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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章

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二十五話 別行動

* * * *


 床一面に広がっていた魔法陣を用いて、ガロンさんが転移の魔法を行使した直後。


 ぐわん、と独特の酩酊感に襲われながらも視界に映り込む光景は一変。

 やがて目前に広がったのは、異様と形容する他ない毒色に染まった枯れ木ばかりの山であった。


「———————」


 息を呑む。


 ゴクリと唾を嚥下する音の重奏が聞こえる程、殆どの例外なく誰もが驚いているようであった。


「予想はしていたが、これは……酷いな」


 場に降りる沈黙。

 それを破ったのは、ナガレの言葉だった。


 続くように、懐に収められていたウェルの秘薬EX(対抗薬)を取り出し、口の中へと注ぎ込むナガレの行為を見て、私達も事前に渡されていた対抗薬を摂取してゆく。


 ガロンさん曰く、転移の魔法は少し特殊だから、万が一を考えて対抗薬は転移後に摂取するようにと一言説明があった。


「人にだけ悪影響がある、とは考え難いですからねえ」


 魔物や植物。

 ありとあらゆる生きているものに影響があっても何らおかしくは無いとガロンさんは答えた。

 寧ろ、それが正しい姿であると。


「……何してるの? サーシャさん」

「あ、うん。一応、回収しておこっかなって。これだけ、変色してるし、何か新たに分かる事があるかもしれないし」


 ナガレに倣うように対抗薬を摂取した後、私は足下に転がっていた毒色に変色した枯葉を手袋を付けた手で回収。

 それなりに持って来ていた小さいサイズの硝子の調合器へと放り込み、対抗薬を作る際に余分めに作っていた液体をそこに流し込む。


 その一連の流れに、カトリナちゃんから疑問を投げかけられたので、私は答えていた。


「でも、土の質感から雨が全く降っていない、って事はないのにこの草木達は、なんというか、干涸びてる感じですよね」


 抱いた疑問をそのまま口にする。


 普通、大木とまではいかないにせよ、私の身長を優に超えるような木であれば、蹴る殴るしてもびくともしないものである。

 だけど、私が見る限り、視界に映る枯れた木々は私が蹴る殴るすれば容易に真っ二つに折れてしまうのでは。

 と、思える程に弱々しかった。


「まるで、栄養が全て吸い上げられているみたいに」

「……もし、嬢ちゃんの予想通りなら、相当厄介そうだな」

「どういう事ですか? ガロン魔法師長」


 錬金術師はやっぱり連れて来ていて正解だったな。と、渋面を見せるガロンさんにカトリナちゃんが疑問符を向ける。


「あー、だからな。多分、今回の元凶だろう〝ネードペント〟はここら一帯の栄養全部吸い上げてんじゃねえのかって話だ。すると、恐らくだが、食魔植物の場合はその栄養を使って高速再生みたいなえげつねえ真似が出来る可能性がたけえ」

「高速、再生」


 ただの食魔植物の高速再生ならば何も問題はなかった。しかし、〝ネードペント〟の高速再生となると話は変わる。


 ただでさえ魔法耐性の高い〝ネードペント〟に、高速再生などという補助まで加わったともなると、本当に手が付けられなくなるからだ。


 変異種がどれ程のものかは分からない。

 でも、下手をすれば与える傷より回復の方が上回り、ジリ貧な状況が出来上がる事も、可能性として頭に入れておく必要がある。


 とすると、必要となってくるのは、ため込んだ栄養を如何に使わせないようにするか。使えない状況を作り上げられるか。

 その上で、高速再生のような真似をされる前に全て終わらせる事。


「とはいえ、まずは対策をするにせよ、〝ネードペント〟の居場所を突き止めねえと話になんねえ」

「なら、二手に分けるか」

「さっすが殿下。理解が早くて助かりますぜ」


 不幸中の幸いというべきか。

 栄養など、ほぼ全ての生気のようなものが失われている為、魔物といった生き物も殆ど見当たらない。

 ならば、二手に分けてもそこまで危険性はない。そう考えての提案だったのだろう。


「つぅわけで、オレを除いて唯一、転移魔法が使えるカトリナをそっちに回すとして」


 こんなにちっちゃい子がなんで同行してるのか。頭の片隅にあった疑問が、その言葉のお陰で解消される。

 転移魔法を使えるなら、確かに、同行メンバーに入っていても何らおかしくはない。


「カトリナちゃんって、転移魔法が使えるんだ」

「だから、ちゃんは止めて……って、そ、そうよ。わたしは転移魔法も使える天才さんなの。褒めていいわよ? というか褒めなさい。褒めて!」


 その言葉に応じるように、本心から素直に凄い凄いと褒めると満足したのか。

 ご満悦な様子で、泥舟に乗った気でいなさい!


