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十一話 魔法師長

旧タイトルは、

あらすじの方に追加させていただいてます。

「……なんだ、お前ら知り合いだったのか」

「フィレール王都の図書館は、ほんとか知らないけど、世界でも有数の蔵書の量って話はよく聞くからね。あそこは色んな人が来てるよ」


 流石に、国の機密事項に関するものはないけれど、歴史に関するものとかは基本的に全て揃っているといってもいいと思う。


 というか、だからこそ、わざわざナガレもアストレアからフィレールにやって来ていたのだと思うし。


 そんな事を思いながら、テーブルの上に並べてあったパフェの一つをパクパクと頬張りながらナガレの言葉に私は、返事をしていた。


 城仕えの魔法師の正装に身を包んでいた彼————ガロンさんに、嬢ちゃんとは知らず悪かったと謝られ、謝罪の印にパフェを一つ分けて貰えたのでご相伴にあずかる事にしていた。


 スペシャル全乗せパフェの名に恥じない具沢山だった。超おいしい。生きてて良かった。


「調べ物がてら、フィレールの王立図書館に寄った時にちょいとこの嬢ちゃんの世話になりましてね」


 確か、調べる為に手に取った書物が一昔前の言語で、解読出来ずにガロンさんが奇声をあげてるところに出くわしたのがキッカケだった筈。


 偶々、練金術の本を網羅する中でそれなりに昔の言語も分かるようになっていたから、手伝った記憶がありありと蘇る。


「しっかし、いつか再会する事があれば礼をしようと考えてはいたが、まっさかこんなとこで再会するたぁな。しかもそれ、うちの錬金術師の正装じゃねえか」


 食べる事に必死だった私は、ガロンさんのその言葉にコクコクと首肯する。


「サーシャの事は、俺が誘ったんだ。うちに来ないかってな」

「あぁ、道理で。でも、そういう事なら錬金術師じゃなくて、魔法師になりゃあ良かったのに。嬢ちゃん結構、筋が良かったからよぉ」


 当時、ガロンさんのお手伝いをした際、彼が何かお返しをしたいと言ってきた時に固辞したものの、頑として聞いてくれなかったのでならばと彼に少しだけ魔法を習った事があった。

 きっと、それ故の言葉なのだろう。


「ガロンさんのその評価は嬉しい限りなんですけど、私は錬金術師になりたかったので」

「……ったく、そういや、前もこんな感じに断られた気がするぜえ。はぁ~~」

「でも、これからはアストレア(こっち)にいると思うので、困った事があれば訪ねてきてくれれば……ぁ、」


 そう言ったところで、ふと気付く。

 確かアリスさんがアストレア城仕えの錬金術師と魔法師の仲はあんまり良くない。

 みたいな事を言ってたっけと思い出す。


「ん。嬢ちゃんもその辺りはもう聞いちまったか。今は特にぴりぴりしてっから、オレは錬金塔にはいけねえなあ。頼るとしても、こうして偶然出会った時に、くれえになるかねえ」

「……そうなのか?」

「殿下はアストレアに帰ってきたばかりなんでまだ聞いてはいないでしょうけど、あれから『ミナト病』についても色々と進展やらがありまして。それもあって、いつも以上に拗れてるんですよ」


 進展があったのに、拗れちゃうんだ。

 すこし理解し難い発言に、疑問を覚えるけれど、それは私だけだったようで、ナガレは、あー……といった訳知り顔を浮かべていた。


「錬金術師側は、軽度の『ミナト病』の症状を和らげる治療薬を作った。んで、魔法師側は、『ミナト病』の原因を一応、突き止めたんだ。ただ、そこから手詰まりなもんで、てめえらがちゃんとしないから先に進まねえじゃねえか!! 状態ってわけですねえ。一応、止めてはいる(、、、、、、)んだが、どうにも、歯止めがきかねえ」


 同僚だろうに、どうしてそんなに仲が悪いんだろうか。

 そんな感想をつい、抱いてしまうけれど、きっと私の考えなど到底及ばない深い訳があるのだろう。


「いや、文官と武官の反りが合いにくい事と似たり寄ったりの理由だぞ。とはいえ、お互いに切磋琢磨してくれるのであれば、仕事に支障をきたさない程度には構わないと父上が許容している事が、最たる原因とも言えるが」


