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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章

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三十四話 ローグ王子

* * * *


「————しかし、ナガレ殿がこうしてやって来て下さって、本当に助かりましたとも!!」


 それから五日後。

 諸々の準備を終えた後、フィレールへと再びやって来て治療薬を届けた私とナガレは、ぺこぺこと頭を下げて、感謝の言葉を口にする小太りの男性————宰相さんにめちゃくちゃ感謝されていた。


 一応、家を追い出される前までは貴族家で過ごしていた事もあり、何度か家を訪ねて来ていた人であればある程度名前と顔は一致する。

 ただ、私自身が歓迎されない存在だった事が幸いし、向こうは私の顔を知らなかった。


「それで、そちらのお嬢さんが……例の?」


 窺うように口にされるその言葉と共に、錬金術師の正装を身に纏った私に、宰相さんの視線が向けられた。

 

「ああ。母上の病を見事治してみせたうちの凄腕の錬金術師だ。今回の件も、こいつが了承しなければ、こうしてやって来る事もなかっただろう。だから、感謝の言葉は俺よりこいつに掛けてやってくれ」


 設定としては、私がナガレのお母さんの病を治した錬金術師。

 だから、今回のフィレールの一件もその腕を見込まれてついてきた、というもの。


 偽名の件に関しては、ボロが出ないようにという配慮で、ルゥの呼び方である「サシャ」に。

 でも、出来る限り名前は名乗らないように、という取り決めをしていたからか。


 こいつ、だ。

 あいつ、だと必然的に指示語が多くなっていた。


「おおっ! それはそれは。この度はご助力、誠にありがとうございました。殿下も、レイベッカの出来損ない共と違い、アストレアの錬金術師は羨ましいと絶賛しておられましたぞ」


 追々、感謝の品をアストレアの方に届けさせますので。と、言葉を付け加えられる。

 ただ、その引き合いにレイベッカを出された事により、私の心境は複雑なものとなる。


 でも、それを見透かされるわけにはいかず、どうにか笑顔を顔に貼り付け、無言でどうにか切り抜けようと試みた。


「一応、治療薬を作ったとはいえ、数日程度は激しい運動とかもしないでくれ。それで容態が急変しても、責任はもてないからな」

「それは勿論ですとも。特に、殿下にはこんなところでくたばって貰う訳にはいきませぬので、この宰相、身体を縛り付けてでも、安静にさせておきますとも」

「あ、あはは……」


 身振り手振りで、まるで縄を使って簀巻きを作るような様子を見せる宰相さんを前に、私は苦笑いを浮かべずにはいられなかった。


 今回の騒動にて、レイベッカの人間が投獄までされた理由の一つとして、その被害者にフィレールの王子までもが含まれていた事が一番の要因であった。

 効きが良いからと擦りむいた程度の傷で服用し、そのまま倒れる羽目になっていたのだとか。


「それじゃあ、わたし達はもう帰っていいの? 本国のゴタゴタもまだ終わってないし、そろそろ戻りたいんだけれど」


 そう言って、後ろで私達の会話を黙って聞いていたもう一人の人物————私とナガレと一緒にフィレールまでやって来てくれたカトリナちゃんが面倒臭そうに言葉を口にする。

 本国のゴタゴタとは言わずもがな、〝ミナト病〟の一件であった。


 私がフィレールに向かうと決めた際、護衛も兼ねて、元々はガロンさんも一緒に同行する予定だったのだが、〝ミナト病〟の対処に、〝テレポート〟が多く使える人間が必要だろ。

 というナガレの説得もあり、ガロンさんの同行の話はなくなっていた。


 ただ、その代わり、〝ネードペント〟の一件で仲良くなったであろうカトリナちゃんを連れて行け。とのガロンさんの提案を受け入れ、この三人でフィレールへと訪れていた。


「治療薬の作り方や、ある程度の予備も置いてるのだし、もう良いでしょう?」


 とはいえ、カトリナちゃんはフィレールに来てからというもの。終始、機嫌が悪かった。

 現に、目の前の人物————宰相さんは、侯爵位を賜ったお偉い貴族さんだった筈だけど、そんな事は知らんと言わんばかりに、カトリナちゃんはぶっきらぼうに言い放つ。


 ……というのも。


『話は大方、ガロン魔法師長から聞いたけれど、貴女が向かう必要なくない? 家から追い出された時に手を差し伸べてくれた人がフィレールにいるならまだしも、それ、助ける義理ある?』


