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 異世界に来てから剣を振る毎日だ。


 ラノベとアニメで予習はばっちりの僕、浜和優多はまわ ゆうたの職業は冒険者!

 長すぎない黒髪に黒目の、平均的な身長で勉強はちょぴり苦手な、絵に描いたような、どこにでも居る平凡な高校男児だ。


 学校生活では特別目立ったりしなかったけど、敢えて目立っていなかっただけで、勉強だって本当はやればできるけど本気を出してないだけで、この異世界では、僕が本気を出せばチート能力が覚醒して、英雄になって大活躍する予定だ。


 仲のいい友達はいないから、奴隷の女の子を買って冒険をスタート!行く先々の町で美少女に惚れられて、あんなことやこんなことを……、ムフフなハーレムを作るんだ。


 でも特別に最初のパーティーメンバーは、クラスメイトの大栄小町おおえ こまちさんにしてあげよう。

 水色のロングツインテールで、目はいつも前髪で隠れているけど実は超がつく程の美少女なのだ。

 平均的な身長で勉強は僕よりできる。いつも定期テストで半分くらいの順位にいる。

 無口でクラスでも目立たない地味な彼女なら、僕のいうことを聞くに違いない。

 だって僕は、選ばれた人間なんだから。


 僕はそんなことを考えながら今日も剣を振る。



 執務室では、クレイヘルがブロンと政務官のクロノスから報告を聞いていた。


「召喚の儀で消費した麦の貯蓄はありますが、一度でも天災が起これば我が国民は餓死してしまいます」

 眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、クロノスの切れ長の眼がこちらに向いた。


 勇者召喚には、供物として大量の新鮮な麦を捧げなければならない。

 先祖が創った魔法陣を使った結果、広大な穀倉地帯を向こう百年は何も育たない不毛の土地にしていた。


「備えはあるが、備えの備えも考えなければな……」

 クレイヘルは紙にインクを滲ませる。


「王よ、勇者たちに休養を与えたいのですが」

 ブロンはこのところ、訓練や勉学に身が入っていない一部の生徒を問題視していた。


「彼らは戦いに不慣れで、まだ幼い者たちばかりです。

 王が逸る気持ちもお察ししますが、息抜きも必要です」


 クレイヘルは手を挙げて返事を返す。


「ありがとうございます。彼らも喜びます」


 ブロンとクロノスが退出した執務室ではクレイヘルが一人、椅子に深くもたれかかり、うな垂れていた。


「サクリファイスの呪いか……」



 あれから数日、俺は寝込んでいた。当たり前のように人が死ぬ。殺された命の多さに、その事実に精神を蝕まれていた。


 今日はクラスメイトたちが街に出かける日だ。

 俺はエルザから剣術を教えてもらう段取りになっている。


「悪いなロクロ。街の外なら、より実践的な剣を教えられるのに」

 騎士団の副長である私が用もなく街の外に出ると、それだけで目立つしブロン団長に疑われる。


 城の裏手で剣をぶつける。型を教えてもらいながら、俺の見よう見真似の剣術を修正していく。


「筋が良いな、ロクロ」


 俺の剣筋は見るからにエルザほど鋭くないけど、褒められるとやる気も出るってもんだ。

 さらに何合か打ち合い、剣の稽古もほどほどに魔法について聞いてみる。


「エルザは騎士だけど魔法って使えるの?」


「そうだな。魔法使いほどではないが中級魔法までなら使えるぞ」

 エルザは魔法を詠唱して、左手に土の盾を作って見せる。


「すごいな。俺はまだ中級魔法が使えなくてさ、なんかコツとかあるの?」


「やる気が大切だ」

 エルザはグッと握りこぶしを作って力説する。


「やる気はあるんだけどなぁ。まあ、気長に頑張るよ」


 使用人室に帰って昼食にする。


 お昼ごはんは、エルザが特大骨付き肉を持ってきてくれた。俺は一本でお腹いっぱいになったけど、エルザは三本もペロリと平らげていた。異世界人はみんな大食いなのだろうか。