 ……どうやら、原因は国王様にもあるらしい。


「それで、その『ミナト病』の原因ってのは一体なんなんだ?」

「……殿下は、〝ネードペント〟と呼ばれる植物をご存知ですかね」

「いや、知らないな」

「ん、ん! んっ! 私、知ってます! ネードペント! 本で読んだ事がある……というか、あの時ガロンさんが調べていたのも植物に関するものでしたよね」


 直前まで咀嚼していた果物を急いで飲み込みながら、私はその会話にまざる。


 植物に関しては、錬金術の材料になるものはないかと一通り調べていたので、ガロンさんの言う〝ネードペント〟にも覚えがあった。


 確か、全長10メートルほどの食魔植物であったと記憶している。

 魔物を食べる植物ゆえに、食魔植物。

 だから、人間や虫なんかも〝ネードペント〟は一口でバクンといっちゃう危険な植物である。


「おー。よく覚えてんな。嬢ちゃんの言う通り、あの時からオレはずっと植物について調べてた」

「花粉を飛ばす植物がどーのこーのって言ってましたよね」

「花粉を飛ばす……? っ、嗚呼そうか。そういう事か。だから、『ミナト病』は港街の辺りでだけ流行してたのか」

「……? えっ、と、どういう事ですか?」


 ナガレはガロンさんの説明で理解出来たみたいだけど、私にはさっぱり分からなかった。


「そうだなあ。なあ嬢ちゃん。ここら辺と、港街。何が違うと思う?」

「……海が近いか、近くないか?」

「じゃあ、海が近い場所だと何が起こる?」

「そりゃあ、津波だったり、潮風が吹いたり、海に近い地域だと……あ」


 漸く思い至る。

 そうだ。

 港街では、潮風が吹き込む。


 そして、『ミナト病』は港街でのみ流行った病。だとすれば、原因として考えられるのは、


「人に害を与える花粉が、風に乗って来たって事ですか」

「そういうこった」


 百点満点の回答だ。

 そう言わんばかりの屈託のない笑みが、ガロンさんから向けられた。


 恐らく彼は、その為にあの時、図書館で植物について調べていたのだろう。

 なんというか。

 陳腐だけど、凄いなあって感想しか上手く出てこなかった。


「んで、かれこれ百年以上前に〝ネードペント〟の変異種のようなものが見つかったっつー記録がフィレールの王立図書館に残ってた。そこに、変異種の〝ネードペント〟による花粉の影響についてちょろっと書いてたんだが、その症状が『ミナト病』に一致する」


 だから、今回の原因は〝ネードペント〟にあるのだと。


「じゃあ、その〝ネードペント〟を焼くなりして始末すれば一件落着なんじゃ……?」

「と、思ったんだがな。面倒臭え事に、その花粉の量が尋常じゃなくて焼く以前の問題で、そもそも近づく事すら出来ねえんだわ」

「あ……」


 遠くから魔法をドカーン!

 で終われば良いけど、話はそう単純なものではなかった。


 それに、その花粉によって『ミナト病』が発症したにもかかわらず、なんの対策もなくその原因へと近付けるわけがない。


「それで、今は錬金術師達に花粉に対する対抗薬的なもんを作って貰ってるとこなんだが、それがまた上手く進まなくてなあ。もうここ最近は、城ん中はずっとぴりぴりしてんだよ」


 魔法師の中には、錬金術師達を遠回しに煽る奴もいるしな。


 付け足されたその一言で、アリスさんがどうしてあの時、鼻を明かすとかなんとか言っていたのか。その理由に合点がいった。


 ただ、『ミナト病』を解決する場合、問題はその対抗薬的なものだけではない気がする。


「……でも、〝ネードペント〟といえば、魔力に対する対抗が特に強い植物でしたよね」

「まぁな」

「それも、変異種ともなると……魔法師だけでは手に負えない可能性だってありますよね」

「痛いとこ突いてくれるな、嬢ちゃん」


 私の一言に、ガロンさんは苦笑い。

 ナガレはナガレで考え事をしているのか。

 口を真一文字に引き結んだまま、じっ、と黙考を始めていた。


「それも含めて、今は手詰まりってわけだ。とはいえ、錬金術師側が対抗薬を完成させねえ事にゃ、話が進まねえのは事実だけどな」


 そこまで言ったところで、私と同様にパフェを食べながら話していたガロンさんの手が止まる。

 どうやら、テーブルに並べていたパフェを私にくれた分を除いて全部食べ終えてしまったらしい。



 …………早!?



「と、ところで、その花粉のサンプルとかって何処かにありますかね?」

「そういや、嬢ちゃんは錬金術師だったな」


 思い出したように言葉を口にしながら、ガロンさんはゴソゴソとローブのポケットを漁り、小さな硝子の入れ物を私に差し出してくれる。


「偶然にも、ダウィドのやつに渡し忘れてたやつがあってな。これ、嬢ちゃんにやるよ」

「……えっと、良いんですか?」

「錬金術師なんだろう? 別に、ダウィドにも既に結構渡してるし、何よりこれは渡し損ねてた分だ。気にする事ぁねえよ」


 錬金術師長であるダウィドさんを呼び捨て。

 ガロンさんはダウィドさんと仲が良いのだろうか。


 そんな事を思っていた最中、腕に嵌めた時計にガロンさんは視線を落とし、「やべ、もうこんな時間かよ!?」などと叫び、突如として慌てふためく。


「殿下。ちょいとこれから用事があるんで、オレはこれにて失礼させていただきますわ。それと、嬢ちゃん」

「はい?」

「ダウィドやアリスのやつが嫌になったら、魔法塔を訪ねてきてくれや。嬢ちゃんなら大歓迎だ。ガロンに呼ばれたって言やぁ、魔法師の連中なら悪くはしねえはずだ」


 んじゃ、またな!!


 本当に時間が差し迫っていたのだろう。

 ガロンさんはそれだけを告げ、駆け足で店を後にしてゆく。


「にしても、ガロンさんって偉い方なんですかね。ダウィドさんの事も呼び捨てでしたし」


 それとも、仲が険悪って事もあって魔法師は錬金術師の人を呼び捨てたりするのが普通なのかなあ。などと思いつつ、発言した直後、


「ん? サーシャは知らなかったのか? ガロンはあれでも一応、魔法師長だぞ? ダウィドのことを呼び捨てにしてる理由は、ガロンとダウィドが同期の人間だからだろうな」

「…………え゛?」


 当たり前のように紡がれたナガレのその一言は、完全にガロンさんの事をパフェ好きのおっちゃんとしか思えなくなっていた私の思考力をいとも容易く奪っていった。

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