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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章

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二十七話 ベビードラゴン

 それから十数分程掛けてたどり着いた先。

 魔物の集団と当初は聞いていたものの、それらしきものは一切見つからず、私含む三人全員が口を真一文字に引き結んでいた。


 ただ、カトリナちゃんの案内によって連れて来られた場所には、これまでに無かったものがひとつだけ、ぽつんとあった。

 それは、大きな毛玉のような白銀の何か。

 見方によっては、降り積もった雪の塊にも見えなくも無い。


「……なにあれ」


 明らかに場違いすぎる眼前のソレに対して、私は疑問の言葉を口にする。

 一瞬、置物か何かかと思ったけど、〝サーチ〟を行使してやってきた先に偶々あった。

 というのは可能性としてはあまりに、考え難い。

 だとすれば、あれはまず間違いなく魔物なのだろう。


 ……ただ、おかしな事に、私は魔物に対しては反射的に極度の拒絶感を示してしまう人間であるというのに、ある程度まで近づいたにもかかわらず、馴染みある嫌悪感が全く湧き上がらない。

 故に、筆舌に尽くし難い違和感が付き纏う。


「恐らく魔物、なんだろうが……」


 私の様子にナガレも気付いてくれたのだろう。

 その言葉はいつもとは違い、歯切れの悪いものであった。


「ただの魔物でない事は確かだな」


 私は隣でコクコクと頷く。

 流石はナガレ。

 付き合いの長さは伊達じゃない。


「特に、カトリナが魔物の集団と見誤った事も気になる」


 当初、カトリナちゃんは魔物の集団と言っていた。しかし、蓋を開けてみるとそこには得体の知れないもこもこが一つ。

 警戒心を向ける理由は幾らでもあった。


「……なら、どうしますか? 殿下」


 三人では拙いと判断をして、引き下がるか。

 どうするか。

 言葉こそなかったものの、向ける視線でカトリナちゃんがナガレにそう問うていた。


「どうするもこうするも、折角の手掛かりを失うわけにはいかないだろ。それに、こっちには〝テレポート〟もある。いざという時は逃げればいい」


 数回という制限があるものの、ただでさえ少ない回数を減らすだけの価値はあるとナガレは言う。


 魔法師として力になれる事がほぼ無い私が言うべき言葉ではないかもしれないけど、その発言には私も全面同意であった。

 突破口になるであろう手掛かりをみすみす失うわけにはいかない。


 だから————と、口を開こうとして、漸く違和感に気づく。

 何故か、急に身体が重くなったような錯覚に陥る。あちこちが縫い止められているように、動き辛かった。


 違和感の正体は、あの白いもこもこか。


「……いや、そうよね。〝ネードペント〟の花粉だらけのこの場所にいるような魔物が、ただの魔物の筈がないわよね」


 顔を顰め、カトリナちゃんが言う。

 身じろぎするように、白銀のもこもこが小さく動く。その際に見え隠れする白く染まったツノのような何か。


 その特徴から、頭の中に存在する知識を手探りに、答えを絞り込む。

 加えて、この身体を縫い止めてくるような威圧感。錬金術の為、薬草を採りに向かう際に幾度となく魔物に出会っていたけれど、こんな体験は初めてだった。


 だから、その経験を踏まえた上で私が答えを出すとすれば、



「ベビードラゴン」



 辛うじて動く声帯を震わせ、言葉を紡ぐ。

 まるで、その答えが正解であると言うように、キュウ、と放つ威圧感に似つかわしくない可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。


 寝起きなのだろうか。

 心なし、鳴き声は間延びしているようにも思える。


「……ベビードラゴン。成る程。それなら〝ネードペント〟の花粉に耐えられる事にも納得はいく」


 何故ここにいるのかは分からない。

 だが、再度見え隠れするツノと、控え目な翼。爬虫類のようなぎゅうぅ、と細長に絞られた瞳孔が、私の言葉が間違っていなかったと教えてくれる。


 一応は魔物に区分されているものの、生態系のトップに君臨するドラゴン。

 その幼体ゆえに、ベビードラゴン。


 極端に魔力に対する耐性が高いドラゴンならば、〝ネードペント〟の花粉を屁とも思わない態度にも納得しかない。


「サーシャ!!」


 下がっていろ。


 叫ばれたその言葉が意味する指示を瞬時に汲み取るけれど、身体が思うように動かない。

 鈍く、重いせいで、どうにか一歩、後退するのが精一杯。


 それを見て、即座に臨戦態勢に移るナガレとカトリナちゃんであったけど、敵意を向けられていたベビードラゴンらしきソレはそんな事は柳に風であるというように、ゆっくりと翼をはためかせて宙に浮かび上がる。

 そして直後。


 一秒を十で等分した内の二ほどの時間で、飛行。肉薄。

 数十メートルは空いていたであろう私達との距離が刹那の時間でゼロへ。


 そのあまりの速度に一瞬、反応が遅れはしたが、魔法でどうにか対処を試みようとして————。



「『————いい寝床、みーつけたっ』」



 子供らしい、無邪気さを感じる声と共に、次の瞬間、私の頭の上に一、二キロ程度の重さがのし掛かった。


 …………うん?


