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37.信頼

「その剣が、おとぎ話の勇者が持っていたものだとしてなんの関係が?」

 よくある正義のヒーローが悪者を倒す、勧善懲悪の児童書という感想ぐらいしか出てこない。


「勇者は死んでしまったんだよ。じゃあ誰がこんな話を作ったかっていうと……」

 俺の横でアルが(たきぎ)をつつく。いいたいことは察しているけど、それを確かめられる人間がいない以上、妄想と一蹴されればそれまでだ。


「レオニウスって人?」

 セントルス教とか、はっきりした名詞があるのがそれぐらいしかない。


「それと、剣王と魔女もだね」

 アルの顔には怒りが張り付いていた。でも、なんでアルが怒るんだ。


「くだらない話だったね。忘れてくれ」

 それっきりアルは黙ってしまった。そうか、アルは…………。


「ありがとう。もう寝よう」

 死んだと思っていた。でも、今は生きていることに感謝している俺が居た。

 アルは恩人だ。それだけは疑いようのない事実で、俺にとってはそれで十分だ。


「優しいんだね」

 テントの中で寝転んだ俺の背中に、アルが声をかける。


「おやすみ」

 俺は寝たふりをする。聞かないこともまた、思いやりだと思ったから。



 もう一週間も待っている。姫もロクロも私が護ると決めていた。奇襲を受けたこともあるが、それでもロクロを死なせてしまったことで、自分自身に失望している。


 あの高さでは間違いなく死んでいる、だけど姫は待つという。


 忠義は尽くす相手の大切なものにまで引き継がれるとは、両親の言葉だ。フォンベル家の生まれながら忠義に値する相手を見つけられなくて、かつての父のように王家に仕えていた。


 そんな私にも尽くす相手が見つかったのに、こんな結果になったことにやるせなさが募る。


「そろそろ食料も水もなくなってきました。一度どこかで補給しないといけません」

 僅かな希望にかけて私も待ちたいが、現実的な計算も必要だと姫の後ろ姿に投げかける。


「なりません。この命は城の一室から抜け出たその時から、ロクロのものなのです。

 ですが、死ぬために生きているわけではありません。

 必ずロクロは生きています」

 なんの根拠もない自信も、姫が言葉にするとそんな気がしてくるから不思議なものだ。


「わかりました。この命尽きるまでお供致します」


 そして、また何日か後の朝焼けの空に懐かしい声が聞こえた。


「ただいま」

 ロゼッタは寝ているのか。


「待っていたぞ……」

 エルザは今にも泣きそうな顔だった。


「ありがとう」

 だから俺は抱き留めた、涙が出ないように。


「本当に……本当だぞ……」

 エルザは、静かに泣き出した。



 しばらくの後、ロゼッタが起きてきた。


「ロクロ!!」

 俺を見るなり、飛び込んできたロゼッタを受け止めた。


「ロゼッタもありがとう」

 こんな俺のことを待ってくれていた二人に、ただ感謝の言葉を口にするばかりだ。


「よかったね、ロクロ」

 横に座ったアルが微笑む。


「あ、あなた誰ですか!?」

 アルに気づいていなかったロゼッタがすごい勢いで俺から離れると、顔を赤くしながら驚きの声を上げた。


「冒険者のアルだよ。よろしくね」


「よろしく…………、アルさん」

 アルの握手をはたきおとしたロゼッタからは、今まで聞いたことのない低い声が聞こえた。


「ロゼッタ、アルは命の恩人なんだ」

 なんで怒っているのかわからないけど、仲良くしてほしい。


「だからなんですか?この女と二人きりで楽しかったですか?」

 なんで俺がロゼッタに詰められているんだ。なんだか知らないけど、機嫌を直してほしいところだ。


「あの……いちおう僕、男なんだけどね」

 照れくさそうにいうアルは声も高いし、確かに一見するだけでは女にしか見えない。


「えっ…………ごっ、ごめんなさい!!」

 驚愕に固まったロゼッタが、もの凄い速さで謝る。


「姫、やはりロクロのことが……」


「わっ!!わーーー!!なんでもないのですよ!!」

 大慌てでエルザの口を塞ぐロゼッタ。


 何をいおうとしていたんだ?……まあいいか。


「エルザにはもう言ったんだけと、アルも一緒に連れていくことにしたから」

 この数日でアルには助けられた。根無し草のアルは落ち着ける場所を求めていた、それに俺は一緒に居ることで応えたい。


「ロクロが決めたことなら、それでいいです」

 仲が悪いのかと思ったら、意外にもすんなりとロゼッタは許してくれた。


「じゃあ行こっか」

 アルが俺の手を引いて行く。そういえば二頭を走らせるのも久しぶりだ。


「ちょっと!手を繋ぐなんてダメです!!」


 今度こそ、フーリダ王国を目指して。


 俺はもう一度、手綱を握った。

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