散らす事には特化してないんすけど……素材回収や、魔物から逃げ切るにはもってこいのブツなんすよ』


 程なくやって来たアリスさんと合流し、三人で試行錯誤して改良されたのがコレ、ウェルさんボール改だった。


 一週間ほどこの製作に時間を費やし、ウェルさんが錬金術師長であるダウィドさんに、大目玉食らっていたのはまだ記憶に新しい。




「嫌な予感はきっと気の所為です! 時間もないのでいきます。おりゃあ!」


 隣で止めようとしていたソーマさんの言葉を押しのけ、私は手にしていた秘密兵器をぶん投げる。

 それは狙い過たず、黒のシルエットへ肉薄。

 しかし、直前で身を捩られた事でウェルさんボール改は紙一重ですぐ側を素通りした。


「……狙いは悪くなかったが」


 ソーマさんが落胆の声をもらす。

 だけど、


「いいえ。狙い通りです」

「んぁ?」


 そもそも、あんな小さい的に当たるとは思ってない上、ウェルさんボール改の本領はここから。


「かかった」


 着弾と同時に、そこを中心として広がる鳶色の魔法陣。

 それは黒のシルエットの真下にまで広がり、転瞬、〝幽霊〟らしきソレの速度が落ちる。


 逃げる為にかつ、素材を確実に得る為のウェルさんボール改。

 衝撃を与えると同時に、相手の動きを遅くする魔法と錬金術で作り出した鱗粉のようなものがばら撒かれる仕組みになったボールだ。


 魔法陣と、鱗粉の二段構えで確実に相手の動きを制限する改良版。

 何より、鱗粉は出来る限り知覚が難しいように透明化させているので初見だとどう足掻いても防ぎようがない。


 難しかない性格ながら、ウェルさんがアストレアの錬金術師として迎えられた理由がここにあった。

 とどのつまり、ウェルさんは天才だった。


「────!」


 言葉にならない声が聞こえた。

 あれは、驚きだろうか。


 ともあれ、黒のシルエットはウェルさんボール改をモロに食らった事で逃げ切る事は不可能と悟ってか。

 動きを止めた。


 でも次の瞬間、ぶわりと影の出来ている場所から黒い靄のようなものが突如として噴き上がる。


『……あれって、もしかして』


 リュックから顔をちょこんと出していたルゥが何かを言っていたが、今私が優先すべき事はあの〝幽霊〟らしきものを捕まえる事。


 だけど、〝幽霊〟は上位の冒険者もあしらうような存在。

 急いては事を仕損じる上、逆に私達が連れ去られる可能性だって十分あった。

 でも、その懸念は杞憂だったようで


「……逃げたか」


 後ろから追いかけて来てくれていたナガレが、ぽつりと一言。


 まるでキツネにつままれたかのように、私達から奪った筈の荷物を残して、先程の〝幽霊〟らしきものは姿を消していた。

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