 などとアストレアにいた際に人一倍、苛立ちの言葉を口にしていたのがカトリナちゃんだった。

 そして、すぐにどうにか出来る人間は私くらいだろうから。

 なんて理由で向かおうとする私に、呆れてもいた。


 でも、責められはしなかった。

 そういう貴女だから、殿下は錬金術師にと誘ったのだろうと彼女は言って、不承不承ながら納得をしてくれた。


 ……ただ、だからといってカトリナちゃんの機嫌が良くなる事はなかったけども。


「ぁ、えと、はい。治療薬に関しましては、もう何一つとして問題はありませんとも! た、ただ、」


 奥歯に物の挟まったような言い方で、宰相さんは私達から視線を逸らす。

 治療薬については問題ないけど、他に何か問題があるのだろうか。


「殿下が一度、アストレアに帰る前に自分の下にどうしても寄って欲しいと仰られてまして」


 その申し出は、一度丁重にお断りさせていただいたものであった。

 私の目的は、あくまで今回の騒動の解決のみであって、お礼を言われる事ではない。

 何より、何かの拍子で私がレイベッカの人間だった事に気付かれるのは本意ではない。


 だから、可能な限り、フィレールで誰かと接する機会は極力無くそうとナガレとアストレアにいた時に話してある。

 故に、「それでも」と断りを入れようとして。


 唐突に、バンッ、と音を立てて外に続くドアが勢いよく開かれる事となった。

 そして、反射的に肩越しに振り向くと、一目で高貴な身分であると分かる豪奢な服装に身を包んだ藍色髪の青年がそこにはいた。


 病み上がりだというのに、覇気に満ち溢れた表情には一切の翳りは無く。

 口角をつり上げるその青年は、悪戯が成功した子供のように無邪気に笑いながら声を上げた。


「酷いじゃぁないか、ナガレ王子。こっちは助けて貰ったんだ。せめて、礼の一つくらい言わせてくれよ。なぁ?」


 その者の名を、ローグ・フィレール。

 何処となく軽薄そうにも見える笑みを浮かべる彼は、フィレール王国の王子であった。


「で、殿下っ!?」


 ただ、彼の登場は予定になかったのか。

 宰相さんは悲鳴にしか思えない声を慌ててあげるも、ローグ王子は柳に風と聞き流し、「そら、見たことか」と言葉を続ける。


「オレがこうして出向きでもしなきゃ、ナガレ王子は顔を合わせてくんねーって言ってた通りだったろ?」


 それはまるで、以前からもそうであったかのような物言いであって。


「……勿論、サーシャの事もあったんだが、それ以前に、ローグ王子とは元から性格が合わなくてな」

「殿下と違って品がなさそうな人ですね」


 小声で申し訳なさそうに言ってくるナガレの言葉と、他国の王子に対して不敬極まりない感想を述べるカトリナちゃんの言葉で全てを察する。

 というか、ローグ王子は多分、私も苦手なタイプだこれ。


「にしても驚いたぜえ? ナガレ王子に錬金術の心得があったとはな」

「母上の病をどうにか治したくてな。錬金術師を虱潰しに当たっても解決には繋がらなかったから、だったら自分でやるしかないと思ったんだ」


 一応、私が主導で治療薬を作った事にはなっているけど、当たり障りのない受け答えは俺がした方が良いだろ。という事で、ナガレにも錬金術の心得がある前提で事を進めていた。


「ナガレ王子以外の人間がそれを言おうものなら、馬鹿じゃねーのって言ってやるところなんだが、ナガレ王子の場合はそれが出来ちまう側の人間だからなあ」


 心底面白おかしそうにローグ王子は言う。


「俺一人だったら無理だったさ。母上を助けられたのは、こいつが手を貸してくれたお陰だ」


 そう言って、ナガレは私に目配せを一度。


「あぁっ、そうだそうだ。オレぁ、あんたにも礼を言わなくちゃいけねえんだった。治療薬、作ってくれたのはあんたなんだってな。えと、サシャ、だったか?」


 フィレールに来てから一、二度しか名乗っていない名前を誰かしらから伝えられていたのか。

 事前に決めておいたほぼ実名の偽名をローグ王子は口にする。

 下手に喋るとボロが出そうだったので控えめに頷くだけに留めておく。


「ありがとうよ。お陰で命拾いした」


 つい昨日まで寝込んでいた彼であったけど、薬が効いたのか。出歩いても問題ないくらいには回復したらしい。


 素直に感謝の言葉を口にするあたり、ローグ王子は少し性格が変わってるけど、悪い人ではなさそう。そう思った直後。


「で、なんだが、助けて貰った手前、何もせずにアストレアに返すのは流石に王子として気が引けちまう。なんで、オレを助けると思って、礼をさせてくれや。特に、あんたには何かしらの礼をしねえとオレの気が済まねえ」


 そう言って、ナガレ————ではなく、何故かローグ王子の瞳は私をじっ、と射抜いていた。


「……いえ、本当にお礼とか結構なので」

「おいおい、そうつれねえ事言うなよ。何か欲しい物はねえか? して欲しい事はないか? オレに叶えられる範囲なら、なんでも叶えてやる。例えば、お家の取り潰し(、、、、、、、)だろうが、貴族家の当主にあんたを据える(、、、)事であっても。オレは能力ある人間は大好きなんだ。だから、なんでも叶えてやるよ?」


 偶然だろうけど、そのピンポイント過ぎる言葉に、ほんの僅かながら眉根が寄る。

 まるでそれは、ローグ王子から見て、私がそう望んでいる人間に見えると言われているようであって。


「なあ? サーシャ(、、、、)レイベッカ(、、、、、)?」

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