 てっきり攻撃をされると思っていた矢先のその行動に、私を含めた三者ともが言葉を失う。

 だけど、場に降りた沈黙も長くは続かなかった。


「し、喋った!?」

「『キミが言ってたじゃないか。ドラゴンだって。そりゃあドラゴンだもの。人の言葉くらいは分かるよ?』」


 遅れて気付いたとんでもない現実に目を剥く私だったけど、何故か呆れられた。

 当たり前の事を聞くなと言うように。


「『それより、キミからは、良い匂いがする。もしかして、聖女(、、)の縁者だったりする?』」


 良い匂い。


 いやまあ、臭いと言われるよりは万倍マシなんだけど、いかんせん、話が見えない。

 というより、何故、この真っ白な身体のベビードラゴンは私の頭の上に乗っているのだろうか。


「聖女……?」

「『あれ。違った? でも、この匂いは聖女に近い匂いだと思うんだけどなあ。まぁいいや。取り敢えず、美味しそうだから魔力をちょっとだけ分けて貰ってもいい? ぼく、お腹ぺこぺこで』」


 神聖視されているドラゴンのような存在は、魔力を食べて生きている。

 なんて話がある事は文献にも書いてあった。


 だから、その点について驚きはなかったけど、私は慌てて制止する。


 幼体とはいえ、ドラゴン。

 気分を損ねないようにと、言葉遣いには気を付ける事にした。


「ま、待って。待って下さい!」

「『ぅん?』」


 別に、私個人の魔力を分け与える事くらいなら構いはしないのだが、この状況であれば交渉の余地がある気がした。

 何より、ドラゴンの血は濃過ぎると人には毒だが、薄めれば魔力耐性を向上させる特上の薬となると聞いたことがある。


 だとすれば、数滴でも血を分けて貰う事が出来れば変異している花粉であろうと問題なく耐える事が可能となる筈だ。


「……魔力を分ける事は別に構わないんですが、その、見返り、というか。血を数滴、分けていただく事は出来ませんか」

「『血? 別にいいけど、なんで?』」

「私達は〝ネードペント〟の討伐にやってきたんですが、変異しつつある花粉にまで完全に対処は出来ていません。なので、ドラゴンの血を分けていただければ、確実に他の方々も守る事が出来ると思うんです」


 多少の手間を掛ける必要はあるけど、ドラゴンの血さえ手に入れば何とかなる。

 だから————と思って、ある程度の無茶振りには応える気持ちで投げかけたその疑問であったけれど、


「『んー。いいよー』」

「……そうですよね。血をくれだなんて、痛いし、嫌ですよね————って、良いんですか!?」


 拍子抜けするくらい軽い返事で許可が下りた。


「『ぼくも現状は、煩わしく感じてたからね。ここ、美味しい木の実があったり、質のいい魔力に満ち満ちた泉があったり、お気に入りの場所だったんだけど、久しぶりに来てみたらこの状態だったんだ』」


 どうしてベビードラゴンがこんな場所にいたのか。その疑問が氷解する。


「『だから、元凶を倒す為に必要なら、協力も吝かじゃないって事だね。ただ、こんな事になってるとは知らなくて、魔力切れ起こしてるんだ。元々、ここで魔力を補充する予定だったからさ』」


 という事で、魔力ちょうだい。

 に結びつくという事らしい。


 一瞬、幼体とはいえ、ドラゴンならば〝ネードペント〟も倒せるのではないのか。

 そう思いはしたが、そんな事情があったらしい。


「……そういう事なら、俺の魔力じゃダメか」

「ナガレ?」


 そして、話がそれで落ち着きかけた時。

 横槍を入れるようにナガレの言葉が聞こえてくる。


「魔力の量なら、恐らく俺の方が多い筈だ」

「『うん。そうだね。キミの方が多いと思うよ。ただ、この子の〝匂い〟がぼくは好きなんだ。大丈夫、魔力を貰うって言っても、根こそぎ貰うつもりは毛頭ないから。機会があれば、この子の魔力はまた貰いたいしね』」


 魔力を大量に失った場合、〝魔力欠乏症〟という状態に陥る。

 基本的にそれは、様々な体内器官が正常に働かなくなる事で動悸や吐き気といった症状に見舞われる。


 恐らく、ナガレはそれを懸念したのだろう。

 ……相変わらずの、心配性というか何というか。


 カトリナちゃんは複雑そうな表情を浮かべていたけれど、その気遣いは素直に嬉しかった。


 ただ。


「大丈夫だよ、ナガレ。上手く説明は出来ないけど、このドラゴンは悪いドラゴンじゃないと思う。だから、ね?」


 単なる勘。

 だけど、不思議とその根拠のない勘を私は信じて良い気がした。何より、錬金術師として務めを果たすならば、ここで応じないという選択肢だけはあり得ない。


 そして、私の言葉を信用してくれたのか。

 不承不承といった様子ではあったけど、ナガレも納得をしてくれたのか。

 溜息を一度吐き、一応、受け入れてくれる事となった。




* * * *



 それから数十分ほど経過した後。


「————……で。これは一体、どんな状況なんですかねえ?」


 事前に説明してくれていた通り、テレポートを使って転移してきたガロンさんが、疑念に塗れた言葉を口にする。


 彼の視線には、頑張ってナガレと二人で再度の対抗薬作りに勤しむ私達の姿が映り込んだことだろう。

 ただ、私の頭の上には、ここが心地が良いからと白いもこもこが乗っかっていたが。


 きっと、疑問を口にした理由はそれが原因。


 しかし、どういう原理なのか。

 忙しなく動いているにもかかわらず、ベビードラゴンが私の頭の上から落ちる気配どころか、微動だにせず、ぐっすりとくるんと丸まって寝息を立てていた。


 別れた時とは少しばかり異なる私の現状に、転移の魔法にて合流をしたガロンさんが、疑問符を浮かべるのは至極当然の話であった。


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