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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章

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三十話 ネードペント

 不思議な感覚だった。


 基本的に、私が使える魔法というものは、錬金術を行う際に必要なもの。

 もしくは、過去にガロンさんから教えて貰った初歩的な魔法。それくらい。


 だから、ルゥから教えて貰えた補助の魔法を使う感覚は、不思議なものだった。

 そして、握る手を介して、ナガレから魔力が流れてくる感覚。何もかもが不思議で。奇妙で。言葉にうまく言い表せられないもので。


 ただ一つ言える事は、決してそれは、悪い感覚じゃなかった。

 気怠くはなるけど、悪いものではなかった。



「く、はッ、オレが掛けた強化魔法より上位かよ!! 嬢ちゃん、まじで魔法師の才能あるぜ!!?」


 基本的に補助系の魔法は、同じ効果の場合、より上位のものに上書きをされてしまう法則がある。

 この場合、元々付与されていた強化系の魔法は、ルゥの魔法である〝竜吟の詩〟に上書きされたのだろう。


「……わ、私は出来れば錬金術の才能の方が欲しいなあ、なんて」


 褒められる事は素直に嬉しい。

 嬉しい、のだけれど、出来ればそれは錬金術の才能であって欲しかったという本音をこぼす。


 そして、不敵に笑いながら紡がれるガロンさんの言葉を耳にしながら、魔法を行使する事数秒。やがて、場に眩い光が満ちた。


 この数十分の間で慣れつつある、重量感。

 ひたすら私の頭の上でくつろぐルゥに視線をどうにか向けると、心なし、笑っている気がした。


「『うん。初めてにしては、上出来なんじゃない?』」


 そして褒められる。

 突発的に行った事ではあったけど、どうやらルゥ的には及第点らしい。

 という事は、恐らくこれで〝ネードペント〟については問題ないのだろう。


 ……ただ、まだ最後の締めが残っている。

 強化魔法を使って、〝ネードペント〟を倒して終わり。と、締め括る前にやる事がまだあと一つ。


「じゃあ、後はこれだけだね」


 側に置かれた錬金術の完成品。

 新たに作った対抗薬に、視線を向ける。


 本来、錬金術による完成品は、効果を得る為には体内に摂取する必要があるのだけれど、ここはドラゴンパワー。

 ルゥ曰く、薄めたとはいえドラゴンブラッド。


 摂取せずとも、身体にぶっかけるだけで効果は発揮してくれるらしい。


「というわけで、最後の締めよろしく、ルゥ(、、)


 ガロンさんがやって来る以前。

 錬金術にて対抗薬を製作していた際に決めておいた約束事。


 〝ネードペント〟を討伐する際、魔法師の人達が一点に集まっていない場合も十分にあり得る。

 だから、その際をどうするかについての取り決め。


 普通に考えるならば、〝テレポート〟で届けるという選択に落ち着くだろうけど、必要な行為とはいえ、〝ネードペント〟を相手にする人達の魔力は出来る限り消費させたくはなかった。


 だからこその————ルゥ。


「『……確かに、そう約束はしてたけど、丁度手が空いてる人間がいるんだし、あのちっちゃい子に任せた方が良いと思うけどなあ』」

「誰がちっちゃい子か!! ……まぁでも、わたしが出来るならそうしても良かったわよ。ただ、ガロン魔法師長が言ってたように、わたしが使えるのは三回が限界。一回足りないのよ、これだと」


 〝五方陣(ペンタグラム)〟。


 五方から打ち上がる光、各々に人がいるとして、少なくとも、四回は転移の魔法を使う必要がある。


 ガロンさんの手は借りられないし、カトリナちゃんは転移の魔法は使えて三回。


 そこの一回を、ナガレで補う。

 という選択肢も無きにしも非ずだったかもしれないが、この通り、強化魔法にて魔力を吸い上げられているせいで、その一回も恐らくは不可能。


 とすれば必然、予定通りルゥがどうにかするという選択肢しか残されていない事になる。


「『くっ、絶対そんな事態は起こらないと思ってぼくは安請け合いしただけなのに……!!』」


 ドラゴンは惰眠を貪る種族なんだよ!!


