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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章

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四十五話 魔剣士

 * * * *


 薄暗い洞窟めいた場所で、風が吹く。

 若干の腐敗臭が乗った風に、顔が歪んだ。


 水が流れる音。

 彼方此方に存在する、光を発する鉱石のお陰で視界は良好。

 ただその代わり、転がる魔物の残骸がばっちり目に映るという欠点があったが、一応、迷宮塔がそういう場所であると覚悟を決めてやって来たのでこの程度ならば許容範囲内。

 そしてここ─────迷宮塔八階層は、一言で言い表すならば、古びた地下水路のような場所であった。



「すげえもんだよな。〝ゲート〟を潜れば、その先には迷宮塔に繋がってる。昔の魔法技師が、あの〝ゲート〟に細工をしたお陰で、事前にギルドに伝えておけば、指定の階層にまで一瞬で飛ばしてくれる。まぁもっとも、五十より上の階層になると色々と難しいらしいが」


 バルトさんから〝ゲート〟の説明を受けた後、私達は早速と言わんばかりに迷宮塔へと足を踏み入れていた。

 一瞬で移り変わる景色。

 まるで転移魔法を使った後のような感覚に見舞われながらも、〝ネードペント〟の一件で既に体験していたのでそこまで影響はなかった。


「予想はしていたが、これは何というか、ダンジョンだな」

「……そうなの?」


 そう言えば、ナガレは元々、錬金術師というより魔法師としての才を認められていた人だった。

 もしかすると、魔法師として足を踏み入れた事があるのやもしれない。


「昔、ガロンが同行する事を条件に何度かついて行った事がある」


 やっぱり、そういう事か。


「へえ。ナガレはダンジョンに行った事があんのか。いや、でも言われてもみれば錬金術師って感じがしねえな」


 私とナガレを比較して、ソーマさんは言う。

 迷宮塔に足を踏み入れてからというもの。

 周囲を頻りに警戒する私と異なってナガレは泰然としていた。

 でもそれは、ソーマさん達を信用しているからというより、自分の力量を信用しているからというか。


 所作の一つ一つに、慣れのようなものが滲み出ていた。


「とはいえ、気にする必要はねえよ。錬金術師の殆どはおめえさんと似たり寄ったりな反応だ。そっちのナガレが何とも無さ過ぎんだ」


 全員が全員、ナガレのような態度なら、ポーションがここまで高騰する訳もねえしな。

 と言葉が締め括られ、確かになと納得させられた。


 とはいえ、ここはダンジョンと類似した場所である迷宮塔の中。

 魔物の巣窟である事は最早疑いようもなく、まだ魔物に対する苦手意識が払拭出来ていない私にとって地獄のような場所。


 だけど、錬金術師としてこれからも活動する為にも、ここいらで苦手意識を払拭しなければならない。

 なにせ、錬金術の素材には魔物の死骸から採取出来るものも多数ある。

 嫌だからとウェルさんに押し付けたり、アリスさんに任せきりにしておくのは申し訳ないと思っていた。


(────……なんて、意気込んではみたけど)


 耳や、鼻。

 己の五感が異常なくらい敏感になっている気がする。

 その理由は明白だ。


 私が大の魔物嫌いだから。

 そこまで苦手意識がない人間なら気付かないような事も、事細かに気付いてしまう。


 あぁ、どうしよう。

 自分から言い出した事なのに、猛烈に帰りたい衝動に襲われていた。


「……大丈夫か。やっぱり、」

「だだだだだた、大丈夫。余裕だから。私は全然気にしてないから」


 気遣ってくれるナガレの優しさに甘えていては、いつまで経っても魔物嫌いが直らない。

 好きになる必要はないけど、せめて錬金術師として活動する際に不自由に見舞われない程度には慣れておきたい。


「ま、安心してくれや。その為にもオレらがいるんだからよ」

「ソ、ソーマさん……!」


 そんな私達のやり取りを聞いていたソーマさんが、気にするなと言うように言葉を投げ掛けてくれる。


 そうだ。今はナガレだけじゃなくて、ソーマさん達もいる。

 出来る限り口呼吸で嗅覚を使わないようにして、視界は出来るだけソーマさん達の背中を見ておこう。

 そうすれば、大丈夫、な筈。


 そんな時だった。

 私の耳に、啜るような独特な呼吸音が届く。

 人間のソレではない呼吸音を前に、ツゥ、と私の背中に冷たいものが流れる。


 加速する思考。

 魔物に対する苦手意識が人一倍あること。

 かつて図書館で日々の大半を過ごしていたが故に、膨大な知識を得る機会があった私は、錬金術の素材の為に魔物の知識もそれなりに持っていた。


「……あ、あの、ソーマさん」

「あん?」


 さくっと薬草を取って帰るか!

