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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
二章

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三十八話 変人魔法師

 さらりと言い放たれた一言を前に、私と、私の頭の上で眠りこけるルゥを除いた全員が目をぱちくりとさせる。


 別に、妹さんがいようがいまいが、そこまで驚くほどの事でもないような。

 そう思っていたのは、どうにも私だけだったようで。


「ダウィドとは、もうかれこれ十年以上顔を合わせてるが妹がいるなんて話は、初めて聞いたな」


 ナガレのその言葉に、ウェルさんと器具の整理をしていたアリスさんがコクコクと首肯をしていた。


 ……確かに十年くらい一緒にいた上で知らなかったのなら、そのくらい驚いても仕方がないのかもしれない。


「話す機会がありませんでしたからね。というか、話したくありませんでしたからね」


 ……そうなんだろうなあ、というのは薄々だけど分かっていたので私は苦笑いを浮かべる。

 そうでもなければ、自分の妹の事を「変人」呼ばわりするわけもないだろうし。


「ですが、国の大事に関わるかもしれない以上、そうも言ってられないでしょう」


 どうやら、ダウィドさんの中ではそれほど今回の〝魔晶石〟の一件を重く見ているらしい。


「これが偶然の産物であれ、何らかの原因あっての産物であれ、原因究明は急務ですから」


 さすがは錬金術師長。

 お抱え錬金術師として百点満点の回答だった。


 私も、ちゃんとダウィドさんを見習って立派な錬金術師になろう。

 ウェルさんじゃなくて、ダウィドさんみたいな錬金術師を目指そう。


 うんうん、と胸中で自分に言い聞かせる。


「……あの、サーシャさん? 今めちゃくちゃ失礼な事考えてなかったっすか?」

「き、気の所為だと思います」


 隣で何かを悟ってか。

 ウェルさんにそんな事を尋ねられる。

 一瞬、その狙い澄ましたかのようなタイミングの問い掛けに、冷や汗のようなものが私の背中を伝った気がしたけど、どうにも上手く誤魔化せたらしく、「ならいいんすけど」とウェルさんは納得をしてくれた。


「でも、〝魔晶石〟の研究をしてたのなら、まずダウィドさんの妹さんの下に尋ねてみるのもありかもしれませんね」


 解決にまでたどり着けなくとも、私達には無い視点からの意見があれば、どうにかなるやもしれない。


「幸い、〝ミナト病〟の一件は随分と落ち着きましたし、多分私とナガレが抜けても問題は特にないと思うので」


 アストレアを襲った病────〝ミナト病〟。

 原因であった食魔植物、〝ネードペント〟を討伐してから早、一か月。

 すっかり事態は収束しており、軽症者の方は皆完治。

 重症だった方々も、殆どが快方に向かって後は経過観察状態になっていた。


「そうですね。お陰様で〝ミナト病〟の方は落ち着いていますし、羽を伸ばすという意味でも働き詰めだったサーシャさんと殿下にはヴェザリアに向かって貰うのもありやもしれませんね」

「ええ、ええ。おれもそう思うっす。それとあと一人、陰の功労者が一人、いると思うんすよ。その功労者にも、何かご褒美的な休暇を与えておくべきだとおれは思うんすけどねえ」


 ここぞとばかりに馬車馬のごとくこき使われていたウェルさんが、名前を呼んで欲しそうに発言をしていたけど、悲しきかな。

 その想いは全く届いていなかった。


 アリスさん曰く、こういう時の為に普段からたっぷり休ませているとのこと。

 ウェルさんの引きこもりっぷりについては、私もよく知るところになってしまったので、こればかりは擁護のしようがなかった。


「先払いで休暇を消費してるウェルの事はさておき、向かうにあたって二点ほど、問題がありまして」

「問題、ですか……」

「ええ。まず、ヴェザリアまでの距離が遠い為、地理に明るく、その上、転移の魔法を扱える魔法師に協力を仰ぐ必要がある事。二点目に、私の妹が〝ど〟がつく変人という事ですね」


 一点目の問題については、その通りでしかなかったので、当たり前のように頷く事が出来た。ただ、二点目の問題は一体どういう事なのだろうか。


「根っからの研究者気質といいますか。……まぁ、そこは会ってみれば分かるかと思います」



* * * *



「────でも、本当に良かったの?」

「良かったって、何が?」

「そりゃあ、ナガレに一人も護衛をつけなくてもって事」


 水の国ヴェザリア。

 又の名を、迷宮塔都市ヴェザリア。


 国の中心部に位置する一条に伸びる塔は、天に向かって真っ直ぐと聳え立っており、途中から雲に隠れてしまってその頂上の目視は叶わない。

 加えて、迷宮塔と呼ばれるソレは、不可視の魔力によって守られているらしく、外からも中からも迷宮塔を壊す事は叶わない不壊である事は他国にいる人間でさえも周知の事実だった。