 などと自分の種を貶めるような発言をするルゥは、どこからどう見てもサボりたいだけだろう。


「ほら、ね。だから急いで、ルゥ。時間はもうないから。なんだったら、後でまた魔力あげるから」


 もう既に殆どすっからかんだから、どうしようもないんだけど、ルゥはそれに気付いてないのか。


 その約束忘れないでよ……! とだけ言葉を残し、完成品の入れ物が収められたケースを口で咥え、飛行を始める。


 気付けば、〝竜吟の詩〟の補助を受けたガロンさん達の魔法は、じりじりと〝ネードペント〟の抵抗を押し返し、後一歩というところまで来ていた。


 ただそれでも、周囲に意識を向けるだけの余裕はあるのか。

 心なし、ガロンさんは私達の会話に気を向けていたようでもあって。

 私達がしようとしている事を、絶妙な力加減を駆使して待ってくれているようにも見えた。


 程なく、ルゥの姿が米粒程度の大きさになったあたりでポイ、と咥えていたケースを離す。


「『……ほんっと、今回だけだからね』」


 遠くまで離れてるはずなのに、仕方なく。

 といった様子で紡がれるルゥの声が私の鼓膜にまで、届いたかのような錯覚に陥る。


 その直後。


 宙に投げ捨てた筈のケースが何故か、不自然に硬直。落下停止。

 次いで、ケースを中心として渦のようなものが突如として出現する。


 直径五メートルはあろうかといった大きさの渦は、次第に凝縮されてゆき、やがてケースすらも巻き込んでルゥと同様の大きさまで縮小された。


 そして、それから十秒もしないうちに甲高い破裂音を残して弾け飛ぶと同時、にわか雨のようにソレは周囲に降り注いだ。


 完成品を注いでいた入れ物は、粉々に砕いてあるのか。破片が飛び散っている様子もなく、本当に雨が降っているかのような。


「そら、これで終いだ!!!」


 場に満ちていた眩い光が更に輝きを帯び、数秒もしない内に地鳴りのような音と震動に見舞われた。

 堪らず薄目にしてしまう程の輝きは、それから程なく収まってゆく。

 明瞭になる視界。


 大木とも思えた〝ネードペント〟がいた場所には、ごっそりと遠目からでも分かる程の抉れた跡が刻み込まれていた。

 つい、「……うへえ」なんて感想を漏らしてしまう。


「だぁーーー!!! 疲れた!! 今回はまじで疲れた!! ちょっと休憩!!」


 先程までちっとも疲れてる様子を見せていなかったガロンさんは、そう言って地面に勢いよく腰を下ろし、尻もちをついた。


「『あれだけの魔法師の魔力を一点に集めて、どうこうやってたわけだから、そりゃ疲れるよね。精神的にも、身体的にも。ドラゴンのぼくからしても、よくやれるねって感じだったし』」


 ぽすんと、ここがぼくの定位置だと言わんばかりにまたしても私の頭の上に乗っかったルゥが、ガロンさんに向けてそう言い放つ。

 言葉には何処か、呆れの色が込められており、恐らくガロンさんの魔法の技量はルゥから見ても、呆れるくらい高いものだったのだろう。


 ガロンさんは疲労困憊。

 ルゥも多分、これ以上は手伝ってくれる様子じゃないし、ナガレと私は魔力不足。


 でも、これから〝ネードペント〟の残骸を調べて『ミナト病』の治療薬製作に私は取り掛からなくてはいけない……のだけれど。


「……急にわたしの方を見て、なに?」


 歩いて向かうにしても、あまりに距離が遠過ぎる。とすると、私が取れる手段というものはひとつだけ。


 私の考えを察していないカトリナちゃんが、不思議そうに小首を傾げていたけれど、今、私が頼れるのはカトリナちゃんだけだ。


「ものすっっっごく、天才で、可愛いカトリナちゃんにお願いがあるの」

「ふ、ふぅーん……? 中々に分かってるじゃない。それで、超、超、天才なわたしになんの用かしら」

「えっとね、私を〝ネードペント〟の下までテレポートで送って欲しいんだけど」

「ふふん。そんなの、わたしにかかればお茶の子さいさい朝飯前よ。まぁ? 錬金術師は気に食わないけど? このわたしの凄さを分かる人間の頼みであれば? 特、別に!! 聞いてあげるわ」



 ————カトリナのやつチョロいな。



 やり取りを見ていたナガレが、チョロいとか言ってたけど、ふふん、と気を良くしたように鼻を高くするカトリナちゃんにその言葉は届かない。


 やっぱり、小っちゃい身長も相まって小動物みたいで可愛いんだよなあ。


「ああ、でも」

「ぅん?」

「テレポートで送る事は構わないのだけれど、貴女と殿下、いつまでそうして手を繋いでるの?」


 言われて気づく。


 強化の魔法————〝竜吟の詩〟はもう役目を終えている。というのに、私とナガレの手は繋いだままだった。

 いや、何というか。

 全く違和感がなかった。


 ただ、ここでパッ、とすぐに手を離すと、手を握るという行為が嫌だったと捉えられたりしないか……? と思ってしまったが故に、すぐに離すことが出来なかった。


 ナガレも私と同じ考えだったのか。

 手を離す様子はなくて。


 なので折角だから、この状況を楽しんでみる事にした。


「んー。もう少しだけ? まあそれは兎も角、良いでしょ。ほら、仲良し~!」


 ぶんぶん、と握っている方の手を上下に振ってみる。


「ぐぬぬ。少しだけ羨ましい……!」


 そういえば、カトリナちゃんってナガレに憧れに似た感情を抱いてるんだっけ。


「それじゃ、カトリナちゃんも肩車してあげよっか」

「……そこは手を繋ごっか、でしょうが。なんでわたしの時は肩車になってんのよ」

「おっと、あぶない。無意識だったや」


 なんとなく、カトリナちゃんには肩車。

 みたいな考えで、脳内がいつの間にか埋め尽くされていた。危ない危ない。

 あの可愛らしいちっちゃな見た目に、完全に惑わされていた。


「……まぁ、いいわ。ほら、さっさとテレポートで送ってあげるから、手をほどきなさいな」

「ああ、いや、俺もついて行くつもりだからそこは大丈夫だ。まあ、迷子になるような歳でもないし、すぐに手は解く事になるだろうが」


 流石にこの歳にまでなって迷子は……ないと思う。……ないよね?


 などと、微妙に自覚のある自分自身の方向音痴さを思い返しながら、溜息を吐くカトリナちゃんに、私はナガレと一緒にテレポートで送って貰う事となった。

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