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6.人間

 魔法の授業が終わり、みんなの後ろを歩く。

 善光彩莉朱(ぜんこう ありす)は見た目こそギャルだけど、所詮はエリート教育を押しつける両親への当てつけでしかない。昔からいつだって私は、人の後ろをついて歩く性格なんだ。


 寮へ帰る足取りに、廊下の窓からは夕暮れに留まる二人が目についた。

 京極君と河原君の二人だ。

 あの二人は碌なことをしないことで有名だ。


 何やらコソコソと何処かへ行くので、私はこっそりと後ろをついて行く。



 私は目が眩む思いだった。剣の使いかたを教えてくれる、あの強いエルザさんが京極君と河原君に襲われていたのだ。


 私は助けるべきか躊躇する。


 顔を何発も殴られて動ける状況じゃない。でも、今二人の前に出ていけば非力な私は何もできずに同じ目に合うかもしれない。

 怖い、嫌だ、見なかったことにして引き返せば、少しだけ変わってしまった日常に戻れる。今までだって見て見ぬ振りをしてきた。この世界に来る前に死んだ彼のことだって、関わり合いにならないように避けてきた、どうでもよかった。


 逃げる私の足は誰かが倒れる音に振り返る。───そこには死んだはずの彼がいた。


 エルザさんを助ける彼に声を掛けたいのに声が出ない。エルザさんを抱えて何処かへ行ってしまう。


 結局、私は変われなかった後悔を抱えて寮に戻った。



 その夜、城の地下牢からはくぐもった呻き声が響いていた。


「グレタ、シュンスケ、貴様らは知らないだろうが」


 ブロンは話し続ける。鎖で吊るされた二人は、複数の兵士に寄ってたかって殴られる。


「我が国、アルクレイヘルでは女性への性的暴行は極刑に値する。

 召喚されて直ぐこれとは、人間としての倫理観を持ち合わせていないのか?

 まあ。だがしかし、お前たちは腐っても勇者の仲間だ。殺しはしないが振る舞いを改めてもらう必要がある」


「……殺してやる」

 歯を食いしばり、京極は憎しみの眼でブロンを睨みつけるが兵士に鳩尾を殴られ息が止まる。


 河原は気絶しては痛みで覚醒し、喋るどころではない。


「反省するまで、そうしていろ」


 朝になるまで、京極と河原は兵士たちに殴られ続けた。



 朝日が射して目が覚めた。まだ朝も早いので、パクったパンを手早く食べて勉強をすることにする。


 【魔法使い初級】を読む。するとなんと、魔法は唱えなくても発動できることがわかった。これを思念魔法と呼ぶらしい。俺が昨日使えるようになったサンダーは思念魔法だったようだ。


 『思念魔法はイメージ力と集中力があれば誰でも使えるので、この程度で調子に乗らないように。』と書いてある。この本の作者は過去に何かあったのだろうか。

 それはさておき、魔法を使うにはいくつかの方法があるようだ。


 『一番簡単なのは魔法詠唱。詠唱しながら魔力を流せば、大体勝手に発動するので魔法を始めて使う子どもにおすすめ。』


 『次に簡単なのが思念魔法。詠唱魔法で具現化した事象の結果をイメージすれば簡単にできる。』


 『お次はめんどくさいが強大な魔法が使える魔法陣。主に魔物の血を媒介にして魔法陣を地面に描き、魔力を流して使う。魔法陣の大きさに比例して強大な魔法を使うことができるが魔力消費量が多いので通常、複数人で行う。神代は魔法陣が主流だったが、手軽に使える詠唱魔法や思念魔法に取って代わられ、今ではあまり使われることのない魔法。』


 思念魔法はもう使えるから、魔法のレパートリーを増やしたいところだ。雷魔法のページを捲る。


 初級魔法が一つしか載っていない。


 『たった一つしか魔法を使えなくて残念だと思うけど、初級といえども魔物と戦うには確殺力のある技を極るべし。』

 と、書いてある。っていうか魔物がいる世界なんだな。ドラゴンが火を噴いたりするんだろうか。


 載っている魔法は『電撃』、いきなり漢字になったな。サンダーとの違いは威力から応用力の幅広さと消費魔力が少ないところにある。サンダーを電撃と同じ威力で使う場合、十倍以上の魔力を要するので上位の魔法を使うのが合理的だそうだ。そりゃそうだ。


 『いかずちを纏い、その力により対象の息の根を止めることができる』

 と、まあ物騒なことが書いてある。電気を流して心停止させるということだろう。



 もうそろそろいい時間だ。今日は生産職が集まる工房とやらに行くことにする。

 今日も今日とて宿舎の影に隠れて待ち伏せる。

 オタクの砂沸さわきが錬金術師だったはずなので後ろをついて行く。



 火の入った炉がいくつもある、辛い暑さの中でガイア工房長が待っていた。


「遅いぞ」

 それだけいうと、ガイアは魔石をいくつかテーブルに並べる。


「今日は魔石を見る目を養う。見ろタクマ」


 砂沸は魔石を手に取る。


「ふむふむ。これはガンデリウム合金に間違いないお!」

 自信満々に銀色の石を掲げる砂沸。


「違う、これは解魔かいま鉱石だ」

 ガイアの剛腕から拳骨が繰り出される。


「痛いでござるよ。師匠~」


 琢磨はオタク魂に火がついて、錬金術に励んではガイアの拳骨を食らっている。


「師匠!見るでござるよ、この剣を!」


 ゴテゴテに装飾された剣を、材料の無駄遣いとばかりにガイアは片手でへし折る。


「師匠~?!ひどいでござるよ。拙者の錬金術はまだまだでござるか?」


 ガイアは熱した魔石を黙々と打っては見事な剣を作り、魔晶石を磨いては美しい装飾を作る。


 男子は剣のできに憧れ、女子は美しい魔晶石の輝きに見惚れる。

 ガイアの背中を見て、やる気に満ちた工房は火よりも熱い熱気に満たされていた。

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