 などと盛大に言葉を間違えながらもふんす、と胸を張っていた。小動物感が凄い。可愛い。


「んで、カトリナ以外の魔法師についてなんだが、」


 ひぃ、ふぅ、みぃ、と同行していた他の魔法師の幾人かもカトリナちゃん同様に分けようとしてか。ガロンさんが数え始めていたが、それを遮るようにナガレが声を上げる。


「いや、転移の魔法が使えるなら下手に人を増やさない方がいいだろ」

「……とは言っても、カトリナとオレは違いますぜ? こいつが天才である事は認めてっが、使えて3回ってとこでしょうよ」


 転移の魔法の使い手が一握りである理由として、一番の理由がその膨大過ぎる魔力消費にある。

 そして、使い手が限られすぎていて、教えられる人間が殆どいない事。純粋な魔法としての難易度の高さ等々。


「三回も使えれば上等過ぎる。それに、恐らくだが、一回くらいなら俺も使える」

「……は、ははっ、マジですか。流石は殿下。相変わらず、いい意味で得体が知れねえ」


 引き攣った笑いをガロンさんが浮かべる。


「ですけど、転移の魔法なんて誰から学んだんで? 以前、レクチャーした際はオレが感覚派過ぎて無理って事だったって記憶なんですけど」


 理論派。

 しかも、事細かに転移の魔法を教えられるような人間は、はて、いただろうか。


 記憶を漁っているのか。

 心当たりをどうにか探そうと試みるガロンさんであったが、続けられるナガレの言葉に、声が裏返る事となった。


「いや、誰からも教わってない」

「……教わってない?」

「書物から学んだ。ただ、不安要素は少しばかりあったんだが、さっきのガロンの転移の魔法を直で見たお陰でそれも解消された。恐らく、使えると思う」


 書物、と聞くとやはりどうしても世界一とも噂される書庫————フィレールの図書館の事が思い起こされる。


「はぁん。分かった。事情は全部把握した。まぁた嬢ちゃんか。マジで多才過ぎねえか? つか、これ以上、なんか出てくるようならダウィドに恨まれてでも魔法師(こっち)側に欲しくなるんだが」


 何故か私に意味深な視線が向けられる。

 でも、そんな視線を向けられる事に今回ばかりは覚えが全くない。


 だから、それは勘違いであると否定しようと試みるけれど、


「転移の魔法は、サーシャから教わったわけじゃない」


 それをするより先にナガレから、説明が入る。

 そうそう。今回は私、一切関係ないから。

 流石にこれ以上、勝手に評価を上げて期待を寄せられても困るから————


「教わってはいないが、アドバイスなら貰ったな。もっとも、それが転移の魔法に関するものとは伝えていなかったが」

「……転移の魔法は、複雑怪奇過ぎて真面にアドバイスは出来ねえし、そもそも、アドバイス一つでどうにかなるもんじゃねえんですけどね」


 ……言われてもみれば、何度か錬金術に絶対関係ないよね、これ。

 みたいな事で相談を受けた気がする。


 だから、心当たりは本意でないものの若干、あった。


 そんな私達の様子を流し目で見詰めるガロンさんは、もう少し何か言いたそうにも見えたけど、これ以上お喋りで時間を浪費するわけにはいかないと考えてか。


 言葉を唾液で落とし込み、面白おかしそうに破顔。


「んじゃ、分かりました。そっちは三人で。こっちは、残り全員で取り敢えず〝ネードペント〟を探しといきますぜ」

「なら、合流する時は?」

「一応、今回は万が一を考えてオレとカトリナ、殿下と嬢ちゃんの四人の服に陣を刻んどいた。だから、服の裏地に見慣れねえ陣が刻まれてたろ? それさえあればオレは直ぐにそっちにいける。だからそこの心配はいらねえですよ」


 あえて服をオレから渡した理由は、だからなんだぜ。とガロンさんが口にする。

 その準備の良さに私は脱帽した。


「恐らく、オレ達が〝ネードペント〟を見つける方が早えとは思うが、もし終わるような事があれば、こっちからの連絡を待ってくれりゃあいい」


 栄養を軒並み吸い出しているであろう〝ネードペント〟に対する対策。

 加えて、現在進行形で進んでいる〝ミナト病〟に対する特効薬の手掛かり等々。


 恐らくではなく、間違いなく私達の方が遅くなるだろう。

 器具も服に詰め込めるだけ詰め込んではきたけど、工房と違って最低限の道具と素材しかない。


「他に質問は? ねえなら、そろそろ探しに向かおうと思うんだが」

「……あ、っと、そうだ。ガロンさん。すっかり渡し忘れてたんですけど、これを」

「ぅん?」


 錬金寮の工房でナガレに渡していたものと全く同じものをガロンさんに手渡す。


 危ない危ない。

 つい、渡し損ねるところだった。


「これは?」

「身体に害がない事は確認してるんですけど、ちゃんと効くかどうかの確認はまだなんですが、一応、〝ネードペント〟に対して魔法を通りやすくする為のものです」


 夜なべしてナガレと作ってみました。

 ぶいっ。

 と、ピースサインを向けてみると、肩を震わせ、ぷはっ、と吹き出して笑われた。


「嬢ちゃんらは、休んでろっつったろ」

「何かしてないと落ち着いていられなくて」

「嬢ちゃんは何処ぞの魚類か。……まぁ、いい。そういう事なら受け取っとくわ。ありがとうよ」


 大事そうに胸のポケットにガロンさんがソレを収める。

 そして今度こそ、話はおしまい。

 渡し忘れていた物もない事を確認し、


「んじゃ、ちょいとばかし、別行動といくか。そっちも頑張ってくだせえよ。殿下に、嬢ちゃん。あと、カトリナ」

「……あ、あれ。なんで天才魔法師である筈のわたしがオマケキャラ扱いになってるんですか……? いやでも、殿下のオマケキャラなら満更でも————」


 難しそうな顔でぶつぶつと独り言を漏らすカトリナちゃんと、私とナガレの三人でここからは行動する事となった。

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