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四話 魔法都市アストレア

 世界有数の大国として知られる地、アストレア王国。

 別名、『魔法都市アストレア』とも呼ばれるこの国は、多くの人が行き交う商業の地でもあった。


「……すっ、ごい」


 馬車を使うこと、数日。

 お尻が痛かった事もあり、着いたと知るや否や、外の空気を吸い込もうと立ち上がり、馬車を降りた先に広がっていた景色に私は一人、圧倒されていた。

 見た事もない建築物。

 魔法都市という別名に恥じぬ摩訶不思議な物体をぶら下げる魔法師らしき人。

 目に映る光景、その全てが新鮮で、つい、上京したばかりの田舎者のような反応をしてしまう。


 キョロキョロと物珍しさから、私は目を輝かせて周囲に視線を向けていたのだけれど、


「ナガレ殿下と、サーシャさんでお間違いありませんでしょうか」


 苦笑いを浮かべながら、遅れて馬車から降りてくるナガレと、私に対して声がかかる。


 肩越しに、声のした方へと振り向くと騎士甲冑に身を包んだ男性がいた。

 巌を思わせる2mはあろうかという大柄な人だった。燃えるような炎髪と、猛禽類を思わせる鋭い目付き。

 敵意はないと分かっているのに、その強面に一瞬ばかり物怖じしてしまう。


「……ぇと」


 呼ばれた名前はあっている。

 だから、ひとまず返事をしないと。

 そう思って、視界に映る彼に言葉を返そうと試みた瞬間、


「————ガルシア」


 呆れ混じりの声が、ナガレの口から飛び出した。


「よりにもよって、なんでお前が迎えに来たんだ。お前の強面は、騎士としては申し分ないが、客人をもてなすには不向きに過ぎると言われていただろう」

「……まぁそこは、少し、色々とありまして」


 ぽりぽりと頭を掻きながらガルシアと呼ばれた騎士の男は苦笑いをする。

 その指摘はやめて下さいと言わんばかりの笑みに、私の警戒心はすぅっと薄れてゆく。


 強面の外見から一瞬、勘違いをしたけれど、ガルシアさんはずっと優しそうな騎士の方だった。


「そこの理由も含めて、まずは歩きながら話しましょうか。陛下も、城で首を長くして殿下の帰りをお待ちですから」


 物珍しさから、彼方此方に立ち並ぶ店など、少し覗けたらいいなと思っていたけれど、それはもう少し後までお預けかなと思いつつ、私はガルシアさんの言葉に頷くことにした。



* * * *


「正直に話しますとですね。殿下の事を迎えに行くとなった際、王妃様の病を治すほどのポーションを作った錬金術師もいると聞き付けた連中が、一目会いたいからと、この護衛役を務めるのだと殺到しまして。公平を期す為におれが選ばれたというワケです」

「…………」


 ガルシアさんのその一言に、思わず目を逸らしたくなった私は悪くない。


 そんなに大層な人間じゃないのに、期待値を勝手にあげて、失望する事になっても私は知らないぞ。


 なんて念を送った私の想いが、届きでもしたのか。ガルシアさんはニッコリと微笑んでくれる。


「何というか。サーシャさんはおれの知ってる錬金術師と随分と毛色が違いますねえ」


 でも、やって来た言葉は私が期待していたようなものではなかった。


「……毛色、ですか」

「おれの思う錬金術師ってのはもっとこう、顕示欲の塊といいますか。己の功績をこれでもかと言わんばかりに誇る連中、って認識だったんですが、どうにも貴女は違うようだ」


 どちらかと言うと、その真逆。

 自分の功績を凄いと称えられる事を嫌がっているようにも見える。


 ガルシアさんからのその指摘に、うぐっ、と言葉を詰まらせる。

 図星だった。


 私にとっての錬金術師とは、レイベッカ伯爵家であり、錬金術師として国に仕える父であった。

 しかし、私はたった一度として父に己の錬金術を認められた事はなかった。


 錬金術師の一族であるレイベッカにおいて、認められなかった人間。それが私。

 だからこそ、己の錬金術が素直に凄いと思えなかった。

 他に何らかの要素があれば、真っ先に、「それ」があったからと理由を付けてしまうくらいには、自信というものに縁がなかった。


「ただ、王宮ではもう少し胸を張っていた方がいいかもしれませんね」


 その一言に疑問符を浮かべる私を見かねてか。


「多くの錬金術師が頭を悩ませながらも、匙を投げるしか出来なかった事を成した錬金術師がそんな態度だと、他の錬金術師の立場がありませんから」


 それでも、偶々であると答えようかと思ったけど、これ以上は水掛け論になると判断して、私は閉口。


「では、この一件だけは、そうさせていただく事にします」


 やや黙考したのち、私がそう言うと満足したのか。ガルシアさんは満足そうな笑みを浮かべた。


「ところで、殿下。サーシャさんのこれからの待遇についてなのですが、」

「あぁ、それなんだがな、ガルシア。サーシャをしばらく、王宮勤めの錬金術師として籍を置いて貰おうと考えてるんだが、問題はないよな」


 客人としてどうもてなすか。

 そう思ってのガルシアさんの一言だったのだろうが、割り込むように口にされたナガレの言葉によって表情に険が入り交じる。


「……こちらとしては、優秀な錬金術師。特に、まだ全快でない王妃様の為にもサーシャさんには王宮にいて貰った方が助かるのですが……いいんですか?」


 ここでの良いんですか、は恐らく私に対してのものだろう。

 一応これでも、アストレアからすれば他国の人間。錬金術師として既に居場所があったのではないのか。


 言葉こそなかったけれど、向けられる視線からそう言った感情が読み取れた。


「ちょっと、その、色々とありまして。ちょうどこれからどうするかなって時にナガレから手を差し伸べて貰ったので、寧ろ私の方が良いんですか? って感じが否めないくらいです」


 だから、そこのところは気にしなくて良いですと口にすると、やや驚かれはしたけれど、そうですか。と何事も無かったかのように了承をしてくれる。


 それからというもの。

 ガルシアさんが、ナガレに「……無理矢理引き抜いたりとかしてませんよね?」などと私の前で恐る恐る尋ねていたり。


 めちゃくちゃ失礼だなお前。

 などと、旧知の間柄を思わせる彼らのやり取りを側で聞きながら歩いていたからか。

 それなりに歩いた筈なのに、アストレア王国の中心に位置する王城にすぐ辿り着いてしまった。そんな錯覚を抱いてしまう。


 そして、王城が目と鼻の先程度の距離になったところで、ガルシアさんは足早に先へと進み、王城を背景として私と向かい合う。


 次いで、一言。


「では、改めまして。アストレア王国にようこそおいで下さいました。錬金術師サーシャ殿。我々は貴女を、歓迎致します」

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