「だからこうして目立たない格好で行動してるだろ? それに、もしもの事が仮にあったとしても、転移の魔法で逃げてしまえばいい」


 もっとも、それをする前に魔法でどうにかするが。


 そう言葉を締め括るナガレと私の服装は、普段とは異なっており、出来る限りラフな私服を選んで着ていた。

 言い出しっぺのダウィドさんは、最後まで私とナガレの二人だけで向かう事には難色を示していたけれど、ナガレの魔法師としての腕。

 加えて、私の頭の上に今も尚乗っている白いもこもここと、ルゥの存在もあってギリギリ許可が下りていた。


「いいなあ、転移の魔法。物凄く便利だし、私もカトリナちゃんやナガレみたいに転移の魔法を覚えたいんだけどなあ」


 一応、魔法師長であるガロンさんに教えを一度乞うてはいたのだけど、結果は散々。

 根気強く頑張ればどうにかなりそうなくらいには芽があるとは言われたけど、まだまだ先は長そうだった。


「というか、貰った地図ならそろそろユーミスさん? の家が見えてくる筈なんだけど、それっぽい建物って無いよね」


 ヴェザリアに転移をしてから早、二時間ほど。

 地図を頼りにひたすら歩いて郊外までやって来たけれど、それらしき建物は見当たらない。

 ぽつん、と古びた小屋のようなものは見えるけど、流石にアレではないだろうし。


「『いや、たぶんアレじゃないかな? 見る限り、控えめに言って無茶苦茶な仕掛けがあの古びた小屋に魔法で施されてるし』」


 人が住んでる気配もなく、ただそこにある。

 そんな小屋だったので選択肢からそもそも省いていたんだけれど、どうにもルゥにはそうは見えなかったらしい。


「……ダウィドさん自身も変人って言ってたし、言われてもみれば普通はあり得ない選択肢もあり得ちゃうのかこれ」


 念を押して、変人、変人と連呼していたダウィドさんの言葉を思い返す。

 身内だからこその卑下とは思っていたけれど、本当に変人という可能性も考えておかなければならないかもしれない。


「取り敢えず、中に人がいるかだけ確認するか。いなかったら人伝にヴェザリアで探せばいいだろ」

「それもそっか」


 特別、滞在の期限を設けられていた訳じゃないけど、一応ナガレは王子殿下という立場。

 加えて、私も国お抱えの錬金術師だ。


 いくら羽を伸ばしておいでと言われたとしても、いつまでもヴェザリアにいる訳にはいかない。だから、出来る限り迅速に物事を解決する必要があった。


 そんなこんなで、私達は小屋へと向かい、そして中に人がいるかどうかノックをして確かめる。


「ごめんくださーい!」


 反応を待ってみるけど、シン、と静まり返った沈黙が場に降りるだけで、ちっとも返事が来る気配はない。


「ユーミスさんいらっしゃいませんかー?」


 二度、三度と声掛けをし、ノックを繰り返すもやはり返事はこない。

 だから、諦めて今日は引き返そうかと思ったその時。


「あー……もー、こんな時間に誰だい。誰かが訪ねてくるなんて予定、私は一つも聞いてなかったんだけど」


 引き開けられたドアから、如何にも不摂生そうな、目の下に深い隈を拵えた白衣の女性が不機嫌だと言わんばかりの口調で姿を現した。


 ただ、ダウィドさんと同じ色素の薄い白髪だった事もあってか。

 彼女の容姿には何処かダウィドさんの面影が見え隠れしていた。


「え、と、〝魔晶石〟についてちょっとお話をお伺いしたくて……あ、ダウィドさんからの手紙もちゃんと預かってます!」

「ダウィド~~? ……あぁ、あの愚兄ねえ」


 ユーミスさんには、ちゃんと事情を書いた手紙を用意しておいたから。

 と、ヴェザリアに向かう直前にダウィドさんから手渡されていた手紙を懐から取り出し、差し出す。


 しかし、その手紙を受け取ったユーミスさんは、中身に数秒ほど目を通した後、ぽい、と部屋の中に乱雑に放ってしまった。


「確かに、〝魔晶石〟の研究なら、一時期私はやってたねえ。解決策を知ってる訳ではないけど、力にはなれるかもしれない」

「なら!」

「ただ、愚兄の頼みといえど、ただでお願いを聞いてあげる訳にはいかない」

「……協力する場合、見返りが欲しいって事か」

「ええ。そういう事」


 ナガレの言葉に肯定するユーミスさんの瞳が、妖しげに光る。

 ゆるくつり上げられる口角は、喜色に満ち満ちていて、どんな無理難題を言われるのだろうかと思わず身構えてしまう程。


「そうだねえ、それじゃあ二人には迷宮塔の────」


 しかし、見返りの条件を私達に突き付けようとしたユーミスさんの言葉が不意に止まる。


 その視線は、どうしてか。

 私の頭の上に向いていた。


 ちょうど、再び丸まって寝に入っていたルゥに目を奪われているようにも見えて。


「そ、それは……そのフォルムは……」


 気怠そうに終始細めていた目を驚愕に大きく見開き、途切れ途切れにユーミスさんが呟く。


「ベビードラゴン……!! しかも、間違いなくシルバードラゴンの系譜……!!」

「『ぅん?』」


 自分が話題に上がっていると察してか。

 ルゥが反応していたが、まるで砂漠の中でオアシスを見つけた人間の如く、手を伸ばし始めていたユーミスさんにガシリ、と捕まってしまう。


「『んんっ!? え、ちょ、なに!?』」

「……あぁ!! 初めて見た!! すごい! 素晴らしい!! ああ! 夢にまでみた本物!! 本物のベビードラゴン!!」

「『ぐ、ぐるじぃ……!!』」

「君達に協力する条件は、このベビードラゴンを一日もふもふさせてくれる事だ。どうかな」


 ……直前に言い掛けていた条件と、全く違う気がするんですが。

 そう指摘をしたかったけど、下手に無理難題を突き付けられるよりはマシだったので、その指摘をどうにか飲み込む。


 ただ、どこか恍惚とした表情でどうにか逃げようとするルゥを抱きしめる姿はダウィドさんが言っていたように、変人にしか見えなくて。


 ……あぁ、これ本当に変人だ。


 一転して上機嫌になったユーミスさんを前に、私とナガレの心境はものの見事に一致していた。

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