 そう言って歩き始めるソーマさんに、私は声を掛ける。

 肩越しに振り返った彼は不思議そうにしていた。


 この独特な呼吸音。

 耳を澄ませば聞こえてくる感覚の短い地面を擦るような足音。

 しかも、それが複数。

 私の頭の中ではほぼほぼ、この八階層にいるであろう魔物は絞られていた。


「こ、この八階層にいる魔物ってもしかして」


 予想が正しければ、私が特に大嫌いな魔物の可能性が高い。

 だから、違っていて欲しかった。

 ソーマさんの口から、私の脳裏に浮かんでいる魔物の名前以外の言葉が発せられるのを今か今かと待つ私の前に────それは現れた。


 その魔物の名を、


「……早速出て来やがったな、ブラッドラット」


 鋭利な前歯で、獲物を食い血を啜る魔物。

 名を、ブラッドラット。

 赤目の悪魔と私が勝手に呼んでいる魔物の集団がそこにはいた。


「って、おいおいオイ。なんだぁ、この数は」


 そして何より、その量が異常に過ぎた。

 目算にして、百以上はいるだろう。

 一つの個体は小さいにせよ、純粋な数は驚異でしかない。

 白目を剥いて倒れないだけ、頑張っている気がする。


「これも、〝幽霊騒動〟の影響かあ? まぁいい。やるぞ、バルト。ティアはそっちの二人の護衛に回れ」

「分かりました」

「了解」


 ティアさんは、指示通り私達を庇うように一歩下がる。


「結界張るから、ここから動かないでね」


 次いで、地面に右手の五指を触れさせ、一言。


「〝サンクチュアリ〟」


 光の柱が私達を囲うように数本、地面から打ち上がるように出現。

 程なくそれは霧散し、粒子となったソレは文字通り結界を構築してゆく。


「んじゃ、まあ派手に暴れるとすっかねえ!?」


 多対一のような場合、重宝するのは魔法師のような一撃で複数の敵を倒せる手段を持つ存在。

 でも、『エペランザ』唯一の魔法師と言っていたティアさんが援護に回る様子はなく。

 守って貰ってる立場で言うべき事ではないが、援護に回って貰って構わないと言おうか悩んでいると。


「二人は、魔剣士って知ってる?」


 ティアさんからそんな言葉がやってきた。


 魔剣士。

 馴染みのない言葉だった。

 でも、言葉の感じから何となくは分かる。


 恐らく、言葉の通り魔法を扱う剣士の事なのだろう。


「魔剣士……剣でも戦える魔法師って事だろうか」

「間違いではないけど、それは半分正解で半分不正解」


 私と同じ事を思っていたナガレの言葉が、否定されていた。


「魔法剣士ってのはね、魔力を使う剣士の事」


 魔力とは、魔法を用いる際に必要不可欠となってくるもの。

 魔法陣ひとつ浮かばせる事にも魔力は消費され、行使する際にも消費される。

 だから、魔法師としての格は魔力の保有量で左右されると言っても過言ではない。


 ただ、魔力とは魔法を扱う際に使用するものという固定観念を持っている私としては、魔力を使う剣士は、やっぱり剣でも戦える魔法師なのではと思ってしまう。

 だけど、その考えは一瞬後に消え失せた。


「────〝魔力鎧(マナブースト)〟────」


 ソーマさんが言葉を溢す。

 見た事もない魔法だった。

 ……いや、あれは魔法というより、


「魔力を、纏わせてるのか」


 魔法としてではなく、直接己の身体。

 それと、得物である剣に纏わせているように見える。


「そ。それが出来る人間は、迷宮塔都市(ここ)では魔剣士って呼ばれてる。そうする事で、身体能力が飛躍的に向上する上、剣に纏わせれば、あの通り」

「〝マナブラスト〟ッ!!」


 ソーマさんが横薙ぎに振るった途端、三日月型の斬撃が青白の光に覆われた剣から撃ち放たれる。

 それが、眼前に溢れるほどいたブラッドラットを食い散らかしてゆく。

 それはまるで、魔法だった。

 でも、陣すら必要としないそれは魔法のようであって魔法ではない。


 魔法を使う人間だからこそ、先のティアさんの半分正解で半分不正解の意味が漸く分かった。


「それじゃあもしかして、バルトさんも」

「ううん。バルトは違う」


 ソーマさんは派手に戦っているが、バルトさんは撃ち漏らしを的確に処理をして、こっちにブラッドラットが来ないようにしてくれていた。


 飛び道具のようなものを使うだけで、腰に差した剣は未だ抜いていない。


「……バルトさんは剣を抜かないんですね」

「抜く必要が出たら抜くと思うよ。ただ、抜かないのは舐めてるからじゃなくて、うちと同じ理由だよ」

