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家から追い出された私は、隣国のお抱え錬金術師として、幸せな第二の人生を送る事にしました!  作者: アルト/遥月@【アニメ】補助魔法 10/4配信スタート!
一章

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二十一話 複雑怪奇

「————にしてもあの二人、本当に仲が良いのね。二人一緒になって、仲良く寝ちゃって」


 すぅ、すぅと寝息を立てながら、開けっ放しになっていた部屋で、眠りこけていた二人。

 サーシャとナガレの姿を、遠目で見詰めながら、アリスはそう呟いていた。


「というか。貴方って、誰かにここまで世話を焼くような人だったかしら?」

「言ったろ。嬢ちゃんにゃ、個人的に恩があるってよ。安心しろ。あの嬢ちゃんじゃなきゃ、ここまで世話を焼いてはいねえよ」


 本来であれば此処、練金寮に寄り付きすらしない人物であるガロンが、アリスの疑問に言葉を返す。


「それはまた。随分と大きな恩だったのね」

「まぁ、それを否定する気はないが、これは恩返しというより、恩人に対する『心配』みてえなもんだ」


 とはいえ、取り越し苦労だったようだが。


 仕方がなさそうに笑いながら、今も尚、夢の世界にいるであろう二人を見詰めるガロンはまるで、そう言いたげでもあって。


「……心配?」

「端的に言やぁ、潰れてねえか心配だったんだわ」


 疑問に対する答えをガロンは口にしている筈なのに、その返事の意図する事をアリスは理解が出来ない。

 だから、疑問符を浮かべるように顔を顰める。


「オレ、一度、嬢ちゃんに魔法師にならねえかって誘ったんだが、キッパリと断られててな。嬢ちゃん、なんて言って断ったと思う?」

「単に、錬金術師になりたいから、じゃないの?」

「いんや。それがちげえんだ。嬢ちゃんはな、一度自分が決めた事からは逃げたくない。自分は、家族に認められるような立派な錬金術師になりたいから、その申し出を受けるわけにはいかないって言って断ったのさ」


 錬金術師になりたい。

 というより、家族に認められたいから錬金術師を目指している。

 そんな物言いであったとガロンは語る。


「……そういう生まれの子なのかしら」


 だから真っ先に、アリスはその答えに辿り着く。義務感に似た理由で何かを目指す人間の大半が、家業であったり、そういった一族の生まれである事が大半を占めると彼女は知っているから。


「サーシャ・レイベッカ。フィレールでは割と有名な錬金術師の一族だそうだ」

「……ぇ。貴族……? ちょっと、殿下、他国の貴族なんか連れて来ちゃって大丈夫なの? これ」

「ああ。だから、パフェ屋で偶然出会った時は驚かされたもんだ。だが、オレが確認した限り、レイベッカの家に嬢ちゃんの籍は既になかった」


 あの時、当たり障りのない言葉で退席していたガロンだったが、実のところサーシャが何故、アストレアにいるのかを急遽調べる為に離席した。

 が、正しかった。


「嬢ちゃんは、既に家から勘当されてんだ」


 だから、アリスの言う問題はなかった。


「……あぁ、だが、オレが嬢ちゃんの家名を知ってた事は言わんでくれよ、アリスの嬢ちゃん」


 何故、勘当されたのだろうか。

 深刻そうな表情で黙考するアリスの思考を遮るように、ガロンが言う。


「それは、どうして?」

「元々、恩人相手に詮索をする気は一切なかった。だが、これは偶然知っちまった事でな。偶然、嬢ちゃんがレイベッカの人間だと知っちまった」


 きっかけは、ただの善意からだった。

 偶々、サーシャが物を忘れて帰路についてしまい、それに気づいたガロンが慌てて届けようとした。

 その際に、使用人然とした人間と口論になっている場面————サーシャが一方的に怒鳴られている状況に偶然にも遭遇し、忘れ物をどうしようか悩みあぐねているうちに、色々と知ってしまった。

 だから、ガロンはサーシャが貴族であると知っていたし、歓迎されていない存在である事も知っていた。故に、こうして心配に駆られて錬金寮まで足を運んでいたのだ。


「……殿下はそれを知ってるのかしら」

「知ってんじゃねえの? 嬢ちゃんの性格からして、隠し事が出来るとは到底思えねえしな」


 美徳ではあるが、なんというか、サーシャという少女は素直過ぎる。

 この一言に尽きた。


 だから、錬金術師として誘われたならば、ある程度の身の上事情は話していそうである。

 己はこういう人間だけど、それでもいいのか。

 ……そんな、感じに。


「それに、知ってるとすれば、アレにも納得がいく」


 アレが指し示すのは、眠りこける二人の姿。


「殿下の事だ。放っておけないとか考えて、ああなったってんなら、ある程度納得がいく」

「……そういえば、あの二人ずっと一緒にいるわね」


 錬金寮に初めて訪れた時もそうだったが、サーシャとナガレの二人は殆ど、というかほぼずっと二人で一緒に行動している。

 始めはアストレアに不慣れなサーシャの為に、と思っていたが、それにしても一緒に居すぎだ。


 ……ただ、それが心配という感情によるものであるならば、納得も出来た。

 何より、ナガレ・アストレアという人間が義理堅い底抜けのお人好しである事はアストレアにいる人間からすれば、周知の事実であったから。


 特に、一度彼の懐に入り込んだ人間には、とことん甘いし、気を遣う。


「でも、にわかには信じがたいわよ。仮にも錬金術師の一族が、優秀な錬金術師を勘当するなんて」


 阿呆という他ない。

 というより、何を考えているのか、アリスにはさっぱり理解が出来なかった。


 たとえ他家の人間だろうと、優秀な人間であれば家の人間を嫁がせてでも内に入れるべき。

 それが貴族らしい考え方である筈なのに、あえて勘当して追い出す理由がどうしても分からない。


「……罪悪感を感じながらも、ちょいとオレも調べたんだがな、レイベッカの家は、随分と複雑怪奇になってやがんだ。まぁ、不謹慎ではあるが、家を出られて良かったんじゃねえか? 少なくともオレは、そう思っちまうね」


