41.どこまでも
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「フーリダを攻め落とすというのか」
ブロンはクロノスの報告書を片手に、もう片方の手を眉間に当てて苦しい顔をした。
「現実的に今の麦の備蓄では冬を越す前に底をつくのは確実です。
民を飢え死にさせることは許されません」
クロノスはどこまでも冷徹だった。
「ブロンよ、致し方あるまい」
クレイヘルは覚悟を決めていた。
「しかし、彼らは魔王に対する切り札ですし……」
面倒をよく見ていたブロンは、まだ若い命を戦地に送り出すことに躊躇していた。
「勇者たちを使えば、こちらの損害も減らせる。諦めてくれ」
民とともに発展を成したクレイヘルだからか、食うに事欠いた王だからか、民を守る王としての矜持がそうさせていた。
「民の命が第一です。そして、勇者たちの損害も最小限になるようにするのが貴方の仕事です」
ブロンに小言をいうのはクロノスの優しさで、それをわかっていてもブロンには難しい決断だった。
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「お前たちの活躍は聞いている。これから向かうのはフーリダ王国というところだ。この国には人族や獣人、亜人と呼ばれる様々な種族がいるが洗脳の魔物に支配されている」
アルクレイヘル城で聖野たちはブロンの話しを聞いていた。
「ダンジョン魔核がフーリダ城内にあり、それを守るために抵抗してくるが殺して構わない」
「殺すって、人を殺すんでござるか……」
砂沸は怯えた声で、顔を引きつらせた。
「洗脳を解く手段がない以上仕方のないことだ。割り切って欲しい」
ブロンは努めて冷静に話すが、全員の恐怖を取り除くことはできないでいた。
「人殺しを割り切るって……、魔物と戦うのも怖いんですよ!」
戦いに恐怖している彩莉朱も珍しく自己主張する。
「怖いのもわかるよ。でも、初めは誰でも怖いものだから大丈夫だよ」
アインが共感を示すも、上辺だけの言葉では誰も安心させられなかった。
「私からもいいか」
アインの隣にいたジェイドが歩み出る。
「てか、さっきからいたけどイケメン君って何者?」
場違いに盛り上がっているのは、愛心の取り巻きの渡会久未と楠明美だ。
「つい先日までフーリダの偵察に出ていたが、獣人と亜人が大半で人族は割合でいうとそんなにはいなかった。
同族を傷つけるのに好ましくない感情を抱くだろうが、悪いのは魔物であって彼らは被害者だ。死なせてやる方が救いだと思わないか」
ジェイドの言葉でしぶしぶ納得したクラスメイトたちに、アインはほっとした。
「今回は軍隊と同行してもうから、そんなに気負わないでくれ」
アインが優しく気遣う。
話しが終わったクラスメイトたちは寮に帰るが、愛心は違った。
「うちはーマジでまだ怖いなーってぇ」
愛心は帰っていくジェイドの腕に抱き着いて媚びを売っている。
「愛心狙ってんの?面食いもたいがいにしなよ~」
同じく面食いの楠は、渡会と笑い合いながら寮に帰っていった。