「ティアさんと同じ理由、というと」


 ダンジョンに入る前、ティアさんが魔法師ながら弓を背負っている理由を語ってくれた事を思い出す。


 要するに────節約。

 だけど、剣に節約と言われてもイマイチ、ピンとこない。


「バルトの腰のあれは、魔剣だから」


 説明をしてくれたティアさんには申し訳ないけど、剣について一切の知識を持ち合わせていない私は、そう言われても疑問符しか浮かばなかった。


「……成る程。そういう事か」

「え。なに、どういう事……?」

「魔剣と呼ばれる剣は、例外なく何かしらの能力を有している為に魔剣と呼ばれてるんだ。ただ、その代わりに代償を必要とする。だから、必要にならない限り使わないって事だろうな」


 なんとなくではあるけど、ナガレのその説明のお陰で理解した。

 要するに、ソーマさん一人で何とかなりそうなら、その魔剣は使わずサポートに徹するという事なのだろう。


「そういう事。だから、うちの出番はないし、こうして護衛に徹していて問題はないって訳。にしても、二人ともやけに知識があるね? 特にナガレ君はどこなく、こう、気品みたいなのもあるような……」


 初めて会った時から思ってたけど、なんか、昔あった貴族の人と雰囲気が似てる気がするんだよなあ。と、その可能性がないと分かっているからこそなんだろうけど、呟きを漏らしていた。


 別に、悪い事をしている訳ではないけど、出来る事ならば素性を知られない方がいい。

 その自覚があるからか、ナガレもその呟きには視線を逸らしていた。


「そ、それより、ブラッドラットってあそこまで集団で行動する魔物じゃなかった記憶があるんですけど、迷宮塔だと魔物の習性も違ったりするんですか?」

「ううん。そんな事はない。だけど、ちょっとした異常事態は迷宮塔ではよくある事ではある。とは言っても、このタイミングを考えるに、〝幽霊騒動〟が原因、なのかも」


 歯切れの悪い返事だった。


 ソーマさん達の戦いぶりを見る限り、本当に八階層では敵なしなのだろう。

 事実、多少の異常事態があっても、容易に対処が出来ている。


「だから早いところ、上位ランクの人達には問題を解決して欲しいんだけど、本当に何をしてるのやら」


 ポーションを優先的に融通されているなど、相応の待遇を受けているらしいし、ティアさんのその愚痴はもっともなものだった。


 ただ、酒場で話した限りテッドさんは兎も角、リーダーさんは一生懸命、事の対処にあたっていた。

 だから彼らも頑張っていると庇おうと思った最中、一際大きな欠伸の音が響いた。

 間違いない。ルゥの欠伸だった。

 そして、ティアさんの視線が私のリュックに向く。やばい。


「ねえ、サーシャちゃん」

「……なんでしょうか」

「ちなみになんだけど、そのリュックの中身って何が入ってるの?」


 ルゥがやっと起きたのか、リュックの中でもぞもぞ動き始める。

 それに合わせて誤魔化すべく、私も不自然にならないギリギリのラインで身体を動かすけれど、向けられる懐疑の視線はリュックをロックオンしていた。


「……ひ、秘密兵器です」


 嘘は言ってない。

 本当に、ルゥはある意味秘密兵器でもあるから。とはいえ、寝起きのルゥがリュックから出て来る可能性は比較的高い。

 だから、ソーマさん達がブラッドラットを大方、倒し尽くした事を確認してから私は結界から出る。


「さ、さーてと! ブラッドラットも倒せたみたいですし、早いところ薬草採取に向かいましょう!」


 背負っていたリュックを一周。

 抱き締めるような持ち方に変え、隙間から「リュックの中に隠れてて!」と、ルゥに小声で訴え掛けながら私は歩き始める。


 何よりも優先すべきは、ルゥの存在を隠すこと。そう思っていた私は、足下に注意を払っておらず、何やら石のような物に躓き、たたらを踏んでしまう。


 ブラッドラットの死骸は、ソーマさんがその大半を木っ端微塵にしていたからと油断していたのが仇になった。


「……いたた。こんな場所に何が」


 ────あったんだろう。


 そう思って私は振り返り、躓いた原因となった石に視線を向ける。

 そこには、見覚えのある鉱石があった。


 最近になってよく目にする鉱石。


「……〝魔晶石〟?」


 本来ならば、ダンジョンの深部にあるもの。

 そう教えて貰った〝魔晶石〟が、そこにはあった。

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