 あえて口に出して説明をする気はないのか。

 それだけを告げてガロンは言葉を締めくくる。


 そんな折。


「それ、で。ガロンさぁん。コレ、言われた通り買って持ってきたんですけど、どこに運びゃあいいんですかぁ!」


 ガタガタ、と物音を立てながら、新たな足音が複数、錬金寮の入り口から響き渡る。


「お。やっと来やがったか。そこだそこ。あ、寝てる二人は起こすなよ。対抗薬作りに一役買ってくれたからな。今はゆっくり寝かしてやっときてえんだわ」


 そう言って、運び込まれてくる複数の家具。

 錬金術師と魔法師は犬猿の仲であるものの、ガロンの言葉に魔法師らしき者達は断れないのか。

 素直にこうして、彼らは家具を届けに錬金寮へと足を運んでいた。


「そりゃあ仕方ないですねえ。何より、未来の魔法師候補の為とあれば、俺達もひと肌脱ぐのも吝かじゃねえってもんです」

「…………魔法師候補?」

「ぉ、おい、ばかっ。それは秘密にしとけっつったろ!!」


 何気なく紡がれた一言に、アリスが反応。

 ガロンはというと、悪戯がバレた悪餓鬼のような様子で慌てて諌めようと声を上げていた。


「成る程ねえ。そういう魂胆だったのね」

「い、いやあ、ちげえんだよ。これはな、あくまで。あくまで、もし、嬢ちゃんが錬金術師に嫌気が差したら、魔法師として迎え入れたいよなっていうオレの心遣いだったんだよ。な? な? お前ら?」


 壊れたブリキ人形のようにコクコクと頷くだけのマシーンと化していた魔法師達と、ガロンの言い訳がましい言葉を聞きながら、アリスは殊更に深い溜息を漏らしていた。



* * * *



 ————いつの間にか、意識を手放していたらしい。


 重いまぶたを開けると、そこにはナガレの顔があった。

 銀細工のような長い睫毛。

 どうにも、ナガレも私と同様、寝落ちしてしまっているらしい。


 そして、その周囲には何故か見慣れない家具。

 記憶が正しければここは何一つとして物がない殺風景な場所であった筈なのに、いつの間にか生活感溢れる部屋へと変貌を遂げていた。


「……ん」


 部屋のドアも開けっ放し。

 ただ、そのお陰で喧騒のような声が耳朶を掠め、食べ物らしき匂いが鼻腔をくすぐる。


 ごった返すように、ひと気で溢れていた。


「誰か、いるのかな」

「アリスとガロンが来てる。人が多いのはそのせいだな」


 閉じていた筈の瞼が開かれながら、狸寝入りしていたのか。

 私の独り言に、寝ていると思っていたナガレが反応した。


「……起きてたんだ」

「ちょっと前にな。あと、起きたなら、そろそろ退いてくれ。足の感覚がない」


 膝枕は、私が寝落ちするまでの話。

 だから、そろそろ頭を退けてくれと言ってくるナガレの言葉に、私は慌てて頭を離す。


「ご、ごめんね」

「いや、いい。元はと言えば俺が悪いからな。それは兎も角、ガロンとアリスが呼んでたぞ。飯作って待ってるから、起きたら食堂に来いってさ」

「食堂なんてあるんだ!」

「一応ここ、寮だしな」


 まだ一度として立ち入っていない場所の存在に、気分が高揚とする。


「先行ってこいよ。俺は後から行くから」

「……いやいやぁ、流石にその状態で置いてはいけないよ。だって私のせいだし」


 後悔はちっともしてないけど、ナガレの足が痺れた原因は私にあるので、放置していく事は流石に人としてどうかと思ってしまう。


「というか、ガロンさんって、ご飯作れる人だったんだ」


 さらっと流しはしたけど、私にとってそれは、割と衝撃的な発言だった。

 見た目で判断するのは失礼とは思うけど、ガロンさんのガタイからして、何というか大雑把な感じがするので、料理とは無縁の人だと思っていた。


「いや、ご飯を作れるって言っても、一品だけだ。それに、それをご飯と言って良いのかは……割と怪しいな」

「??」

「パフェだよ。パフェ。ガロンはあのナリでパフェだけ作れるんだ」


 どうにもパフェ好きなおっちゃんこと、ガロンさんは自分で作ることも出来るらしい。

 なにその素敵特技。


 ……いやでも、確かにパフェを飯と呼んで良いのかどうかは、流石の私も首を傾けずにはいられない。


 部屋に設られた窓から射し込む光は既に茜色に変わっていて。

 私は兎も角、晩御飯がパフェというのは普通の人からすれば怒って然るべきものだろうなあと思った直後。


 遠間から「そんなにパフェを作ってどうすんのよ……!!」というアリスさんの怒声が丁度聞こえてきた。

 あまりのタイミングの良さに、笑わずにはいられなかった。

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