「ロクロは男なんだから、もっと食えー」


 頬にぐりぐりと肉を押しつけられながら考えごとをしていた。



 今日はこの僕、浜和優多はまわ ゆうたにとって異世界デビューの日だ。

 今日まで剣の訓練ばっかりだったけど、今日は休みだし街に出られる。

 石畳みの道沿いには、レンガとか木造の建物がいっぱい建っている。

 これがヨーロッパってやつなのかな?

 人通りが多いし、荷物を運んでいる獣人の奴隷が多いぞ!これは美少女奴隷に出会える確率も、高いということだな。


 露店を見て回る僕の後ろでは、リア充どもの声が聞こえてくる。


「牡丹ちゃん!これかわいいねー、桜とお揃いっ子しよっ」

 ハート形の髪飾りを手に持つ桜。縦に半分で分かれる金属製の髪飾りだ。


「おじさん、これ頂戴!」


「あいよ。銅貨三枚だよ」

 革袋から丁度三枚、銅貨を出す。


「もぉ。桜ったら、私の意見は聞いてくれないのね」

 牡丹は桜の無邪気さに助けられてきた。こんな世界でも、いつもの調子で安心する。


「牡丹ちゃん、桜がつけてあげるね」


 ググっと、つま先立ちをする桜に、しゃがんでピンクの髪飾りを留めてもらう。


「牡丹ちゃん、かわいいよ!」

 お返しに、もう半分の青色の髪飾りを桜の髪に留める。


「お揃いだね」

 と、ニコニコと笑う桜に牡丹も笑顔になる。


「まいど!」



 露店を後にして、僕は一本入り込んだ奴隷商に向かう。美少女奴隷が僕を待っている。

 両開きのドアを開けて店に入る。


「……いらっしゃい」

 低い声が、フードを被ったガタイのいい男から発せられる。


 なんか怖いな。でも、僕は美少女奴隷が欲しいんだ!


「すみません、奴隷を見たいんですけど……」


「……こちらへどうぞ」

 男はそういうと、カウンター脇のドアを開けた。


 ふむふむ、これが奴隷か。予想通り薄暗い部屋で、牢屋に入れられた男女が目につく。

 それにしても獣くさいし、よく見ると、獣人しかいないじゃないか。モフモフはジャスティスだけど、エルフとか盗賊に攫われた貴族の娘はいないのか。


「どれにする」


 男の低い声が部屋中にこだまする。その声に奴隷たちは皆、震えた。


「うーん」

 と、悩む。おじさんとか、おばさんの獣人ばっかりだし、若くても十才ぐらいの子どもしかいない。

 いくらなんでも若すぎる……、僕はロリコンなんかじゃないんだ!


「僕と同い年ぐらいのはいないんですか」


 フードの男は首を横に振る。


「そうですか、また来ます」


 くっそー!美少女奴隷が居ないなら、異世界に来た意味がないじゃないか。奴隷はまた今度だ。

 おこずかいの、金貨一枚を握りしめる。


 今度は、武器屋にやってきた。かっこいい武器がいっぱある。

 あの赤い宝石と青い宝石が嵌めてある、二刀流の黒い剣なんて最高にかっこいい。

 武器も防具も国が用意してくれるから、買う必要はないけどファンタジー世界を見て回るのは純粋に楽しい。


 街中を回りながら串焼き頬張る。美味いなぁー、これは魔物の肉に違いない。

 ふと、歩みを止める。

 ……しまった、奴隷の値段を聞き忘れていた。もう日も暮れて帰る時間だし、最後にアクセサリーでも買って帰ろう。


 城へと向かうリア充どもの後ろを歩きながら、髑髏どくろ模様のシルバーリングを見てにやける。これが今日の戦利品だ。

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