3.初めての朝
そして、夜が明けた。
太陽の光が小さな窓から射し込んできて目が覚めた。いつもはヒステリックな母親に叩き起こされていたが、この世界では清々しく目が覚めた。
今日から訓練が始まるみたいだし、昨日厨房からパクったパンを食べてから兵士宿舎の影でクラスメイトたちが出てくるのを待つことにした。
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召喚された次の日の朝、フライパンをカンカンと鳴らす甲高い音で目覚めた。
「聖野君おはよ!」
「おはよう。聖野」
扉を開けると、桜と牡丹がもう待っていた。
「おはよう。桜、牡丹。食堂に行こうか」
長テーブルの食堂に着くと、この世界の服に着替えたクラスメイトたちが朝ごはんを食べ始めていた。
聖野たちは当然のように、真ん中に空けられた三席に座る。右に桜、左に牡丹、真ん中には聖野。
「ヒューヒュー朝からお熱いね!!お三方~」
猿渡がいつものように囃し立てる。
「も~猿渡君ったら」
と顔を赤らめる桜。対照的に牡丹は眉一つ動かさない。それに聖野が
「おいおいっ、僕らはそんなんじゃないよ」
というのがテンプレと化していた。
朝食も終える頃、ブロンがやってきた。
「もう朝食は済んだか?全員ついて来い」
そういうなりブロンは歩き出すので、みんなは慌ててついていった。そして城内の大広間についた。
そこには五人の男女が並んでいた。
「魔王軍の侵攻を早期に食い止めるためにも、お前たちには短期間だが適正にあった訓練を受けてもらう。死なないためにも身を入れて励め。まず、職業が戦士系の者は私の部下のアインとエルザが指導する」
二人の男女が一歩前に出る。
「自分は騎士アイン・ハルケンであります。主に集団戦の訓練を担当します。宜しくお願いします。」
ビシッと敬礼を決めるアインは黒髪短髪で、引き締まった体に実用的なライトアーマーを身に着けた好青年だ。
「私はエルザ・フォンベルだ。一対一では負けなしの私がみっちりしっかり、しごいてやるから覚悟していろ」
アインの隣にいるのは金髪長身の女騎士エルザ。凛とした顔立ちに、アインとは対照的に重厚な鎧を着ている。
「次に魔法系の者はルーカス卿とその妻、サマリ大魔導士が指導する」
ローブ姿の二人が前に出る。
「やあみんな!ルーカス・クラベルと!」
「サマリ・クラベルよ~」
男としては長髪の緑髪で、細身の体に一回り大きいローブを纏った方眼鏡の陽気な男がルーカス。
サマリはルーカスとお揃いの一回り大きいローブにハートカットのドレスを着た、オレンジ色のゆる巻きヘアーのおっとりとした女性だ。スケベな男子生徒たちの視線はサマリの谷間に釘付けだ。
「最後に生産系の者はガイア工房長が指導する」
いかにも頑固親父な小柄の筋肉達磨が前に出る。
「ワシがガイア工房のガイアだ」
「えっそれだけ?」
生意気な女子生徒が声を上げる。
「なんじゃ」
ガイアがギロリと睨む。
「えっ、なにもないで~す」
ブロンが咳払いをして話し出す。
「では、戦闘職はアインとエルザについて行け」
「こっちです」
と、アインが手を挙げるので聖野や京極たち戦士職は出て行った。
「次は魔法職だが、ルーカス卿。先ずは座学から頼む」
「わかったよっ!みんな、こっちだよー」
ルーカスとサマリに連れられて、牡丹や桜たち魔法職が出て行く。
ガイアは黙って歩き出すので、生産職の生徒たちは慌ててついていった。
生徒たちが訓練や勉学に励むために出て行って、最後に鵠沼だけが一人ポツンと残った。
「あの~、俺はなにをすれば……」
「お前は詐欺師だったな。うーん」
とブロンは一瞬だけ考えるふりをして、
「お前にできることはないな。好きにしていろ」
と哀れみが顔にでないように、優しい顔でいう。
「そ、そんなこといわれたって……」
鵠沼の顔に不安が滲む。
「お、俺は教師だぞ、俺は偉いんだ……。俺は……」
俯いて暗い顔で鵠沼は一人ぼやき続ける。
「悪いが私も忙しいのでな」
そういってブロンは立ち去った。
アイン一行は昨日も来たグラウンドにやってきた。
「君たちの職業は様々だけど、個々の戦闘技術も当然必要だし、これから冒険に出て死なないためにも協同して戦う必要もでてくる」
アインの隣にいるのは女騎士エルザ・フォンベル。
「先ずは基本戦闘の一対一を教える。全員剣を構えろ」
アインはやれやれと肩をすくめてエルザと向かい合う。
聖野たちも訓練用の刃の潰れた剣を構え、二人の動きを見本に訓練が始まった。
…………京極は河原をしばきながら下卑た笑みを浮かべてエルザを見ていた。