34.罪と罰
「『ロックバレット!』」
今まさに、僕に迫っていた右腕に岩がぶつかって、軌道が逸れた。
「ありがとう、牡丹!」
勇者の剣技はコマンド選択で戦う特殊なスキルで、コマンド攻撃が終わるまで自動で動いてくれる便利さはあるけど、コマンド選択中には隙が生じやすい。
スキル勇者の剣技・コマンド《魔法剣・エンチャントセイクリッド》
「『セイクリッドフレイム!!』」
勇者の剣に聖なる炎を纏わせての一撃。広範囲攻撃で二体まとめて攻撃する。
「オオオオオオオオオオオオ!!」
「グオオオオオオオオオ!!」
火だるまになった二体が、家や建物を破壊しながら逃げだす。
「あっ、おい!どこに行く!!」
ここで倒さないと街は壊れて人が死ぬ。いや、よく考えれば死んでもいいか。
家は破壊され、財産も火に飲まれ、人々は悲しみを抱くだろう。
だけど、その悲しみを超えた先には、とびきりの笑顔が待っている。
そう、笑顔になる準備を今からするんだ。
「牡丹は魔力を温存しておいてくれ、僕が引きつけてたところで一緒に倒すんだ」
「分かったわ」
牡丹を置いて、僕は走り出す。
「あなただけでも行って…………!!」
「お前を置いて行けるか!!」
ギガストロールとギガスジャイアントが暴れ回ったおかげで、街のあちこちで火の手が上がっていた。
あれは、僕とサッカーをした子どもの両親か。
「ゆ、勇者様!!」
燃え盛る半壊した民家で、父親の希望の声を僕は聞き逃さなかった。
「助かったのね……私たち」
母親は安堵の声をあげた。
「コマンド・《翔斬》」
斬撃を飛ばし、離れた父親と母親の首を飛ばす。魔物が来ているのに逃げ遅れている時点で死んだも同然だ。
子どもたちはいうだろう。『パパとママはどこに行ったの?』と、それに僕は、『君のパパもママも魔物に殺されたんだ』という。
辛いだろう、憎いだろう、悲しいだろう、悔しいだろう。
それでいいんだ。時間が流れて街は建て直されて、みんなの心には喜びが溢れる。その瞬間の笑顔には、どれほどの価値があるか。
ああ、両親が死んでくれてよかったと、あの子は僕に感謝することだろう。
「ミツヒコ…………あなた、何をしているの」
振り向けばアンナが驚きと恐怖を混ぜ込んだ、理解出来ないといった表情で僕を見つめていた。
「アンナ、ダメじゃないか。魔物が襲ってきているんだぞ、逃げないと」
「ど、どうして、勇者のあなたが人を殺すの!!」
肩を抱き、恐怖で震えながらアンナは僕に、そんなことを聞いてくる。
コマンド・《一閃》
「残念だよ、僕は君のことが好きだったんだよ」
僕の体は自動で動き、アンナの首を跳ね飛ばした。苦しまずに死ねたかな?天国に行ってもアンナが笑顔でいられるように、君が好きだったパンと同じように焼いてあげよう。
燃える民家にアンナを投げ入れる。
「君の分まで僕は笑うよ。だから君も天国から見守っていてね」
僕は笑顔でアンナにそういうと、走り出す。
適当に派手なスキルを使いながら、ギガストロールとギガスジャイアントに攻撃をする振りをしながら街を破壊していく。
「逃げ遅れた人はいないですかーー」
僕は声をあげながら、助けを待つ人を探す。破壊の現場を見た人が居たら、殺さないといけないからね。
◇
「クソッ、倒しても倒してもキリがねえ」
魔物を倒すのが仕事だが、死んじまったら意味がねえ。この街のためにもギリギリまでは戦いたいが、ロベルトとフィーナを回収して撤退も視野に入れるべきか……。
「おい!浜和、次はどうすんだよ!!」
「建物でも何でもいいから、盾にして戦え!!」
冒険者も駆り出して魔物討伐を進めている。死んでも姫城さんが治してくれるんだ、魔物の数を減らさないと状況は悪いままだ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「グオオオオオオオオオオオ!!」
「うわっ!」
ギガスジャイアントが振り回した腕で、倒壊した瓦礫に咄嗟に身を守る態勢をとる。
「『サンダーウェーブ!』」
僕の背後から聞きなれた声とともに、魔法が僕に向かって放たれる。
「えっ」
電気が体を硬直させる。アマンダ、なんで……。
「金づるとしては立派でしたわ、勇者さま。
メイシー、行くわよ」
「ごめんなユウタ、騙される方も悪いんだぜ」
クソ!!あの女ども、僕を騙していたのか!最初から金目当てだったんだ。
僕みたいな陰キャに優しくすれば、ちょろいから貢がせるのは簡単だったってか!?
憎い、今すぐあのクソ女どもを殺してやりたい。
なのに、なんで動かないんだ僕の体は。
「あっ…………」
瓦礫を避けることなんて無理だった。僕は抵抗もできずに悪意の瓦礫に押し潰された。
ここまでで、復讐の剣は三分の一ほど進みました。ご愛読いただいている皆様のおかげです。
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