4.魔法
■
魔法職の生徒たちはルーカス夫妻による魔法の授業を受けていた。
「みんなは魔法がない世界から来たって聞いているよ!だから、最初は魔法の使い方から教えていくよ」
「魔法は体の中にある魔力というものを使って、炎や水の現象に変えて魔物を攻撃するんですよー」
魔法の講義はまだ始まったばかりだ。
俺こと、番柄鹿路は魔法の授業に勝手に参加していた。
「まずは魔力を感じてみよう!目を瞑って。全身を巡る血と同じ流れで魔力は流れているよ」
いわれた通り目を瞑って魔力を感じてみる……。体を中に佇むドス黒い力を感じる。
なるほど、これが魔力か。俺は簡単に魔力を感じることができた。
俺以外には、ギャルの善光彩莉朱しか魔力を感じられていないようだ。
善光は世界を牛耳る大企業の娘のくせに褐色金髪ギャルという変わった奴だ。こいつも聖野たちと同じく、見てはいるけど、いじめはしない奴の一人だ。
「う~ん。牡丹ちゃん、どお?魔力わかった?」
桜が尋ねる。
「なかなか難しいわね」
私は勉強はできる方だけど、魔力なんていわれても全然ピンとこない。
サマリが私の手を包み込むように握る。
「えっ、なに?!」
顔が熱くなる。
「まだ魔力がわからないと思うから、まずは私の流す魔力を感じてみて」
手を通して胸が暖かくなる感じがする。
これが魔力?
「ええ、なんとなくわかったわ」
そういうとサマリは微笑んだ。
ルーカスとサマリが魔力を流して回り、全員が魔力を感じることができた。
◇
サマリが魔法の成り立ちを解説し出したので俺は退席して王城探索をすることにした。
初日にも少し探索したが金銀財宝のお宝部屋はなかった。お城なのに夢がない。
歩いているうちに図書室っぽいところにやって来た。
取り敢えず魔法を使いたいので、そういった本を探してみる。
ここの本たちは読む人が少ないのか、埃を被った本が多い。一冊ぐらい無くなったってバレないだろう。
背表紙に【魔法使い入門編】と書かれた本を手に取る。日焼けしたこの本は中々に古い本なんだろうか。
読んでみると、魔法には適正があることが判明した。
一般には適正のない魔法は使えないらしい。
魔法には属性があり、火、水、地、風、雷の五属性が基本的な属性で、一部の人だけが使える特殊な魔法と、癒しの魔法が別枠であるようだ。
先ずは呪文を唱えて自分の適正を確かめろと書いてあるので、外に出て確かめることにする。
ここは、グラウンドを見下ろせる城壁のような場所だ。
日向ぼっこでもしながら、魔法を順に試していく。
火の魔法『ファイヤー』を唱える。
何も起きない、発動しない。
どうやら火魔法の適正がないようだ。
水、地、風と唱えていくが、やはり何も起こらない。
最後に雷の魔法『サンダー』を唱えると、指先から紫電が飛び出して壁に吸いこまれた。
どうやら俺の適正は雷らしい。
通常、一人の人間に使えるのは一つの属性だけと書いてあり、俺はいわゆる普通の人のようだ。
雷の魔法は極めると空から雷を落とせるようになるみたいだ。
天候を操作できるようになるなんて凄いことだ。
入門書には『魔法を使って使って使いまくれ!』と書いてある。
魔法は練習次第で魔力消費を抑えられるから使いまくれということらしい。
雷魔法は五属性の中で二番目に魔力消費が多いと書いてあるので、魔力を無駄遣いしないようにするためにも毎日練習しよう。ちなみに魔力消費が一番多いのは地属性と書いてある。
日がさらに昇り、グランドからは金属同士がぶつかる音が断続的に響いている。キンキンとうるさいが、剣での戦いなんてテレビで見たフェンシング程度のもので、剣の扱い方を学ぶなら今が絶好の好機だ。見て学ぼう。
女騎士と男騎士がお手本で剣を打ち合っているので、その辺に置いてある箒を振る。
ブンブンと風を切る。中々サマになっているだろうか。
女騎士の踏み込みは鋭く、男騎士は構えがどっしりとしている。男騎士の防戦一方に見えて実力は互角なのかもしれない。
二人の動きをとにかく真似し続ける。
昼になり、ごはんを食べにクラスメイトたちが宿舎に戻って行くので、俺は城の厨房から頂戴する。
使用人室でパンを食べながら雷魔法のサンダーについて考えていると、パンが弾けた。
驚いて辺りを見渡すがこれといった原因は見当たらない、普通の使用人室だ。
弾け飛んだパンを見ると黒いコゲができていた。これはサンダーが勝手に発動したんだろうか。
普通にサンダーを使う要領で指先をパンに向ける。
サンダーと念じる……。すると、小さな電撃がパンを焦がした。
やった!魔法は唱えなくても使えるようだ。この先サンダーを唱え続けるのはしんどいと思っていたので楽になる。
新しい発見をしたところで午後の訓練まで時間はまだある。それまで図書館で本を漁るとしよう。
あった!【魔法使い初級】これで魔法が捗るはずだ。ついでに【魔法使い中級】と【魔法使い上級】もパクっておこう。
「あなた誰?」
女の声が背後からしてビクッとした。本漁りに夢中になりすぎていた。
やたらと色白の少し幼い顔立ちに、透けているのかと見紛うほど綺麗な銀髪の女だが、目を閉じているのはなぜだろうか。とりあえずこの場はごまかすに限る。
「あー、俺だよ俺」
よくある手法だが切り抜けるか?
「あなたは召喚された、勇者様ですか」
上手くいったようだが、人を疑うことを知らないのだろうか。高そうなドレスを着ているし、お嬢様とかそんなところだろう。
「あーそう、勇者なんだよ。ちょっと探し物してたんだが、もう見つかったから帰るよ!じゃあな!」
早口でまくし立てて、使用人室まで一直線だ。
一息ついて冷静になると、疑問が出てくる。
気配を消していた俺のことをどうやって見つけたんだろうか。考えてもわかることじゃないが、人によっては俺が見えるというのは不味いぞ。
とりあえず今は考えるのを止めて、午後の訓練をのぞき見だ。時間が迫っている。
魔法の授業は本があるからパスし、午前に引き続き剣術を身につけよう。
倉庫から使われてない鈍らの剣を持ってきたので、より実践っぽい練習ができる。
剣を振り続け、日も暮れてきて訓練が終わり、クラスメイトたちが宿舎に戻るので俺も帰ろうとしたが、京極が不審な動きをしているのが目に留まった。
俺はバレないように後をつけた。